32話~軍務卿来訪

治安維持部隊はそれからすぐにやって来た。少し距離を置いて観戦していたらしい。助けに来いよ


一言文句を言ってやると「あんな戦況に我々の様な一般魔術師を参加させないでくださいよ。ハワード卿にグリフィン卿まで控えてるのに我々が割って入るなんて恐ろしくて出来やしません。」なんて宣う始末


うん。その二人が控えてたら怖いのは分かる。だって白兵戦最強と世界最強の射程内に好き好んで入っていこうとする輩の気が知れない


エバンスは最悪死罪かなぁ…。優秀な魔術師ではあったからもったいないが、少なくとも魔術師の資格剥奪と魔術封はされるだろうから、今後は魔術師としては生きていけない


自分の魔術師としてのプライド?的なものに固執するあまり全てを失うなんて馬鹿馬鹿しいよな


早く帰りたい




「ラス。よくやったわ。さすがよ。」



「特A級様から見てどうだったよ。まだそれなりに戦えてたと思うんだが。」



「うん。問題なかったわよ。格下相手とは言え、魔術はしっかり相殺させられてたし、雷魔術の発動速度、威力は流石だったわ。ホント雷魔術って便利よね。無駄な破壊をせずにすむから市街戦向きだわ。」



「特に“超光線”は威力と範囲を絞って使えるからな。重宝するよ。」



「リオンは見ててどうだった?心配でそれどころじゃなかった?」



「そりゃ心配もするよ。だって王子が怪我でもしようものなら怒られるの私なんだからね。だからまぁ、ケガしなかったのは評価してもいいかな。」



「あらそう。よかったわねぇラス。」




ニヤニヤ顔が腹立つぞ




「それより、治安維持部隊に引き渡したんだから早く帰ろう。想定外に本格的な戦闘させられて疲れた。」



「そうだね。レキシーちゃんさっさと家に送り届けてさっさと帰りましょ~。」



「まったく…ひどい扱いだわ。」




楽しそうなレキシー、早く帰りたくて仕方がない俺、少々お疲れ気味のリオンはまた連れ立って歩き出す


レキシーを送り届けて王城に着いたら説教されるのだろうか。そんな心配をしながら


今回の件を受けて、予てからいろいろ打ち合わせもしなくてはならなかった軍務局長官が来たのはその翌日であった


リオンにはしっかり怒られた




「王子。昨晩の件の謝罪と、いろいろな軍務局との最終の詰めを確認するついでという事で軍務長官がお見えです。」



「あ~…、午前中にアポがあったヤツか。しょうがない。会おう。」



「畏まりました。お連れしますのでお待ちください。」



「ここにいるぞ。」



「おや軍務卿。御呼びするまでお部屋でお待ちくださいと申しておりましたのに…。」



「お前に他人行儀にされるのはいつになっても慣れんな。」



「職務上はご容赦頂ければと思います。」



「ふん、堅苦しいやつだ。」




セバスと軍務卿は軍務局入局の際に同期だった間柄でそれ以来約40年の付き合いの仲


両方とも貴族家の家長であり、未だに現職であるため職務中はご覧の様にセバスが堅苦しくしてるが、定時を超えるとそれなりに砕けた口調になると噂だ




「やぁ、ラウリー軍務卿。別に廊下で待ってなくてもよかったのに。」



「お久しぶりですなラッセル王子。部屋に詰めておっても茶などを嗜む趣味はありませんのでな、暇であるだけでしょう。であれば、少し驚かして差し上げようかと悪戯心が働いたのですよ。」



