29話~微睡。

「ん………」




お昼も食べてダラダラしていた私たちはいつの間にか夢の世界にいたらしい


立場と比較したら非常に小さい我が家には――それでも一般的には御屋敷という表現が当てはまるのだけれど――それと不釣り合いなほど大きな、そして寝心地の良いクッションを設置している


昼食後のおしゃべりをその上でしたのだから自然の摂理だと思う


いい年の男女が同衾すると聞けばよろしい感じはしないけれども、こいつとはもう10年以上の仲。むしろ私の年齢が一桁。こいつは…ぎり二桁だったかもしれないけど。の時から知っているから今更恥ずかしがる様な仲でもない


偶にふと考えるが、この有能な幼馴染はまぁ…めんどくさい性格をしている


現実を見ているとかリアリストと言えば聞こえがいいのかもしれないけれど、諦めが早いとも言える


彼は十分に有能だ。必死に努力をすれば、Aクラスに手が届くんじゃないかというくらいには


でもそれ以上を望むとなると、正直厳しいものがあると思う。その点、こいつはしっかり自分の才能を見極められていると思う


Aクラスの仲間入りは出来る。―― 一般的に考えると十分な才能なんだけれど――それでも最上位――端的に言うと私―― には届かない


それで良しとするかは本人次第。そしてこいつはそれをよしとできない人間だ。現在の特A級の中にはそれと同じような人物が一人いるけど、彼女は彼女で悩んでいると話を聞いている。もっとも彼女の悩みとこいつの悩みは別なんだけれど


というか、ホントよく寝てるわねこいつは。そろそろ起きないかしら。というか起こそうかしら


という訳で起こす。私だけ起きててもなにも面白くないし、別にこいつの寝顔を見てる趣味もない




「んが……」




顔をバシバシやってたら汚い鳴き声と共に目を開けるラス。寝起き悪そうね




「おはよ。ってか起きなさい。」



「……なんだよ、もう少し優しく起こせよ……。」



「なに甘えたこと言ってんのよ。そろそろ17時だから起きなさい。休みだからって寝過ぎよ。」



「17時…?随分寝てたな…」




たぶん3、4時間くらいかしらね




「それよりも、どうする?今日は帰るの?泊ってく?」



「いや、さすがに泊ってったら怒られるし、明日は普通に仕事があるから帰るわ。」



「そう。じゃあ、晩御飯だけ食べていきなさいよ。って言うか食べに連れて行ってよ。せっかく王子様と一緒にいるんだからいいのが食べたいわ。」



「お前そんなに高級嗜好じゃないだろ。」



「いいじゃない、たまには。」




こいつといると落ち着くって言うか、無駄な気を使わないでいいしね


それに元々食事は一人より複数人でしたい派だから。気を使わないといけない食事はノーサンキューだけど




「あれよ。この前のスタンピードの労いってことで上官様からの慰労を期待するわ。」



「ちゃんと手当は出ただろう。それに、最後の魔術に関しては慰労よりも抗議の気持ちの方が強いんだが?」



「なんでよ。ちゃんと一発で始末したじゃない。」



「だれも一発でやれなんて言ってないだろ。無駄に高威力の魔術行使して後処理が大変だったんだからな。魔力の拡散とか。」



「文句が多いわね。ほら、グダグダ言ってないでシャワー浴びて用意なさい。連絡は私からしとくから。」



「レストラン側も可哀そうすぎるだろ…王族と特A級一位が突然来るって…。」



「ま、その分話題になるんだからトントンね。あ、そういえばさ、シャワーも魔道具なんだからアルキュビアの人にお願いしてもっといいヤツにしてもらえないかしら。」



「あほ。そんなことで他国の人間に借りを作るな。自分で買え自分で。」



「えぇ~……せっかくの伝手なのに。」



「給与は十分貰ってるだろ。けちけちするなよ。」



「分かったわよ。個人的なお願いとして直接交渉してみる。」



「それ全然分かってないからな。きちんと市場で買え。とりあえず、シャワー浴びてくるから、連絡しといてくれよ。」



「しょうがないわね…。あ、あとで私もシャワー浴びるからね。」



「それは好きにしてくれ。」




とりあえず、レストランは超高級なものを頼んでしまおう。私が払う訳じゃないし、新しいシャワーの代わりと思えばやすいもんでしょ


たぶん後で文句を言うだろうけど、ラスは結局折れてくれるし、奇跡的に被った全休の日だし、たまの贅沢をしても罰は当たらないだろう


贖罪という意味ではこの前リオンとだけレストランに行ったラスにこそふさわしいと思う


うん。そういう事にしておきましょう

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