男子校に入学したはずなのに、女子とこたつを囲んで大みそかな件

「明日も来るわね。」


 そう言って俺が作ったカレーを食べたユウキが帰っていった、次の日。


 12月31日。大みそかだ。おせちを作るのはカオリでなくても無理なので頼もうとしたら、ビデオレターという旧時代の遺物と共におせちが届いた。


 送り主はユミコだ。家の仕事やらなんやらの関係で年末年始は忙しいからと送ってくれたらしい。そのビデオは昨日の夜に取ったものらしく、隣ではユウキが縛られて転がされていた。


「本当は家の仕事がある。昨日は脱走していた。」


 とのことだ。


「ちなみに、厄介払いできたとか考えていると、天罰が落ちる……。」


 あいつ、未来の心まで読めるように……!?


 ……何も起きなかった。


「訳じゃないけど、考えないように。」


 コノヤロー……!


 さて、ユミコとユウキは欠席で、レイナも珍しく来ていなかった。


「今日はお父様方全員と会える日ですのぉ!」


 などとわかるようなわからないようなことを言っていた。そういや俺、あのミンチ女に正月は帰ってくるようにとか誘ってすらもらえなかったなぁ……。


 遠い目をしていると、フウリさんが、


「今日はお姉ちゃんと二人きりで過ごしますので……。」


 とどこかへ行ってしまった。どこに行ったのやら。


 そして俺はカオリ、シオリさん、なぜかルナとこたつを囲んでいた。


「何であんた仏頂面なのよ。」


「お前には言われたくねぇ……。」


 基本的に俺とこいつはたいして仲良くないが、今日のルナの不機嫌具合は絶好調だった。


「何でこの一週間は練習が禁止されてるのよ。まったく、強豪としての自覚が足りないわ。」


 こいつは現在、地球への金星大使という扱いで地球に来ているらしいが、見ての通り目下任務をほっぽり出してチアにご執心だ。


「仕方ないだろ。正月なんだから。」


 と言ってはみるものの、こいつとしては練習ができないのが気に食わないらしい。


「正月?何のイベントだか知らないけど、そんなのに参加している暇があるなら外部の体育館借り切ってやるわよ!」


 とか言い出した時には本気でどうしようかと思った。もちろんながら年末年始なので体育館は全滅だったが。


「ほら、ルナちゃん。これをお食べよ。」


 シオリさんが年越しそばを差し出す。打ったの俺ですけどね。


「ありがとうございます。これ、地球名物おそばってやつですよね!?」


 ソバはそんなにグローバルなものでもないと思うが、何を持って金星人はこれを地球名物としているのやら。


「おいしいーっ!」


 誰だお前。そういわせる程度には笑顔を浮かべたルナは……チクショウ、こいつはやっぱ腹立つけどかわいいんだよな。特に、なんかいいことあった時の笑顔。


「コレ、もう一杯ください!」


「だってよショタ君。」


「今ので最後だったんですが……」


 正確に言えばそば粉はあるが、面倒くさすぎる。いくらなんでも。


「え、え!?こ、コレって、カヅキが打ったものだったんですか!?」


 悪うございましたね。


「べっ、別に、感動とかしてないからッ。」


 ったく、こういう時に顔を真っ赤にするのは反則だろ。


「なあカヅキ。なんでうちのこと空気みたいに扱うんだ?」


 いつものポニーテールを解き、日に焼けて茶色くなった髪をこたつの上に広げている毛玉のような生命体Ⅹが話しかけてきた。


「いや、お前にしては珍しく静かすぎて、怖くて話しかけられなかったんだよ。」


 これは本当だ。昨日もいつの間にか帰ってきて寝ていたみたいだし、話しかけられなかった。調子狂うな、まったく。


「うるさい。なんか話しかけろ。」


「じゃあ聞くけど、お前、昨日どこにいたんだ?」


「公園。」


「何してたんだ?」


「ブランコ。」


 シュールすぎる上にどうしてそうなった。普段のお前ならひもなしブランコだろうに。


「そ、そうか。ルナがうるさくなるとアレだし、ソバ打ちなおすから、カオリも食うか?」


 コクっと生命体Xが頷く。


 俺はシオリさんが用意していたそば粉の大袋をボウル……だと小さいので風呂場に持って行き、一気に作り始める。これ大変なんだよなぁ……。


「シュガー、手伝う?」


 いつの間にか来ていたヒカル先輩に対するツッコミをする元気もでない。


「お願いします……。」


 なぜか汗だくだったから断りたかったけど、俺もう腹いっぱい食べたしそばになんか混じってもいいか。


「何でそんなに汗かいてるんですか。」


 俺もこねているうちに汗をかいてきたが、ヒカル先輩のそれは尋常ではない。まるで、踊った後の……よう……な……。


「踊ってたの!」


 ですよね知ってた。


「大体、踊ること自体リラに禁止されてませんでしたっけ?」


「そうだっけ?覚えてないけど、楽しかった!」


 この人、俺たちと同じ代には卒業できるのだろうか……。いや、俺も人のことは言えないけどさ。


「いま、踊るって単語が聞こえたわよ!先輩!踊っていらしたんですかっ!?」


「そうだよー!楽しかった!」


「今からもう一度行きましょう!」


「いいね!」


 二人そろってドタバタ走って消えていってしまった。


「あらあら。さみしくなったねぇ。」


 俺がこの量を一人でこねているのもばかばかしくなって手を休めていると、シオリさんが来た。そのまま、ゴッショゴッショと風呂全体のそば粉をかき混ぜている。


「今アオイちゃんとボーイッシュちゃんも呼んだから、そろそろ来るよー。」


 せっかく静かになったのに。


 もう諦めてそば粉はシオリさんに任せ、いまだに謎の生命体X状態のカオリのところに行く。こたつに潜るとカオリが話しかけてきた。


「なあカヅキ。」


「なんだ?」


「ウチの部屋掃除したんだって?」


 ギクゥッ!?


 こ……殺される!こいつは自分が女の子っぽいところを見られると殺そうとしてくるんだ。いつもそうだ。殺される……!


 しかし、カオリはいつもと違い、少し考えた後に、


「ウチの部屋見てどう思った?」


 などという普通の女子高生みたいなことを聞いてきた。これが普通で合っているのかはともかく。


「き、きれいだったと思うよ?すごく、似合っているんじゃないかな?」


 さあ、こぶしか蹴りか、投擲か!?飛んでくるなら飛んでこい!


 ……。


 ……。


 ……飛んでこない……だとっ!?


 恐る恐る目をカオリの方に向けると、真っ赤だ。酒でも飲んだか?


「に、似合ってるか……カヅキはああいうのが好みなのか?」


 なんか一人でごちゃごちゃ言ってるし。


「いや……お前も俺が女子嫌いなのは知ってるだろ。ああいうのは別に……。」


 うっかり素で答えてしまうが、カオリはあきれ返った目でこちらを見てくる。


「おまえ、今の自分の状況を顧みて女子嫌いだって言えるか?」


「……言い……たい……。」


 来年は女子運がよくなりますように!

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