男子校に入学したはずなのに、私のために争わないでな件⑤

「知ってる顔面だ。」


「そりゃそうだ。腐れ縁と言っても過言じゃないからな。」


 俺が気が付いたとき、カオリが俺の顔を覗き込んでいた。前にもこんなことがあった気もするが、たぶん気のせいだろう。


 隣では、ルナがげっそりとした顔でこちらを見ている。


「二人とも助けた私には何もないの?」


 うん、お礼を言ってほしいだね、それならそうと……いや、言われたら言われたで腹が立つけどさ。


「ありがとうな、ルナ。」


 とりあえずおれいを言うと、


「ふ、ふんっ!別にあんたのために頑張ったわけじゃないんだからね!」


 というツンデレキャラのテンプレに沿ったような回答をしてくれた。まあ、ありがとうだけど、なんであの場にいたんだ?


「中立という名の第三勢力。」


 頭の斜め上から声が上がった。どうやら俺はユミコに膝枕されたままカオリに顔を覗き込まれていたらしい。


 助けてもらった分際で何様かと。そりゃ、ルナがげっそりするのもよく理解できるわ。


「ということは、ルナはルナで何かを狙ってたのか?」


「もちろん旦那様のひとりじ……。」


「なんでもないわよっ!」


 ユミコが教えようとしてくれたところを、遮られてしまった。


「結局のところ、お姉様の隣を勝ち取れたワタクシの一人勝ちですわぁ!」


 ルナと反対方向を見ると、俺と同じようにアオイに膝枕されたレイナが横たわっていた。


「何でウチがこんな睡眠薬すっぽん鍋女の膝枕なんだ……。」


「じゃんけんで負けたんだから、仕方ないでしょう?」


 イラついているアオイは、ユウキがなだめている。


「膝枕されていない私の身にもなってほしいわ。」


「ウチがしているじゃねーか!欲にまみれてウチに物理干渉ができないのはお前の責任だろ!」


 アヤカさんとユウリはまだなんか言いあっているが、みんな仲直りはしたようだ。よかったよかった。


「それがそうでもないんだよ、ショタくぅん。」


 俺に膝枕してくれているユミコにのしかかるようにユミコの上から顔を出したシオリさんが猫なで声で言ってきた。


「その巨大胸を下ろせ。」


 ユミコさん……?目が怖いですよ?


