男子校に入学したはずなのに、クリスマスは二日連続デートな件

 俺の暴力系幼馴染は、たまに……というかかなりの割合で狂気的なアクロバティック暴力を披露してくる。これは今に始まったことじゃない。


 けれど。顔を赤らめて、、照れた顔をしながら抱き着いたりしては来ないのだ。普段は。


「なあカヅキ……こういうの時って、大体クリスマスデート中に雪が降るよな?」


「ここ関東南部だから滅多にないと思うけどな。」


「それで、そういうときに一緒にいるカップルがそのまま結ばれちゃったりするよな?」


「高1から結婚まで行くのなんてそんなにいないと思うけどな。」


「う、うちらもそういうことになっちゃったりしたら、どうするよ?」


「(もうどうでも)いいんじゃね?」


 俺が最後に返すと、カオリは顔を赤らめてキャッ!と言って抱き着いてきた。本当に今日のこいつはどうしたんだ。何を拾い食ったのか。拾い食いしたもののメニューを教えてほしい。


「なあカオリ。なんか今日接触多くないか?」


 あまりにも疑問に思って指摘してみると。


「も、もう、そんなわけないでしょ!カヅキのバカ!エッチ!」


 本当に誰だこいつは。


「す、すまん。ちょっとお手洗いに……。」


 俺はいったんカオリを引き離してトイレにこもると、シオリさんとユミコとの三人のグループライン、「困ったときの相談所」にラインをする。シオリさんが科学担当、ユミコが超能力担当のアドバイザーのようなことをしてくれる、ありがたいシステムだ。


「カオリの様子がおかしいです。超能力、あるいはこの前の百合ゾンビのような、科学による干渉はないですかね?」


 と送ると、俺のことを監視でもしているのか、すぐに返ってきた。


「ショタ君はもう少し身近なところに目を向けてもいいと思うよ。」


「旦那様は鈍いから、少し心配。」


 と、なぜか俺を心配するような文章が。いや、今心配するべきは俺じゃなくてだな……。


 今更ながらだが、ここはショッピングモール。


 最近じゃデートと称してここに拉致してくるのが流行りのようだ。っていうか、ほかに高校生が行くようなところがあまりないってのもあるけどな。


「わりい、少し遅くなった。」


「大丈夫だぞ、心配しないで。」


 本当にお前は誰だ……。以前みたいにフウリさんのような幽霊が付いていることも可能性として考えたが、それもユミコにさっき相談した感じだと違うのだろう。


「なあカオリ、今日は一体どうしちまったんだ?様子がずっとおかしいぞ?」



「そ、そんなことないよー!あははは!」


 笑ってるのもなんかわざとらしいし、顔赤いし、相変わらず密着してくるし。カオリはほかのメンツに比べて、圧倒的に密着されて困るものが小さいので、別に問題ないっちゃないけどさ。


 ちなみに、同じくらいのサイズ感としてはユミコがいるが、そもそも男子高校生があのサイズに密着されていたら犯罪である。


 ガスン!


 見えない力で殴られたが、さすがにユミコじゃないだろ。


「なんか困っていることがあるなら言えよ?これでも、一応幼馴染なんだし。」


 一応だけどな。本当に一応だけどな。


 以前も言った気がするが、こいつは強がっているだけで相当なさみしがり屋でもある。もしうっかりかまってほしがっているところを放置して……震えが止まらないね。


「ふぇっ!?い、いや、悩みとか……何にもないでしゅ……。」


 本当にこいつはどうしたんだ?


 今日はクリスマスでショッピングモールには人も多い。カップルや家族連れなど、その種類も様々だ。


「もしかして人にでも当てられたか?少し休憩できるところに行こうか?」


「ご、ご休憩は二時間から!?」


 何を言っているんだか、さっきからさっぱり話が通じない。


「なあカオリ。少し落ち着けよ。どうしたんだ?」


「じ、実は今日ね、というか今年中に告ることを決めまして……。」


「告白?お前、また何か壊したのか?」


 こいつの言う「告白」とは、「罪の告白」の方の告白である。小さいころからありとあらゆるものを壊してきたこいつは、持ち主に謝ることを告白と言ってジョークにしてきた。


 そしてたいてい俺もそれに付き合わされて被害に遭ってきた。


「わかったよ。俺も一緒に行ってやるから、どこのどなたに謝りに行くのか、きちんと教えてくれ。」


 高い物じゃないといいなぁ。あと、怖い人じゃないといいなぁ。


「その、いつものじゃなくて、今回は……。」


 カオリがどもる。いや、キャラじゃないだろそういうの……。さっきは密着されても問題ない、というが最近女子が大丈夫になってきたせいか、こいつのこういうところがやたら気になる。


「いいっていいって、きちんと付き合ってやるから。」


「つ、付き合う!?まだウチは告白してないだろうがバカ!」


 ぼきぃっ!


 俺が言ったことのなにが変だったのか、かなり強めに殴られる。左舷上腕骨大破。


「なんかきょうようすがおかしいぞ?」


「そ、そうだカヅキ、今日は25日だろ?本当は大みそかに大掃除ってやっちゃいけないんだぜ?だから、掃除機買おう!そうしよう!吸引力が落ちないやつ!」


「ウチにそんな金はねぇ!」


 急に話題を変えてきたカオリに切り返す。


 すると、急に後ろから、


「カオリお姉様、また逃げましたわねぇ。」


 という聞き覚えのある誰かの声が聞こえた気がした。


 ……振り返っても誰もいないが。


 というか、周りに人が誰もいなくなっている。さっきまではあんなに人がいたのにだ。


「な、なあカオリ。周りに人が……。」


「見て!カヅキ!」


 俺の言葉を遮ってカオリが指を指したさきには……。


「……すっげぇなこりゃ……。」


 でっかいクリスマスツリーだ。どうやってこんなところに運び込んだのか謎なぐらい。ここだけ天井もなくなってるし。


「ここで写真撮ろうよ!」


 自撮りするためにカメラを置く台があり、カオリがはしゃいでいる。クリスマスツリーに金色の文字で


「Saionji Presents」


 と書いてあるのはいただけないが、そこは目をつむろう。


「カヅキ!雪だ!」


 今度はカオリが上を指さし、見上げてみると白い粉が降ってくる。なんかユウキのRTXを連想させてやだなぁ。


「今日は天気予報で晴れって言ってたし傘持ってないぞ。」


 俺はいつも天気予報をチェックしている。うちの同居人、居候どもは家事を一切分担しないんで。


「いいじゃん、そんなことより、写真とろうぜ!」


 こうして俺とカオリは写真を撮ることにした。なんか写真に幽霊みたいなのが移りこんでいる気がするけど気のせいだとしよう。


 クリスマス商戦は継続中のはずにもかかわらずガラガラの不気味なショッピングモールで、結局掃除機だけ購入し、俺たちは帰ることにした。


「さあ、帰ろうぜカヅキ。で、お前らは協定違反だよな?」


 俺に話しかけている途中から急にカオリが殺気を放ち始める。今度はなんだよ……今日はいろいろ詰め込みすぎだ。


 と、カオリに促されたので振り返ると、パーカーにサングラス、マスクをした人たちがいた。


 誰かを聞くまでもない。超能力者の紫髪だったり、金星人の金髪ポニーテールだったりがちょこちょこフードの隙間から見えている。


「さて、旦那様。」


 紫髪が口を開く。


「「もう一周、みんなで回ろう!」」


 はあ、これもう一回やるの?


 カオリも俺の隣でため息をついているのが見えた。

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