18話~城塞での防衛戦

翌日、危惧した通りに魔獣の群れが我が国の端の都市、ウェストハイランドで確認される。それも大群といった様相で、見渡す限りの魔獣の姿は正に圧巻の一言との報告がもたらされた


昨日の戦闘を受けて本日、警戒範囲を広げていた治安維持部隊が大量の魔獣のものと思しき足跡を発見。索敵した結果、複数の群れが散見されたという


何を目標にしているのか定かではないが、それらの群れは王都方面へ進んでおり、いずれ合流し、さらに大きな群れとなるだろうとされていた


その大群が遂に視認できる所までやってきたという訳だ




「サイラス。レキシーはどこにいる?」



「ハワード卿は邸宅で待機していると聞いております。昨日の時点で待機指示は伝えておきましたので、いつでも出撃は可能だと思います。」



「魔獣と実際に戦うのはこれが初めてだからな。魔術に対してどれだけの耐久力を持っているのかも不明だ。過去のデータでは個体差がかなりある様だし…。」




素体にもよるし、影響を受けた魔力の濃度や量に左右されて、魔獣の中での個体差は激しい。Aクラス魔術でなければ歯が立たないレベルでないことを祈るばかりだ




「サイラス、リオン。俺たちも現場まで行き、直接確認する。すぐに準備しろ。」




さらに翌日、ウェストハイランドまでやってきた俺たちは、視界一杯に広がる魔獣の群れを街を囲む城壁から見下ろす


とんでもない光景だ。なぜこれだけの数の魔獣が集まるのか




「うわぁ~、これだけ魔獣が発生するのも珍しいですね。」



「リオンは魔獣との戦闘経験があるのか?」



「私は獣人の邑出身ですからね。この国に来るまでは狩猟生活をしてましたから、多少はありましたよ。とは言え、これ程の群れにあったことはないですね~。」



「そうか。魔獣の性質について、資料上では俺も理解しているが、実際との差異はあるのか?」



「基本的には大きな違いはなかったですね。でも、私達が戦ったのはBクラス魔術の影響で偶に発生する内包魔力の少ない、少数の魔獣相手でした。

今回の魔獣がAクラス魔術の所為で発生している可能性がありますので、内包魔力の差がそのまま個体差に繋がるかもしれませんね。」




内包魔力の差がそのまま戦力差になるか


確かに、大きな魔力を用いた肉体強化は少ない場合と比較して強力だ。それが魔獣にも適用されるのは十分考えられる




「ともかく、一当てしないといけないだろうな。強度を推し量る必要がある。サイラス!」



「ここに。」



「治安維持部隊のBクラス魔術師に攻撃させろ。魔獣の耐久力を測る。出来るだけ多くの魔術師が使える、汎用性の高い魔術を使うように指示を出せ。」



「畏まりました。」




指示を出して数分後、治安維持部隊が場外に布陣し、Bクラス炎魔術の“炎礫えんれき”が放たれる




「「「“炎礫”!」」」




魔術師達の掲げた掌から真っ赤な炎の塊が射出される


Bクラス炎魔術“炎礫”。その大岩のごとき炎の塊は着弾点の地面を抉り、衝撃は周囲の物を吹き飛ばし、舞い上がった土埃で視界が遮られ、さながら煙幕を張ったかのようだ。周囲の植物に燃え移り、舞い散った炎は周囲の魔獣を燃え上がらせる


それが計三発。人間ならばひとたまりもないはずだが、土煙の向こう側で体を震わせ、雄叫びを上げる魔獣の姿を確認する


一瞬、倒れて起き上がらない個体も見えたが、群れの波に隠れて既に視認できない


直撃を受けた魔獣は倒せたのだろうが、そうでないものは徒に怒りを買ったようだ




「“炎礫”であの程度か…出鱈目にも程がある!」



「やばいよ王子。あの強度は私が知ってる魔獣の強度じゃない。明らかにAクラス級の魔力の影響がある。」



「ことごとく嫌な予想ってのは当たるもんだな…治安維持部隊の指揮官は!?」



「ここに!」



「レキシーを呼び出す!それまでは魔獣の動きを阻害するように各部隊に指示を出せ!レキシーが到着し次第、フォーカスを合わせて順次殲滅していく!」



「はっ!」




各部隊が指示通りに目くらましや範囲魔術を駆使して魔獣の動きを遅らせる


Bクラス魔術師はそこそこの数がいるものの、大部分はCクラスで構成されている為、やはり決定打となる損傷を与えるには至らない




「勢いがありそうな箇所の鼻先には攻撃魔術を叩き込んで勢いを削げ!土魔術の使える者は防壁を作って進路を塞ぐんだ!」




指揮官が部隊へと矢継ぎ早に指示を飛ばす


攻撃魔術を畳みかけることで、数を減らすことには成功しているが、全体でみるとそれは僅かなもの


危害を加えられ、激高した魔獣たちの勢いは増すばかりだ


進路を塞ぐための防壁も突進力のある魔獣に突き破られ、高さが足りなければ乗り越えられる


狂暴化し、理性をなくした魔獣には炎の壁も効果は薄い


魔獣の群れはもうすぐそこまで迫っている




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