男子校に入学したはずなのに、カラフルな女子たちと初詣な件

 俺の家に、黒服の連中が来た。それも、明らかにムキムキで強い人たち。ボディーガードか人さらいを生業としていそうな。


 ユミコから電話がくる。


「今旦那様のもとに護衛を送った。昨日はごめんなさい。」


 とのこと。一足早い甘酒をなんと樽で飲んで泥酔していたのだとか。それで、俺に電話をする際にテレビに俺の番号が映ってしまい、俺が婚約者ということになってしまったらしい。


「お、君たち、やるのかね!?」


「シオリさん、手伝いますよ。」


 俺がユミコと電話している間にシオリさんとカオリがボディーガードを全員のしちゃったけど、良いのかしら。ちなみにルナはこたつで茶を飲んでる。


 まあ、この二人が付いている時点で俺が危険な目にあうことはないな。むしろこのふたりが俺を危険な目に合わせる側か……。


 そんなこんなで身支度をし、家を出る準備が整う。毎年初詣に行っている神社があるのだ。


「三人とも、何してるんですか。早く行きましょう。」


 カオリ、シオリさん、ルナ、三人ともが出てこないのでトイレエレベーターの方に向かって声をかける。これがエレベーターでなかったら、本当にヤバい絵面だよな。


 いや、見た目トイレだから絵面はすでにヤバいか。


「ショタ君、いいかい、女の子の支度には時間がかかるんだよ。」


「覗いたら殺すからな!」


「遅くて悪かったわね。先に行ってなさい!」


 とまあ三者三様の返答をしてきたので仕方ないから先に行くか。


 そう思い、小銭の入ったバッグを背負い、家のドアを開けると……


「バーン!」


 うおっと!びっくりした。アオイか。後ろにはボーイッシュ先輩もいて、二人ともきれいな着物だ。


 アオイのは金髪を引き立てるような藍色。名前はわからないが薄ピンクの花の意匠がある。体系がいつもと違うのは……さらしでも巻いているのか。


 ボーイッシュ先輩は珍しい黄緑色。歌合戦をおもいだすからやめてほしいが、和服美人って感じだ。中性的な万人受けするかわいさがある。


「なんだよ、アオイかよ。それとボーイッシュ先輩も。あけましておめでとうございます。」


 出オチドッキリをかましてくれたアオイとボーイッシュ先輩にそれぞれあけおめを言う。


「おいカヅキ。昨日の黄緑見たぞ。お前これ、ユミコの婚約者とバカであり得なくて言ったやつブッ殺したくなるような勘違いをされて命狙われる奴じゃないか?警戒心が足りないぞ。」


 まあ、中間の物騒な言葉は置いといて基本的には言うとおりだ。


「昨日呼ばれた時点で、初詣にもいくことを予測したのだよ。それで、黄緑を見ながらアオイ君と着付けを先に終わらせていた訳だ。」


 だから昨日結局来なかったんですか。


「ということで、護衛として残念なお姫様、クソ姉貴、金星人は置いといて、うちらと初詣に行こう!ってこと!」


 まあ、護衛してくれるならいいや。ボーイッシュ先輩は(たぶん)普通の人だけど、その分アオイが強いし。


「じゃあまあ、行くか。」


 こうして、若干レアなメンツで初詣に行くことになった。





「こみすぎだろ……。」


「まあまあ、カヅキ君。これもまた日本の文化の一つじゃないか。」


 本来はセレスさん、アヤカさんのレアキャラ二人組と待ち合わせしているはずなんだけど、無理そうかな?


 そう思っていると、まわりのひとの身長が一回り高くなった。


 え、いや、なんで。


「なんじゃこりゃ!」


 アオイとボーイッシュ先輩は今まで通りの身長だ。もしかして、逆に俺らが縮んでいるのか?


 周囲の人たちはどんどん高くなっていき、しまいには顔の目の前にみんなの下駄やら靴やらが……って、これ、俺ら以外の人間が浮いてるのか!


「見つけました!」


「おーおーこないだウチのお店に来てくれた二人と……か、カヅキちゅわん!?」


 そ、そうだ。アヤカさんもいるのに女装を忘れてしまった……これはまずい!


 焦る俺をよそに、俺の体にペタペタ触ってくるアヤカさんは、


「男装しても似合うだなんて、さてはかわいいな!?大丈夫!お姉さんはよーくわかってるぞ!着付けができなくて恥ずかしいんだな!?」


 と斜め上の勘違いをしてきた。よくもまあそういうトンデモ思考回路が成り立ちましたね。自分で言ってて不審にならないんですか。


 とまあ合流できたところで、おそらくセレスさんの魔法の力だろう、周りの人がどさどさっと落ちた。


「それに、黄緑見たよ!今までと違って、男装の方がいいかもね!」


 いや、こっちがデフォルトなんだが、もういいや。それで。めんどいし。


「ってか、なんで女子の恰好じゃないほうがいいんですか?」


「だってほら、ネットに顔が出てると、そういうの大変じゃん?」


 セレスさんがアヤカさんに目配せされてスマホで俺の顔写真を見せてくる。おそらく、学校で盗撮されたのだろう。っていうかなんであんたは異世界から来てこんな短い時間でスマホ使いこなしてるんだ。


 ちなみにこの二人もやっぱり着物……?ではない。アヤカさんは、今度メイド喫茶のイベントでやると店長が言っていた和メイド服。メイド服と和服の融合のようなキテレツな服だ。


 セレスさんは先日行った異世界の正装を無理矢理和風に作り直したような構造。


 周りの人が落下の衝撃でほとんど気絶させられていなければ、それはそれは大注目だっただろう。


 この事件が昼のニュースで取り上げられて頭を抱えるのは数時間後のことだが。


 悲しいかな、盗撮程度には慣れっこになってしまい、二人の服の感想を考えた俺だが……。


「待った。そもそも、これは何のホームページなんだ?」


 割と大事なことを聞き忘れていた。


「えっと、『人間国宝、生きた世界遺産、麗しき佐藤カヅキ様を守ろうの会』のホームページです。」


「私も会員だよ!」


 アヤカさんまで……。


 どうやら、知らないうちに(自意識過剰な言い方だが)ファンクラブのようなものができていたらしい。ネット怖い。


「総会員数なんと2000万人突破!会長であり創始者でもある『Yui』さんは半年ほど前まではここら辺に住んでいたらしいですよ!」


 もうなんか勝手にしてくれ……。俺にだけは危害を及ぼすなよ。


「それにしても、2000万人ってすごいやカヅキちゅわん!YouTuberでもやったらおお儲かりだと思うよ!」


 嫌だよいろいろ怖いし。てか、2000万人って、日本の約六人に一人が登録してるってこと?大丈夫かよこの国。


「登録者はアメリカ、オーストラリア、ヨーロッパ諸国、中国にインドと多国籍!カヅキちゅわんは世界中で愛されてるんだね!」


 もう人間という生き物なんて知らん。キモイし怖いし帰りたい


「顔色が悪いぞカヅキ?早く初詣済ませようぜ。」


「正月から縁起が悪いな。はやく帰ろう。」


 さすがに今の話にはドン引いたアオイとボーイッシュ先輩が声をかけてくれた。本当は今すぐにでも帰りたいけど、今年こそ神様にまともな年にしてもらわなければ。下手したら留年、悪いと退学になりうるからな。


「あれ?皆さん、こんなところで何を……?」


 嫌な予感がして振り返ると、深紅の和服を着たマキ先生までいた。勘弁してくれよ。

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男子校に入学したはずなのに、クラスメイトがどいつも女子っぽすぎる件 怪物mercury @mercury0614

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