男子校に入学したはずなのに、クリスマスイヴデートで瀕死な件
……シュガー!……シュガー!……
「シュガー、大丈夫?」
ヒカル先輩の顔が目の前にある状態で目が覚めた。そしてここはどこだろう。
「ここは……?」
どこかいつも見ているかのような風景でありながら、初めて見る光景だ。
「私の部屋だよ。シュガーが気絶したからあわてて担いできたんだ!」
普通、劇物飲んで気絶した人は自室じゃなくて病院につれていくと思うんですけど……。
それに、すぐそば……というか同じマンションに俺の家があることを知ってるんだから、そっちにつれていってくださいよ。
「それで、一つ質問してもいいですか?」
「なになに?」
「なんで俺の隣に寝ているんですか?」
「楽しいからだよ?」
「気持ちいいからだよって言わなかったのでギリ許します。」
もしそういわれていたら、速攻カオリとシオリさんを呼んでこの人を退治してもらっていただろう。
「あれれ~、シュガー、むっつりスケベかな?」
「いや、若干名そういうのが怖い人がいるんで。」
レイナとかユミコとかシオリさんとか。あとはアヤカさんなんかは別の意味で怖い。男だってバレたりしたら……ひえっ。
おかげさまで危機管理意識が養われましたよ。どちらかというと本能ですが。
「それじゃ俺は帰りますんで。ありがとうございました。」
同じようにヒカル先輩に対しても危機管理能力が働き始めたので、さっさと逃げさせてもらうことにした。
「あれれー?命の恩人にそれだけかなー?」
が、逃げるのには少し遅かったようだ。目が覚めた瞬間にすべてを振り払ってダッシュで逃げるのが正解だったか。
「あー、ではまた後日お礼に伺うということで……。」
「そういわずに!シュガー、気絶する前からすごい汗かいていたし、水もほとんど飲んでなかったんでしょ?」
ごめんなさい、前後の文脈から次の話が読めないんですが……。
「たくさん水飲んで、お風呂一緒に入ろ?それでチャラにしてあげる!」
「どこがお礼になるのかさっぱりわからないですが、お断りします。」
時計を見上げてみると、丸一時間くらいは気絶していたんだろうか。
俺が拉致られ、探すユウキ、やがて見つかる俺。さて、自分が告白した男が拉致られ、探した挙句、やっと見つけた男が他の女子と風呂に入っていたら……。
ヤンデレは最近急増中なんだ。もう勘弁してほしい。
「やだなぁシュガー、この部屋だけ内側からもカギがかけられるんだよー。」
やだなぁヒカル先輩。それじゃ監禁じゃないですかぁ。もう窓から飛び降りてやろうか。ここが何階か知らんけど。
「でも、シュガー。スメルとはもうお風呂入ってるんでしょ?」
スメル……?ああ、カオリですね。たぶん、広島旅行の時の話を、ユミコかフウリさんあたりから聞いたのでしょう。カオリが自分から話すわけないし。
「不可抗力です。あれは幼馴染ですし。」
「ふーん。……かわいそうに。」
最後にヒカル先輩がつぶやいた言葉は聞き取れなかったが、なんか、ライバルを憐れむような感じだったな。ヒカル先輩とカオリってなんかライバルになるようなことあったっけ。
「まあとにかく、お風呂入ってくれればそれでいいから!」
俺は抵抗する間もなく風呂に突っ込まれた。物理的に。武士の情けで下着は履いたままだったが。
「じゃあ、私も入るねー!」
そういって風呂に入ってきたヒカル先輩は……
「な、何着てるんですか。」
「脱いだ方がいい?」
そう、何をどう血迷ったらそうなるのか、昔ながらのスクール水着だった。いや。おい。なぜ。
「着ててほしいですけどそれじゃないほうがいいですね。」
そもそもはいらないでくれるならそれがベストだ。
「じゃあ、シュガーを着よう!」
ごめんなさい、相変わらずちょっと何言ってるのかわからないです。
そんなツッコミをしている間に、ヒカル先輩は俺に抱き着いてきた。ヒカル先輩を女子として意識させるとある部分がしっかりと密着し。俺の腕を挟み込む。
あ、あれ?
反対の手で顔をこすると、違和感がある。
手に何か赤いのが付いたと思ったら、鼻血が出ていた。いや、そういう妄想とかで鼻血が出るのは、古い漫画のそういう漫画的表現だとばっかり……。
しかも、思っていたよりドバドバ出る。風呂場だからか全然止まらない。
「すぅみませぇん!止まらなさそうなんで撤退しますね!」
さっさと逃げられる、と、少しニヤケてしまったのはご愛敬。ヒカル先輩の胸……腕から逃れ、出入り口へと直行。
というか、このままだと出血多量でマジでヤバい。劇物飲んで、気絶して、出血多量でぶっ倒れるなんてそんなことはしたくない。というかそんなことしたことあるやつ、今までにいないだろ。
「ま、待ってシュガー!危ない!」
ヒカル先輩の声が聞こえたとき、出血でふらついていた俺は鏡に顔面ダイブを決めていた。
バシャァァン!
大きな音が狭い風呂場に響き渡り、鏡が粉々に砕ける。
「キャッ!」
俺よりも風呂の奥にいたヒカル先輩は縮こまったが、幸いにも破片はヒカル先輩のいない、床の方に飛び散った。
不幸なのは俺の方。頭をぶつけた衝撃でついにぶっ倒れたのだ。ガラスのマキビシの上に。
「いったぁい!」
痛みで転がれば転がるほど刺さっていき、慌てて起き上がった途端にシャンプーのノズルが目に刺さる。
再びうしろに一人バックドロップを決めたあたりでヒカル先輩が助け起こしてくれた。
「作者さん気絶落ち多いよ?大丈夫?」
心配していたのは俺相手にじゃないみたいだが。
そんなこんなで息も絶え絶えになったところで、もはや死体状態の俺を、ヒカル先輩が拭いてくれて、服まで……
「いや、そこは自分で拭きます。」
「いいのにぃ。」
ふくれっ面をしつつも顔、赤くなってますよ。
死体のまましゃくとり虫みたいにして何とかヒカル先輩の部屋からエレベーターを経由して一階まで帰りつく。時刻は夕方の4時だ。
「あら、遅かったじゃない。ってキモ!」
俺がしゃくとり虫状態で、どうやってドアを開けようなどと考えながらしゃくとりっていると、部屋の前でルナが待っていた。
瀕死の奴にキモいとはご挨拶だな。
「それは何?体幹か何かのトレーニングかしら?」
とてつもなく短いスカートのまましゃがみ込む。男子として意識されていなかったかな?とも思ったが、そもそも俺が普段から女装しているからそういう錯覚に陥らせるのだろう。
「瀕死なだけだ。それで?お前は何の用だ。」
「ユミコに呼ばれてるのよ。ベっ、別に、あんたのためとかじゃないんだからねっ!」
そりゃ俺のためになることをしてくれたことは……あれ?こいつはこいつでいろいろしてくれてるよな。もしかして俺、こいつにめちゃくちゃ失礼なんじゃないかな……。
そこまで考えて、それは比較対象が完全に俺のヒモみたいなカオリとかだったことに気が付く。
っていうか、なぜユミコよ、自分の家ではなくここに呼んだ。
「そ、それじゃ、また!」
訳も分からないままにルナは走っていってしまった。いや、用事は?
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