30話~お迎えのお時間です
「ん~~~~!おいしかったわ!」
「さよか。それならまぁ、良かったとしておこう。」
夕食を終え、食後のワインを堪能しているレキシーは非常に満足そうである
そこそこどころでなくお高いレストランを予約されたのを知らされた時は呆れてしまった
当然そんな予定はなく、所持金もそこそこ程度にしかもっていなかったので、請求は王城の俺宛にしておいてもらう事となってしまったが…
こういう場面では王族という立場がありがたい。信用という意味ではまさに国家クラスだ
「まぁ、高かったのは高かったが……味は申し分なかった。また何かの機会があれば利用するとしよう。」
「でしょ?ここは貴族の間ではけっこう評判のレストランなのよ。王族様はあまり外食とかなさらなくてもいいでしょうけど、一般的な貴族はこういうところの料理も食べに来るのよ。」
「一般的な貴族が気軽に来れる値段設定じゃなかったが?伯爵レベルでギリじゃないか?」
「馬鹿ね。気軽になんて来ないわよ。たまにしか行けないくらいだけど味が良くてサービスも上等だから話題になるんじゃない。ここに来た来てないで奥方様達がマウントを取り合ったりするんじゃないの?」
「お前も巻き込まれたのか?」
「私は関係ないわよ。そもそも私にマウント合戦しかける意味がないし、もっと言えば私にそんな交友関係があると思う?」
「ないな。お前友達いないもんな。」
「うっさい。お互い様よ。」
お互い特殊な立場だから交友関係は狭い。知り合いは多いが友達はいないに等しい
「……なによ。言っとくけど私たちは友達じゃないわよ。」
たぶん同じようなことを考えたであろうレキシーもこの通りだ
「そうだな……友達、って言うのはちょっと違うな。」
「幼馴染…っていうのもなんか引っかかるし、腐れ縁っていうのもしっくりこないわね。」
「まぁ、なんでもいいだろ。」
実際重要でも何でもないからな
「ラッセル王子、ハワード様。」
「ん?なんだ?」
「グリフィン様がお迎えにみえられています。」
……なんだと?
「レキシー、お前呼んだか?」
「呼んでないわよ。なんで態々私がリオンに連絡しないといけないのよ。レストランから連絡したの?」
「いいえ。私共はおいでになられたお客様の個人情報を外部に漏らすことはあり得ません。おそらく、治安維持隊の駐在所が近くにありますので、そこからの可能性が高いのではないかと…。
王子にお帰りの時間ですと伝える様仰っていますが、どうなさいますか。」
あの過保護ライオンめ。まぁ、いい時間であることは間違いないんだが
「しょうがないわね。リオンが来ちゃったから帰りましょうか。」
「それが懸命だな。」
「では、そのようにお伝えして参ります。」
支配人がリオンに伝言しに行ったことだし、俺達も帰り支度を始めるとするか
「あら~、王子。今日は随分長い外出でしたね。」
「リオン…お前は暇なのか。」
「失礼な。今も絶賛仕事中の身ですけど?」
「……そうだな。」
「まったく、あなたも過保護って言うか、重たいわねリオン。」
「重たくないでしょ~。予定の時間になっても戻られない方がどうかと思うけど?」
「それに関しては反論の余地はないが……態々迎えに来るかね。」
「時間が時間ですからね~。もう22時ですよ、22時。王子様が外出てていい時間を超えてます。」
「それは…はい。申し訳なく思っております。」
「反省なさって下さい。」
「たじたじね、ラス。」
「レキシーちゃんもですよ。」
「え~…私もなの?」
「諸悪の根源が何をいってるの。」
レストランから頼んでいないお土産を渡され、次もまたよろしくと言われ、リオンに連行されて帰ることにする
「さ、レキシーちゃんを送り届けて、たったと帰りましょう。」
「そう急くなよ。食後なんだし、すこしゆっくり行こうじゃないの。」
「そうよリオン。お腹が重たいのよ。」
「二人だけでおいしい思いをした罰だよ。私も誘ってくれればこんなことにはならなかったのに。」
「あなただってこの前食事行ってたでしょ!?」
「あの時はあの時、今日は今日なんです!」
「何よそれ…。」
「っち……どこのご機嫌なお貴族様かと思ったら、まさかの王子様じゃないっすか。」
姦しい二人の声を遮ったのは一般以上にガタイのいい男
俺を正確に王子と認識してるくらいだから魔術関係者か何かだろう
「おや。貴方は長官から自宅謹慎を申し付けられていたはずじゃないんですか、Bクラス魔術師のスティーブン・エバンス君。」
俺の前に立ちはだかるリオンが男――エバンス――に問いかける
例の問題起こして謹慎になってたのはこいつか
「晩飯食いに出るくらいいいだろうが。それよか、随分楽しそうにしてらっしゃいますね。こっちから来られたって事は高級店街からっすか。いいですねぇお貴族様は。」
「不敬だよエバンス君。王族であり特A級長官のラッセル様相手の口の利き方じゃあない。」
「それはアンタもだろうがよ。ロイヤルガード一位さん。」
「馬鹿ね。リオンとラスの関係性だから許されてんのよ。見ず知らずのアンタに許される訳ないじゃない。」
「特A級一位まで侍らしてんのかよ。いい御身分ですなぁ、ラッセル王子。一般市民の私は羨ましすぎておかしくなりそうっすわ。」
「いや、既にネジ飛んでるだろ。どうした、酔ってんのか?」
「酒くらい飲まねぇとやってられねぇよ!せっかくご対面したんだから言わせてもらうけどな!
こちとら血反吐を吐くような必死な思いして魔術師になったってのに、アンタが長官になってからやれ大人しくしろだ、行儀よくしろだ、窮屈でしょうがねぇ…。
非魔術師の連中の顔色なんか窺っててもしょうがねぇでしょう!もともと魔術師なんて特権階級の代表みたいなもんだ。偉そうなんがデフォルトだろう?偉そうにできるだけの地位も、力もある!
むしろそれがあるからこそ魔術師になろうって連中が後を絶たねぇんだ。お貴族様の様になりたいってな!」
「だいぶ酔ってんなお前。俺は酔っ払いをまともに相手する程おバカじゃないんだ。今日の所は酔った勢いってことで見逃しといてやるから、早く帰んな。」
「いろいろ腹立たしいんだよ最近はよぉ!それもこれもお前が長官になって「ふんっ!」ごはぁ!」
話聞かんなこいつと思ってた矢先に叩きつけられるリオンの拳。そして悶絶するエバンス
まぁ、そろそろ実力行使かなぁ。とは思ってたが…警告も何もなかったな…
「不意打ち……。」
「いえ?王子が一応帰れって警告してましたし、仮に不意打ちだとしてもそんな配慮する必要もなさそうだったんで。」
「いや、危機一髪でない限りは一応警告はしろよ?そんな見敵必殺みたいなんダメだからな?」
「ちっちっち。甘いなぁ王子。そんなんじゃ野生では生きていけないよ?」
「生きていくつもりもねぇよ。」
「…こっの……獣人風情が…!」
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