19話~特A級魔術師とは

「指揮官!」



「はっ!」



「部隊を城壁内へ収容して城壁の上からの攻撃を。その後、城下街内の部隊から城壁の魔力強度を上げる為の部隊を移動させてくれ。持久戦の用意を。レキシーでどうにもならなかったら最長で一週間、最低でもレキシーが来るまでの一日は耐える必要がある。交代要員も順次用意させるように。」



「すぐに!」




各主要都市は城壁で囲まれ、その城壁には魔術的な細工が施されている


城壁自体に魔力を流して、硬度を上げる機構だ


現代では戦争らしい戦争は起こっていないが、万が一起こった時は魔術師の攻撃に耐えなくてはいけない。その為にはただ城壁を築くだけではだめなのだ




「やっぱりね。たぶんBクラスじゃだめだと思ってたのよ。」




レキシーが来るまでどう対応しようか。思案しているその人物に声をかけられた




「レキシー!?お前、もう来れたのか!?流石に早すぎないか!」



「あなた達が昨晩ここに向かって出発したって聞いてね。今朝の間に私も向かったのよ。

にしても、あなたも抜けてるわね。現場に行くのはいいけど、行くなら行くで最大戦力の私を後方に放っておいてどうするのよ。」



「それは……そうだな。」




昨日は焦りからそのことに考えが及んでなかった


今考えるとレキシーを連れてくるのは必須だった




「ま、いいわ。私が機転を利かせて単独で来てあげたから、その分の失点は帳消しね。私個人には、その分はまた後日払ってもらう事にするから。」



「前向きに検討する。」




この切迫した場面でもからかう様な余裕を持っている彼女の態度に少しホッとする


やはり余裕がなかったのだろう。初めて本当に危機を感じるような戦場に立っているんだ


焦るなと自分に言い聞かせていても、冷静ではいられなかったようだ




「いや~。レキシーちゃんが来てくれて助かりましたね王子。正直、王子を連れて王都まで全速で引き返す算段をつけ始めたところでした。」



「お前ねぇ……」



「いやいや、これは冗談じゃなくてマジで。ロイヤルガードとしては王子の身の安全が最優先なんで。逃げられるうちに逃げないとって思ってました。前線指揮は指揮官さんに任せて、レキシーちゃんの参戦待ってればなんとかなるだろう!って。」



「それが最善だったかもしれないわね。でも、私がここにいるからもう逃げる必要はないわ。さっさと片付けてくるから。」




いつも通りの調子で、軽く魔獣の群れに視線を向けるレキシー




「待て待て。治安維持部隊と連携を取りながら順次殲滅を…」




俺が計画している手順を話そうとした時には既に、レキシーの両手は正面に向けられ、膨大な魔力が彼女の体から放たれようとしているのが分かった


その魔力は俺が訓練で受けたものよりも濃く、強力なもので、視界一杯に広がる魔獣達が垂れ流している魔力を合わせても尚、飲み込まれるほどの果てしない量だった




「あなたに見せてあげるわ。特A級魔術師の力をね。」




紅く輝いていた彼女の体の中心に魔力が収束されていき、一瞬音が消えたかに思われた後にそれは解放される




「消し飛びなさい!特Aクラス爆炎魔術、“祈龍喉哮灰懲きりゅうこうこうかいちょう”!」




彼女の叫びと共に、深紅の炎の珠が魔獣の群れの中心に着弾する


着弾点の中心に向かって竜巻の様に空気が収束した瞬間、中心に太陽が出現したのかと思う程の発光と共に、爆炎が一瞬のうちに魔獣の群れを全て飲み込み、視界を覆いつくし、抉り取られた地面が宙を舞う


数瞬遅れて、龍の咆哮の如き轟音が我々に耳を覆わせた。とても耐える事の出来ない爆音


それと同時に、天地の全てを揺るがすような衝撃が飛来する。耳を全力で塞ぎながら、全力でうずくまり、全力で目を閉じ、衝撃から身を守ることに全力を尽くす


腹の底から感じる地響きと轟音がマシになったところで目を開けるとリオンが覆いかぶさってくれている事にようやく気付いた


俺を守るために、あの一瞬で動いたのだろう。我が身を守る事だけで必死だった俺とは大違いだ




「……っ。王子、無事?」



「…なんとか、お前のお陰でな…。」



「それなら、よかったよ。」



「二人とも無事みたいね。よかったわ。」



「レキシー!やるなら事前に警告を…」




いきなり特A級魔術を繰り出した目の前の規格外に一言文句でも言ってやろうと視線を向けて絶句する


魔獣に埋め尽くされていた平原は土埃が舞い、炎に覆われて煌々と輝き、その熱量は雲をも消している




「どう?長官さん。特A級魔術は。」




これが世界最高峰の才能。普段は何も感じないレキシーのドヤ顔が俺の胸をささくれ立たせた

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