男子校に入学したはずなのに、そろそろクリスマスな件

 クリスマス。それは、女子が苦手な俺が、なんとも言えない気持ちになる、そんなイベントだった。


 中学のころ、一部の女子と一部の男子が急速に接近し、付き合い始める。中学生故に、そこまでがっつりと仲が進展するとかもなく、冬休みが終わるころにはあけまして破局でございます。


 さらにそんな様を羨ましそうに眺める、バカとオタクと俺の友。俺はさらにその外側を、なんとも言えない気持ちで見守っていた。


「だからさ、カヅキ。クリスマスぐらい、外食に行こうぜ!?」


 カオリはそんなことを言っているが、今のうちの経済状況を知っているのだろうか。


「まあ、どちらにせよ、冬休みは忙しいから、俺は飯を作れない日が増えるだろうしさ。」


 忙しい理由はおもに補習と部活だが。


「それで、ウチは一人で家で待っていろと?」


 カオリはなぜ部活がないか。ましてや、こいつは世界記録を簡単に出せるような超人だ。なぜそれが許されないか。


 それは、我が家に、「世界偉人協会」なるものからカオリに対し、大会等出場禁止令が出されたからだ。


 俺は何より、「偉人」の設定がまだ生きていたことに驚いたが、カオリは「偉人」の話を初めて知ったらしく、そちらに驚いていた。


「ケッ!そんなの誰かのイタズラだろ。」


 と最初に言っていたカオリだったが、もし大会にエントリーした場合のカオリ捕獲部隊にシオリさんとアオイの名前が入っていたのであきらめたらしい。


 この前の二人の姉妹喧嘩は強烈すぎたからな。あれと同じレベルがさらに何人も向かわせられるとなれば、さすがのカオリもどうしようもない。


「おいカヅキ、セリフが少ないぞ。」


 なんでも、偉人に任せきったり、あるいは偉人と敵対する社会をつくらないために社会と隔離するための組織らしい。


 え?どっかの漫画で聞いた設定だ?知らん知らん。


「カヅキってば。」


 そんなこんなでやけになって勉強を死ぬ気で頑張ったらしいカオリは、なんと学年一位の高得点で通過してしまった。


 シオリさんの言う、能力のきちんと覚醒していない偉人とは、ここまで恐ろしい物なのか。これじゃ今まで通り「バカオリ」なんて言えないじゃんか。


「聞けよ!」


 バキッ!


 いつも通り背中を折られる。


「いや、っていうか、お前、人に何か言うぐらいならまずは自分で飯を作る努力でもしてみたらどうなんだ。」


「うるさい!カヅキだって、ウチの料理のどこがダメなのかわからないんだから、文句を言うんじゃない!」


 そう。カオリの料理は毎回なぜか失敗する。以前あまりにも不思議に思い、俺の前で料理を作らせたときは、俺が研いで水をいれ、設定までした炊飯器でご飯を焦がし、冷凍ご飯も正しい設定なのに爆発する。


「お前、料理破壊の偉人とかじゃないの?」


「さすがにそんなことはないと思うけどなぁ……。」


 それしか考えられないぐらいに料理音痴だ。というか、世界がカオリに料理を作らせることを拒んでいるとしか思えない。


 最初のころは炒め物をやらせてみたのだが、俺が一回くしゃみをする間にすべてが炭化したときに諦めるべきだった。


「わかったよ、俺が作ればいいんだろ?ていうか、シオリさんは?」


「あの人はウチの体が丈夫なのをいいことに、いろんな薬の人体実験をしてくるんだ。そのおかげで……うっ、思い出したくない。」


 どうやらトラウマをつついてしまったようなので、そっとしておいてあげて、今日の夕飯を作るのに取り掛かる。面倒だ……そうだ!


「カオリ、これならどうだ!?」


 テッテレー!カップスープ!


「なんだそれ。」


 知らないのかよ。


「カップに粉を入れてお湯を注ぐだけだ。お湯は俺が用意するし、カオリは給湯ポットの下にカップを持ってきて、ボタンを押すだけだ!」


 これでできなかったら、あとは雑草でも食べさせよう。


「確かに、それなら!」


 カオリが、カップに粉を入れ、給湯ポットのボタンを押し……


 チュドーンッ!


 何となく予想はしていたが、給湯ポットが爆発した。いや、なんで?


「カヅキ!見ろよ!」


「ひぃっ!殴らないで下さ……ん?」


 爆発したポットから降り注いだ水をカップで集め、スープができている!


「や、やったぞカヅキ!」


「さすがだ!」


 多分本来の量の20%ぐらいだが、初めてカオリが料理をできた!


 チュドーンッ!


 カップの中で何の反応が起きたのか、二度目の爆発が起き、カオリの手元にはカップの取っ手だけが残った。


「……知ってるかカオリ?実は雑草の中には、おいしい物も」


「オラッ!」


 南無三……。





「カヅキさん、カヅキさん!」


 俺を呼ぶ声がした。


「やっと目覚めましたか。私です、フウリです!」


 ふ、フウリさん、


「お、お帰り。転入できそう?」


 フウリさんは今日、ようやく、正式に常楚の生徒となる手続きをしてきたそうだ。


「はい。でも、入学は来年から、学年は一年からだそうです。」


 まあ、入れただけ良しとするか。戸籍もないし。


「カオリの飯は?」


「す、すみません!私が勝手にご飯とお味噌汁、お浸し、魚の煮つけを作ってしまいました。」


 す、すげぇ……。煮つけはむずいから、俺でも手を出すのをためらっていたのに。


「すみませんでした……。」


「いやいや、むしろありがとうだよ。これでカオリもおなかをすかさずに……。」


「フウリ、おかわり!」


「はいはい、ただいま向かいますね。それではカヅキさん、失礼します。」


 ……ストライキ、できたらいいな、したら死ぬ。


「ショタ君、この煮つけめちゃウマよ!」


 いつものメンツの食卓に、思わずため息が出る。


「おいしそうなにおいだな。」


 すぐそこに住むアオイと、


「呼ばれてなくてもジャジャジャジャーン!」


 上の階に住むヒカル先輩がやってきて、俺の煮つけはなくなった。


「そうそうカヅキ、クリスマスの日は、ウチと二人っきりでデートしてもらうから。」


「は、はあ……。」


 アオイが急にそんな宣言をしてきた。いや、待て待て待て待て。


「はい、喜んでが聞こえない!」


「はい喜んで!」


 勢いで返事をしてしまってから、にやけるシオリさんと、あきれ顔のフウリさんに視線を向ける。救援の気配、ゼロ!


「カヅキぃ?」


「シュガー?」


 こりゃもう一発来るかな!?腹筋に力を入れる。


「「クリプレ、期待してるね!」」


 ぐはぁっ。精神と財布に大ダメージ!

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