31話~お酒って、怖いね

負け惜しみのセリフと魔力の高まりを感じたリオンが追撃を加えようとしたところをレキシーが割って入る




「まぁまぁリオン。ここは長官様に任せましょうよ。」



「何言ってんの、レキシーちゃん。正気?王子がもし怪我したらどうすんの。」



「大丈夫よ。ラスもしっかり強いんだし、酔っ払いのただのBクラスに負ける訳ないじゃない。

それに、たまにはラスのいい所も見せてもらわなきゃ。最近なまりまくってるみたいだしさ。」




いや、俺としてはさっさとノシてもらって帰りたいんだが?


いまだ抵抗してるリオンをそいのムダに高い実力で抑え続けるレキシーさんは楽しそうだなオイ




「って訳でラス!がんばりなさいよね!」



「あ~もう!怪我しそうになったらすぐ割って入りますからね!」




なんで戦う事が確約されてんだよ。俺はめんどうな荒事は嫌なんだよ


そもそもリオンが一発加えなきゃよかった話なのになぜ俺が…




「エバンス君や。君もアホじゃないんだから大人しく引き下がってもらえないかね。このままじゃただで済まなくなるよ?」



「うるせぇんだよ…生まれながらにして恵まれまくってたヤツがよ!」




切られた啖呵と共に放たれる水の魔術。威力、制御ともにCクラスってとこか


本来ならBクラス。それもエバンスはB+に相当する魔術師だからその程度のはずはないんだが、タメの短さと酩酊してる影響もあるだろう。精細さに欠けているな


俺も同程度の水魔術で相殺する。一面がびしょ濡れだ…勘弁してほしい




「そんなバッドコンディションで俺に挑んでくるなよ。いや、そもそも挑んでくるな馬鹿垂れが。」



「うるせぇ!お前たちはそもそも貴族とか王族とかの後ろ盾があるから関係ないんだろうけどな!俺達庶民まで巻き込むんじゃねぇよ!

それもこれもお前が一般人共に媚び売っていい顔しようとするからあいつらが調子乗るんだろうが!

俺たちは何も危害を加えたりしてねぇ…それどころかスタンピードの時だって、普段の活動の時だって、体張って守ってやってんだろうが!

それをちょっと偉そうにされたくらいでまるで暴力を振るわれたみてぇに騒ぎやがる…偉そうなヤツなんて魔術師だけじゃなくて色んな所にいるだろうが!職場の上司とかにもよ!

俺達魔術師も、そいつらも偉そうにしてんのはそれに伴う地位と実力があるからだ!俺達庶民出身の魔術師なんてのは努力の結果だ!

なんの努力もせず、ただ妬んでるやつらに文句言われる筋合いはねぇ!悔しけりゃテメェも努力して手に入れりゃいいだろうが!」




酒の勢いってのは怖いな。さすがBクラスと言えるだけの魔術の数々と共に思いのたけをありったけぶつけてくるじゃんか


まぁ要するに、下に見てたヤツらに生意気な口を利かれるのが気に食わないと。そういう事か


あと貴族とか、そういうものにコンプレックスがあるんだな。こればっかりは生まれ持ったものだからなぁ…確かに貴族か否かは魔術師にとって大きなアドバンテージになるから妬むのも分からなくはないが




「そういう時代なんだよ。一般人は魔術的な力も弱いし、俺たちに対抗できるだけのものは何も持ってない。

だからと言って押さえつけるだけの時代は終わったんだ。あり方が変わる時なんだよ。」



「俺たちの努力はどうなる!正当な努力で手に入れた俺たちの特権を蔑ろにして何を偉そうな事言ってんだ!」




こいつは風と水の属性持ちなんだな。水の方が若干得意なのか、練度が高い気がするな


って言うか偉そうって言うか実際相当なお偉いさんなんだが、俺。今までの環境に慣れ過ぎてしまってたが故の変化への不適合か…めんどうな話よな




「もうホントめんどくさいんで…。いったん気絶してもらっていいっすかね。」




こっちもお酒入ってるし、時間も時間だし、帰りたいんだよ。俺は


レキシーが言ってたな。市街地の対人戦が向いてるって…確かにその通りなんだよな


俺の複合魔術は、生命体には実に効果が高い。迸る紫電を指先から走らせて人体を貫く。これで立てたら大したもんだ




「雷魔術…、“超光線(ちょうこうせん)・星(せい)”。」



「………ッ!!」




雷撃の玉を指から発射して対象を貫く魔術、“超光線・星”。雷撃が尾を引くためにまるでビームの様に見えるけど実際は単発の魔術


電気ってのは非常に効率よく生き物にダメージを与えられる。だから小さい単発で十分


エバンスも膝から崩れて動けないよな。でもまだ意識保ってんのはほんとすごいわ。どんだけ頑丈やねん




「すごいなお前。まだ意識あんのか。」



「………っくそ!お前みたいな…ボンボンにも勝てねぇのかよ…。生まれ持った才能がそんなに違うってのかよ…!」



「勝ちたいなら、挑む相手を選ぶべきだ。お前じゃ俺には勝てない。そもそもタイマンで俺に勝てるヤツなんてそうそういないのは分かってた事だろう。」



「勝てりゃいいってもんじゃねぇんだよ!俺の努力を!それを蔑ろにするお前に勝たなきゃなんお意味もないだろうが…!」



「別に蔑ろになんてしてないってば。庶民の出、属性もダブル、Bクラス、お前がどれだけの努力をしたかなんて想像に難くない。

言っとくが、俺も努力してこの力を手にしてるからな?雷魔術ってすげぇ複雑なんだぞ。

炎と、水と、風の複合魔術だ。これだけでどれほど困難か分かるだろう?」



「普通の生まれの奴は…三種類も発現しねぇんだよ…!それだけで、お前たちと俺たちの立つ高さが違う!

もともと目線の高いやつは、低い目線を分かることはねぇ!」




まだ抵抗を見せようとするエバンスの前に雷魔術で威嚇をしてやる




「“超光線”は本当に光線状にして撃つこともできる。嫌だろ?雷撃で体に焼き入れられるのは。下手したら焼き切れるかもな

俺もそこまでグロテスクなことはしたくない。だから無駄な破壊をしない単発の魔術を態々編み出して使ってるんだ。優しいだろ。これ以上手間とらせるんじゃないよ。

お前の言う事も一理あるんだろうが、力づくを挑んで、力づくで抑え込まれたんだ。あきらめろ。」




それ以上、エバンスが抵抗する事はなかった


お酒の勢いって怖いね。本人の言うように庶民から魔術師、それもBクラスに届かせようと思うと相当な努力と才能を有していないと無理だ。だからそれ相応の努力をしてきたんだろう


にも関わらず酒の勢いでこんなアホなことをしでかして


コンプレックスと、自分の努力への侮辱――だと捉えられてしまった――と、おそらくだが、自分の限界みたいなのも感じていたんだろう。それらがない交ぜになった結果の暴走か…


色々な感情がお酒の力を借りて発露してしまった。元からそういった気質だったとは言え、なんとも後味が悪いね


今度は節酒の啓発ポスターでも作ろうかねぇ…馬鹿馬鹿しい

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