そんな強い外レ者が保護されてるんですか?

 病院の駐車場にいくと大鷲が軽自動車で待っていた。雄介たちが近づくとひらりと手をふって、読んでいたらしい雑誌を片付ける。


 公用だという軽自動車は身長の高い大鷲には窮屈そうに見えた。入る時も出る時も大きく体を屈める姿を見ると、身長が高いのも考えものだ。

 しかし大鷲はそんな苦労はおくびにも出さずに、笑顔で「おかえり」と雄介と双月に声をかけた。

 雄介はただいまと返すのはまだ違和感があって頭を下げるだけにとどめた。双月は視線すら向けないまま後部座席に乗り込んだ。


「このあとの予定は分かっておるよな」


 二人がしっかりとシートベルトを締めたのを確認してから大鷲はエンジンをかけ、車を危なげなく発進させた。バックミラー越しに大鷲と目があう。

 返事をしたのは雄介だけで双月は相変わらず大鷲とは話さない。視線すら向けずに流れる景色を眺めていた。

 そんな双月に対して怒る様子もなく、大鷲は運転を続ける。心の広い人だ。


「質問があったら今のうちに聞いておくれ。ついたらわしはすぐに帰ることになるからの」

「大鷲さんは同行しないんですか」

「側で監視されると面倒だって毎回追い帰されるからの。今回もそうじゃろうなぁ」


 困ったような顔で笑う大鷲を見て、これから会う相手も一筋縄ではいかない相手なのだとわかる。最近緩みがちだった気持ちを引き締めるために雄介は気合を入れた。


「……お前らが保護している側なのに、そんな弱腰なのか」


 話しかけられても無視していた双月が突然そんなことをいう。口を開いたと思ったらこれだと雄介は眉寄せたが大鷲は困った顔をするだけだった。怒った様子はない。本当に心の広い人。いや外レ者である。


「保護しているといっても名目上の話での、力関係でいうとかなり微妙なんじゃよ。本気で抵抗されたらこっちが力負けするから、正確にいうと大人しくしていただいている。って感じかの」

「それ、いいんですか」

「いいもなにも、リン様みたいなのが目の前に現れて、わしらが勝てるわけないじゃろ」


 大鷲の言葉に雄介も双月も口をつぐんだ。大鷲の能力は見ることに特化しており、情報収集が主だという。センジュカの能力は聞いたことがないが、リンには効かないだろうと緒方は言っていた。

 普通の人間である緒方が勝てるはずもない。となれば雄介が知っている特視の面々では太刀打ちが出来ない。


「リン……様、みたいなのがいるのか」


 双月の声がこわばっている。運転する大鷲を睨みつけているがそれは怯えをごまかしているように見えた。


「リン様ほどの存在がそこら辺にゴロゴロしておったら、わしはとっくの昔にしんどるよ」


 冗談交じりの大鷲の声に雄介は思わず息をつく。双月は脅かすんじゃないと言わんばかりに大鷲を睨みつける眼光を鋭くした。


「けどの、リン様の一番弟子と言われる存在はおる」

 その言葉に車内の空気が再び張り詰める。


「シェアハウスに暮らす外レ者は全体的に温厚な性格で人に友好。条件によっては協力してくれるような者が多いんじゃが、それを牛耳ってるのがリン様の一番弟子。クティって名乗ってる外レ者での」

「……ほかは温厚でもボスが温厚じゃないってことか」

 双月の言葉に大鷲はそういうことじゃ。とうなずいた。


「そんな強い外レ者が保護されてるんですか?」


 特視に保護されている外レ者はリンや魔女のように自立できるほど強くない、弱い存在だと資料に書いてあった。

 そういった外レ者を保護し居場所を提供することによって、必要なときに能力を貸してもらう。そうして特視と保護された外レ者は協力関係を築いているらしい。

 しかし、リンの弟子となれば話が違う。対応を間違えればこちらか食われてしまうような相手であることは大鷲の反応から見ても間違いない。となると、なぜそんな存在が特視の保護施設にいるのかという疑問が生まれる。


「リン様や魔女様を見た雄介くんや羽澤の血が流れている双月くんは実感がわかないかもしれんが、先天性の外レ者というのは生まれたばかりは本当に弱いんじゃ。放って置いたらあっさり消えてしまうくらいにはの」


 その言葉に雄介は目を瞬かせた。

 言われてみればそういった話も資料に書かれていたように思う。


「元々名前があり、両親がおり、人間の枠組みで生まれた後天性の外レ者は自我がハッキリしておる。自分が何者かが分からないってことはないわけじゃ」

「先天性はわからないのか」

「丸裸で突然世界に放り投げられて、わけもわからないまま彷徨い歩くと聞いたの。そのうち空腹に襲われるが、人間と同じものを食べてもお腹は満たされず、なにを食べればいいかも分からないまま死んでいくものも多いらしい」


 大鷲の話に言葉を失う。それは随分と過酷な境遇だ。


「クティはの、人間には厳しいが仲間には優しい。仲間が多ければ多いほど人間にとって脅威になると分かっておる。だから弱い仲間を見つけると特視にわざわざ連れてきて保護させる。わしらとしても知らぬところで面倒事を起こされるよりは、目に見えるところにいてくれた方が楽じゃ」

「つまりお互いに利害が一致している」

「そういうことじゃな。じゃからクティが居座ってても追い出せないんじゃ」

「居座ってるんですか!?」


 衝撃の事実に思わず大きな声が出た。双月も目を丸くしている。そんな様子をみて大鷲は苦笑した。


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