「実は、この戦いを一番最初に引き起こした人がわかっていないんだよ。」


「え?レイナとカオリじゃないんですか?」


 確かあいつらがいきなり俺をいつものようにさらおうとしたはずだ。


「それが、実はそうでもないらしくて……。」


「うちらは、誰かから急に頭の中に、『カヅキ様はもらっていきます!』って言われて、慌てて行動したに過ぎないんだ。」


 どこかに、この戦いを引き起こした犯人がいるってことか。


「私も聞いたんだよね、その声ぇぇぇああ、痛い痛い!」


 ヒカル先輩の声が、いまだ起き上がれない俺にとっては少し遠いところから聞こえてくる。そうか、ヒカオリ砲を撃つと、両手両足を骨折するんだっけ。


「今治療していますから、もう少しおとなしくしていてください!」


「いーたーい!いーたーい!」


 子供のように泣け叫ぶヒカル先輩をそれでも辛抱強くフウリさんが押さえつけで超能力も使いつつ治療しているらしい、いつもご苦労様です。


「やっと校内からの全員の非難が終わりました、あとはあなたたちだけですよ、警察まで来ているんですから、早く退散しましょう。」


 なんだか警察とお関わり合いになったことでもあるようなことを言いながら一ノ瀬先生もやってきた。


「大丈夫です、西園寺財閥が押さえつけてくれるそうですよ。」


 ユウキが、ユミコから情報を受け取って言った。いや、何さらっと恐ろしいことを、とはもう驚かない。だって相手は西園寺財閥だし。


「ってあれ?セレスさんは?」


 最後に俺が見たのは、ヒカオリ砲を止めるため、向かってくるカオリを持ち上げる方向転換をお願いした時だ。


「ワタクシが目覚めたときにはもういませんでしたわぁ。」


「そういえば、セレスさんはどこに行ったのでしょうね?」


 どうやら誰も見ていないらしい。


「さっき一緒に避難しましたけど。」


「「えっ……?」」


「だ、だって、あの子は本来、来賓に近い形でこの学校に来ているんですよ?テキトーにでっち上げた架空の国からの留学生だっていうことにして!」


 いや……それが通るのも学校として問題だろ。


「ちなみに、セレスさんはどこまで逃げるそうで?」


「み、皆さん目が怖いですよっ!?た、確か、『お国に帰らせていただきます!』って言っていたと思います。どこの国に、どうやって帰るのかはよくわかりませんが。」


 これだからこの先生は……。


「このタイミングで逃げるって、間違いなく犯人でしょ。」


「うちらをだましたな!」


 いや、アオイは自分から俺をさらおうと……まあいいや。


「かわいいあの子を捕まえて~全身ぺろぺろ食べちゃいたい~♪」


 そう言って、健康体かつ戦闘力の高いカオリ、アオイ、シオリさんの三強がセレスさんの捕獲に向かってはしっていってしまった。





 二分後。


「みんな、おまたせー!」


 三人で仲良くセレスさんを拘束して帰ってきた。仕事速すぎだろ。


「それで?どうしてこんなことになったんですかね?」


 悪いけど、みんなを汚させようとした以上、理由はきちんと聞かないといけない。


「う、そ、それはですね……。」


 セレスさんは、シオリさん、マキ先生、フウリさん以外の女子のみんなの顔を見る。


「じ、実は、異世界からこちらに来るときに、ある指令が国王より降りていまして。」


 指令!?ま、まあ、尺もあまり残っていないし黙って聞こう。


「別世界から来た、その時の世界の脅威を除いてくれた勇者様を連れてきて、子をなせ、と。」


 は、はぁ……なんか話が長くなりそうだ。


「なんでも、以前私の世界に来た勇者様が子を残してくれなかったことも、世界の脅威がなくならない理由の一つだと……。」


 なんて身勝手な……。


「あれ、でも、それなら俺らを争わせちゃダメじゃないか?」


「なんでも、勇者様というのは、」


 ヒュトッ!そこで何か音がし、誰かが倒れる音がした。今いいところなんだから、と思ったらマキ先生がシオリさんに抱えられて倒れていた。


「勇者は男、何でしょ?聞かれたらまずいだろうから、気絶させといたよん。」


 シオリさんマジ有能。頼むから日ごろの変態性をなくしてほしい。そうすれば真の有能なのに。


「それともう一つ。真の勇者はとある才能がある、とのことで……。」


 いろいろ設定が面倒になってきた。頭の悪い作者に処理しきれる内容だろうか。


「そのため、カヅキさんの周りにいる女子を取り除く必要があったんです。」


 なんて迷惑な話だ。


「っていうか、そんな話、どこから聞いたの?」


「王家には、初代勇者の書いた文言が残っているんです。しかも、勇者様のとても精密な似顔絵付きで。」


 へぇ、ぜひともその変な本を書いた黒幕の顔を拝んでみたいよ。もしかしたらうっかりブチギレるかもしれないが、こんな目に合ってそれで済んでいるのでご愛敬である。


 いや、本当に悪いのは、人をさらえって指示したセレスのところの国王だけどさ。


「一ノ瀬先生!大丈夫ですかーっ!?って、あ、あれっ!?セレイ!?なんでこんなところに!?」


 どうやらマキ先生を探してやってきたらしいボーイッシュ先輩がセレスを見て固まっている。


「え、えーっと、セレイというのは、先ほど話した初代勇者様とかかわりのあった私のひいおばあ様の事ですね……。」


 黒幕、発見。

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