男子校に入学したはずなのに、親友とクリスマスデート(?)な件

 ピンポーン!


 クリスマス……イブの日。


 アオイと約束をするとき、なぜかクリスマス当日に予定を入れることを本能が嫌がったので、必死に説得してクリスマスイブにしてもらった。


「来たぞ、カヅキ!」


 我が親友は同じマンションの隣の部屋にすんでいるので、逃げようと考える間もなく朝一番に迎えに来た。


「わかってるよ、言われなくても逃げたりしないって。」


 なんてったって「偉人二世」様相手に逃げ切れると思うほど俺もバカじゃない。


「本当にわかっているならそんなこと考えたりすらしないと思うけどな。」


 はいはい、すみませんでしたね。


 俺がなんか考えているとその考えを読んでくるとか、小学校の頃の先生ぐらいしかできないと思ってたよ。


 とりあえずアオイに起こされたようなものなので、目の前の紺のトレーナーにジーパンを履き、厚手の紺色のコートを羽織る。ドアを開けると……


「何黙ってるんだよ。」


 アオイが、思ったよりしっかりおしゃれしてきていた。


 きれいな脚の形が浮き出ている黒のスキニーに、スタイルのよくわかる白いパーカー。そして金色がやたらと映えるデニムジャケットを羽織っている。


「いや……その……。」


「ウチが美人すぎて固まっちゃったか?」


 どうしよう、ノーと言ったら即死刑確定だろうし、後ろの方でカオリがのそのそと起きてきている音がする。もし聞かれたらこっちもやっぱり即死刑……。


「ていうかカヅキ、その恰好はなんだ!デートと言うのにやる気が足りないぞ!」


 よかった、自分から話題をそらしてくれた……と思う間もなく、ひょいと担ぎ上げられ、俺の部屋に連れ込まれたかと思うと、服を真っ二つにされた。


「大体なんだよこのサイズ感は!いつから来ているんだっつうの。」


 確か、買ったのは小6だったかな?


「これと……これでも着ろ!少しはましになるはずだ!」


 こういうところ、こいつも本当に女子だよなぁ。ところで、わざわざ俺の服破く必要あった?


「ほら、これでいいか?」


 着替え終えているまでの間に、カオリの朝飯を作ってくれていたらしい。


「ほれ、燃え燃えキュン!」


 レアなアオイのコールが聞けたが、カオリの朝飯のオムレツに「カヅキはいただいた!」と書いてあるのを見て、レアでもやめてほしいと思った。だいたい、漢字がおかしいし。


 あいつはあれでさみしがり屋なんだから、幼馴染が取られたとかって言って暴れるだろうが。


「さあ、行こうか、カヅキ!」


 いい笑顔で俺の帰る家を奪ってくれたアオイは、そのまま手を引いて俺を連れ出した。





「それで?どこに行くんだ?」


 マンションからカオリが追跡してきていないことを確認し、アオイに聞くと、


「うちらが初めて行ったところって覚えてるか?」


 たしか、カラオケだったな。あの頃は、みんながまともだと思い込んでいた。いまとなっちゃ……はぁ。


「どうしてため息なんてついてるんだよ。カラオケだぞ!カラオケ!ということで行くぞ!」


「おーう、わかったわ。」


「やる気ねぇなぁ。」


 そりゃそうだ。今更時計を見たが、まだ朝の6時だからな。


 こんな時間ならカラオケもやっていないだろう……と踏んでいたが、最近のカラオケは24時間営業のところもあるらしい。すげぇな。


「いいかカヅキ。今日はカヅキに目いっぱい楽しんでほしいから、なんかあるなら言うんだぞ!」


 さすがに、寝たい、というほど男も漢もやめちゃいないので、


「いやいや、たまにはこういうのもいいと思うぞ?」


 と、ここは偽りない本心を答える。


「だろっ!?」


 やたら元気な笑顔を向けてくるアオイは、本当にかっこよくかわいかった。そういえばこいつ、中学の頃は後輩の女子からモテていたとか話していた気がする。ずっと前に。


「まずは……歌うぞー!」


「おーっ!」


 アオイの元気に引っ張られ、俺もなんだかテンションが上がってきた。





「カヅキ、おまえ、バカじゃ……ゲホッないか?」


「お前こそ……ゲホッ、バカだろ。」


 テンションが上がりすぎて大声でアップテンポな曲をデュエットで歌い続けて4時間。二人して声が死んでいた。


「づ……次ば、あそこの映画館だ!」


 大型のショッピングモールに映画館が入っているが、中高生はおもには映画館にしか使わない。そんな映画館にやってきた。


「今日公開の映画は二本!『ラブラブラブストーリー』と『サイコハザード』の新作だ!もちろんカヅキは後者だよな?」


 以前話したよく見る映画を覚えていてくれたらしい。好きなわけじゃないけどな。


「そうだなぁ、でも最近はゾンビ映画見ると、(ゾンビに)感情移入しすぎるから、最初の方でいいよ。」


 少し悩むがラブコメのような話を選ぶ。


「でも、どっちも18禁だけど……?」


「どうせみんな守っていないんだし、良いだろ。」


「は、はい……。」


 アオイが急に敬語になる。どうしたどうした。


 そして俺は、スプラッターを選ばなかったことを激しく後悔することになる。


「なあアユミ、あそこのホテルでいいよな……?」


「ええ……」


 そう、18禁対象のラブ系の話など、こっちにしか進まないということに、もっと早い段階で気が付いておくべきだったのだ。


 この話もそろそろ18禁ぐらいはつけておいた方がいいんじゃないか。俺がそんなことを考えているうちに、あっという間に作品は終わり、俺とアオイの間に気まずい沈黙が流れる。


「と、とりあえず、こんなところでぼーっとしていても仕方ない!ささ、映画館から出るぞ。」


 アオイが慌てて俺を軽々担いで映画館から出る。


「つ、次はどこに行くんだっ!?」


 俺は少し焦って聞くが、アオイはパニックで予定が思い出せないようだ。何か話題がないかと慌てて二人で周りを見回すと、いわゆる「そういう」ホテルが目に留まる。


 さっき変なものを見たせいだ。


「なあカヅキ、あそこのホテルでニjfンんvcm!?」


 いや、最後まで言えてないし……。


 俺がドンびくと、その顎を引く仕草を頷いたと捉えたらしい。俺を担いでアオイがホテルに向かって歩き出した。


「お、おい待てアオイ、落ち着け。俺たちは親友だ。そういうのはナシだろ?いいか、しっかりしろ、正気を取り戻せ!」


 いろいろな言葉で声をかけるも、脳みそがパンク状態のアオイには効果がないようだ。


「さあ、こういうことがあろうかと、ホテル代も持ってきているからな!」


 もはやこいつ、自分で何を言っているのかわかっていないんじゃないだろうか。


 ホテルに入ると、「こういう系」のホテルのイメージとは違い、店員が出迎えてきた。


「ようこそ、新装『愛をはぐくむ西園寺ホテル』へ!ですわぁ!」


 ……地雷が二つほど踏み抜かれた音が聞こえた。

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