男子校に入学したはずなのに、女子と恋バナ大掃除な件

 いろいろあった……はぁ、本当にいろいろあった一年ももうすぐ終わりな12月30日。今日は、カオリいわく最後の大掃除の日らしい。ということで、俺とカオリとフウリさんとシオリさんで家の掃除を……しようと思っていたのに、カオリが脱走して三人になった。


「あいつどこ行ったんだ……。」


「こないだの自分が大胆すぎて真っ赤になってるんだって。」


「シ、シオリさん!?それはカヅキさんに言ったらまずいんじゃ……。」


「ショタ君はどうせ鈍いからバレないバレない。」


 なんか貶されている気がするが、実際に二人が言っていることが何言ってるのかさっぱりわからないから仕方がない。


「それじゃ、仕方ないのであいつの部屋以外掃除しますよー。」


 俺が二人に声をかけると、二人はそれぞれ右と左のスリッパを持って俺の頭をはたいた。痛いんですけど。


「ショタ君はカオリちゃんの部屋をやってあげるっていうのは?」


「日ごろからお世話になっている感謝ですよ。」


「はあ……。」


「大丈夫です。カヅキさんには私もお世話になっていますから、お部屋の掃除はわたしがやっておきます。」


 お世話になっている相手の頭をスリッパではたくとは斬新だな。


「じゃあ、カオリの部屋を……。」


 そう言ってカオリの部屋を開けた俺は口をあんぐりと開け、そのまま閉じる。あいつは昔からガサツなタイプだった。確かに部屋をごちゃごちゃにすることはよくあった。


 誰のものかわからない血のりとか、明らかに本物の拳銃とかいろいろ転がっていた。去年までは。


「これ、レイナの部屋でしたっけ?」


 カオリの部屋というよりは女子力だけは高めのレイナの部屋じゃん。誰だよこの部屋の持ち主。


「カオリちゃんの部屋が片付いている、これがどういうことかわかるかい?ショタ君?」


 さっぱりわかりません。去年の俺なら「UFO召喚の儀式」とか言っていただろうが、今は違う。


「ズバリ!レイナに掃除をさせたんですね!?」


「はいはずれ。」


「実はワープホール的な感じでレイナの部屋につながっていた!」


「無理して科学っぽく語らなくていいから。」


 俺がちらっとフウリさんの方を見ると、


「超能力や幽霊系でもないですよ。」


 と言われる。


「じゃあ、レイナが……?んん……?」


「いったんレイナちゃんから離れなよショタ君。」


 まったくわからない。カオリが部屋をきれいにする理由……?ついに殺しに手を染めて……?


「女子が部屋をきれいにするなんて、理由は一つしかないですよ!」


「そうだよショタ君!女子が部屋をきれいにするってのは、つまり恋だよ!」


 はぁ!?


「じょ、女子じゃあるまいし!」


「ショタ君、カオリちゃんは紛れもない女子だよ!」


 そんなことより……


「あいつが恋って……まさか……。」


「そうそう!心当たりが一人ぐらいいるでしょう!?」


「アメコミのハルクですか!?」


 確か昔、手合わせしたいと言っていた気がする。


 すると、またフウリさんとシオリさんにスリッパで頭をはたかれた。


「さすがに、同じ女子としてかわいそうになりますよ!?」


「そうだよそうだよ!」


「……待ってください。フウリさんの精神年齢も、シオリさんの実年齢も女子っていうには……。」


 ばきぃっ!


 カオリのより数倍痛い鉄拳制裁が下る。そういやシオリさんはカオリより強いんだっけ。今のは物理的なモノより、思いの力的なのが加わっていた気がするが……。


「そんなことより、あいつが恋に落ちているってことの方が心配です!」


「お、やっぱり嫉妬かい、ショタ君!?」


「相手が恋じゃなくて地獄に落ちてしまいます!」


「もう鈍感とかを越えてますね……。」


「もしかしたらあいつの片思い相手の人がいる町が壊れているかも……。」


 被害総額いくらだ!?今でもたまに赤字が出るのに……。


「相手方はすごい丈夫な人だっていうし、大丈夫だと思うよ。」


「しょっちゅう食らっているイメージがありますからね……。」


 なんだそいつ。カオリの打撃に耐えられるなんて、相当な人生を送っているな。耐久力おばけかよ。


「はあ……安心しました。」


「カオリちゃんが他の男に取られてなくて?」


「というか、今のところ賠償請求が来ていないからですね。」


 俺の財布的に今来たらヤバい。この前のクリパでの出費は特に痛かった。ユミコからもらったものを転売することで何とか持たせるつもりだったのに。


 がしゃぁん!


 話がひと段落したとき、誰かが窓から特殊部隊の突入みたいにして入ってきた。拭いたばかりの床にガラスをまき散らして。


「助けてシュガー!遊び相手がいない!」


「たった今床掃除というお仕事が発生したんで無理です。」


「私とフウリちゃんはこれから地下のお掃除に……。」


 シオリさんがフウリさんを担いで下に行こうとする。いじめかよ。


「みんなひどい!じゃあ、シオリさんの地下の掃除手伝いますから!」


 ヒカル先輩もかわいそうに食い下がる。ってか、今シオリさん口の端っこニヤってしませんでした?あそこ散らかってますし……。


「そう?でもなぁ、二人一組でやりたいから、どうせならボーイッシュちゃんも呼んでくれる?」


「はーい!」





 10分後……。


「なんだいヒカル。急に呼び出しって……げ。」


「げ、とは何だいボーイッシュちゃん!こっちにおいで!ぐへへへへ先輩命令だよ?逆らったら引ん剝くから!」


 今どき言ったらパワハラ、セクハラ、エトセトラで訴えられそうなセリフを平然と吐きつつ、ボーイッシュ先輩を地下につれていく。フウリさん、ヒカル先輩とセットで、三名様ご案内でーす。


 バイトのクセで復唱する癖が嫌になりつつも、掃除をしようと塵取りを手に取ると、


 ぴんぽーん!


 今度は玄関のチャイムが鳴った。カオリなら鍵を忘れたらドアを引きちぎるし、アオイなら勝手に作った合鍵ではいってくるから、郵便かな?


 そう思って開けると、ユウキだった。


「ごめん今忙しい。」


「ちょっと待ちなさいよ!掃除を手伝ってあげに来たのよ!」


「今からお茶でもお入れしましょうか?」


「手首が痛そうな掌返しね……。」


 そう言って、素直にユウキに掃除の手伝いをしてもらった俺は、


「お夕飯作ってあげるわ。」


 というユウキを無理矢理止めて、自分で料理をすることにした。


 地下からは、一足早い除夜の悲鳴が聞こえてきていた。

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