「見かけによらずお茶目だよね、軍務卿は。」



「それほどでも。それは置いておきまして王子、昨日は申し訳ありませんでしたな。我が軍務局の者が大変なご迷惑をお掛けした様で。」



「まぁ、ケガをしたわけでもないから大丈夫だ。今後はない様に局内の規律を保ってもらいたい。」



「勿論。局内の締め付けは一層厳しくしていく所存です。また、下手人は除籍処分の上魔術師資格の剥奪、そして魔力封を施した上で裁判にかけられる予定です。

まぁ、仮にも王族に刃を向けたわけですから、重罪は免れませんな。」



「当然だよ。王子に向けて魔術を放つなんてあの場で私が処刑してもよかったんだ。感情的にも、立場的にもね。」



「グリフィン、お前は過剰防衛が過ぎるぞ。ロイヤルガードである以上、そうなっても何の文句もないがな、可能であれば生かして捕らえる事を優先して考えよ。お前にはそれだけの実力もある。

仮に敵対勢力の送り込んできた刺客の場合は情報源ともなるだろう。徒に殺すものではない。」



「王子に危害を加えた時点で情状酌量の余地はない。」



「まったく……いこじな奴め。いつからこんな盲目的なことになったのやら。」



「まぁ、それで助かってるし、なんだかんだ言って自制もしてくれるから良いとしておいてよ軍務卿。」



「王子も、少し甘すぎやしませんかな。ロイヤルガードの部隊長たるもの、それなりの意識で取り組まなくてはなりません。」



「厳しいね、軍務卿は。」



「王子の、ひいては王族の方々の御身と、国家のためを思えばこそです。」



「じゃあ局内もしっかり統率しなよ軍務卿閣下」



「口が減らんなロイヤルガード一位殿。立場を教える必要があるか、小娘。」



「はっ!私に勝てるとでも思ってんの自称王国ナンバー1剣士様。」



「お二人とも、王子の御前ですぞ。やるなら修練場でやりなされ。」



「でもセバスちゃん!この老いぼれが弱いくせに私に難癖付けてくるんだよ!」



「腕っぷしだけの生娘が吠えおるな。取り立ててやった恩も忘れて野蛮に育ったものだ。」




俺をほったらかしでキャンキャン言い合うのはやめてくれませんかね


謝罪に来たんじゃないのこの筋肉ダルマ爺は




「お二人ともしつこい様ですと私がお相手しなくてはなりませんかな。」



「お前まで参戦しようとするんじゃないよセバス!まったく、軍務局出身者は血の気が多くていけない。

それより、軍務卿は何しに来たのさ。謝罪ならもういいんだけど。」




それなりに暇じゃないんだよ俺も


そろそろティータイムだし




「ああ、謝罪のついでにこの前打診させて頂いた通信魔道具の詰めをと思いましてな。それと、おねがいを致そうと思いましてな。」



「魔道具の詰めはいいとして、お願い…。」



「然様。この小娘の息が荒いのもちょうど良い。是非とも、王子とグリフィンには軍務局の訓練に参加してもらいたいと思いましてな。」



「なんで私が今更軍務局の訓練に参加しないといけないのさ。」



「それは同意だなぁ…軍務局の訓練って魔術だけじゃないし、体術も含まれるから嫌なんだけど。」



「いやなに、真面目に訓練を受けろ。と申しているのではありません。今回の事で局内に王子の強さに対しての驚きが多かったのが、私にとって驚きでしてな。

要は、あの餓鬼どもは舐めとるのですよ。王子や、高位魔術師の力を。

よって、Bクラス魔術師最強たる王子の実力を局内に叩き込んでおく必要を感じた次第。ついでにどつき合い最強のグリフィンの事も。」



「どつき合い言うな。白兵戦最強と言え。ま、でもそれなら吝かじゃないよ。ぼっこぼこにしてやるよ。」



「え…。乗り気なん?」



「王子!王子の事舐め腐ってるクソどもに根性焼き入れてやりましょうぜ!」



「いつになくお口が汚いぞリオン…。まぁ、そこまで乗り気ならいいけど……面倒は嫌だからサッサと終わらせるけどいいんだな。」



「勿論でございます。王子の実力のほどを連中に分からせられるだけで十分です。」




また面倒なことになったねぇ…

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