11話~最強の特A級魔術師、レキシー・ハワード

レキシー・ハワード。今目の前で絶対的強者感を醸し出して偉そうにしているこの女性は正に世界最強の存在だ


俺自身、自分の魔術的才能は常人を遥かに超えている自負はある。魔術属性適正も3つ持ち、総合評価もB+。凡人がいくら努力しても届かない程の成功を収めているだろう


そんな俺でも、絶対に敵う事はないと諦め切れる程の差。真の才能の存在を見せつけられた存在。それがレキシー・ハワードなのだ





「何よ。苦々しい顔ね。」



「……別に。お前みたいな規格外の前に立つ気持ちなんてわからんだろうよ。」



「生意気。」




ほんの少しの苛立ちと児戯を込め、明確に、彼女自身の意志で緩められた魔力の栓は修練場を飲み込む


冷や汗ものだ


レキシーの紅い魔力が周囲の空気を蒸発させるかの様に錯覚させる




「相変わらずの化け物っぷりだ。この俺の本気でやっと抵抗できる大きさ……」



「私、あなたの薄紫色の魔力好きよ。でも、ちょっとサボりすぎじゃなの?弱くなってるわよ。」



「言い訳できないのが悲しいな。」




正直、弱くなってるのは間違いない


魔術使う機会なんてそうそうないし、執務しながら魔力垂れ流したりとかしてたら王城内なら誰かしらすっ飛んでくるしな




「レキシーは訓練してるのか?」



「当り前よ。訓練施設なら王都だけでも数か所はあるし、さすがに本気で撃つわけにいかないけど、頑張って弱くしたものなら辛うじて撃てるしね。」



「施設壊したりしてないだろうな…最近は損壊の報告は来てないけど。」



「さすがに強度くらい学んだわよ。でも不便よね。限界出力が高すぎると威力を下げるのにけっこう神経使うの。まぁ、それが訓練になってる面もあるんだけど、その度に思うわ。私達には屋内戦は向いてないって。」




特A級のやつらは総じて魔力出力が高い


そもそもの役割が超大規模高威力魔術で超広範囲の敵を殲滅することだから出力が大きい魔術師でないと選ばれない


そして出力の高い魔術師に共通する苦手分野が出力調整だ


最大出力100の魔術師と50の魔術師がいたとして、20の出力で魔術を使うように指示を出した場合、前者は80%力を抑えなくてはいけないのに対し、後者は約半分の出力を出せる


もちろん正確に数値化する事は困難なため、多少の誤差は発生するだろうが、本来の20%を狙って出すのと、半分を狙って出すのでは、その制御に割くリソースが大きく違う


実際の特A級のやつらと一般的な治安部隊の魔術師との間にある魔力出力の差は文字通り桁が違いすぎるため、必然的に特A級魔術師は弱い魔術を行使する事を嫌う傾向にある


レキシー曰く、調整に神経を使わなくてはいけない苛立ちと、微々たる力の行使しか許されないもどかしさがあるらしい




「ともかく!あなたはちょっとサボりすぎ。定期的に訓練なさい。私もちょくちょく見に来てあげる。

あなたも訓練の時間も取れない程忙しいって訳じゃないでしょ。」



「もう俺が前線に立つこともないだろう……」



「ダメよ。実力はしっかり維持しなさい。」



「じゃあ、普段は私と訓練しましょうか~。私の訓練にもなりますし、せっかくなんで王子に体術をしっかり仕込んであげます。」



「獣人の体術とかマジで勘弁してくれ……」


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