男子校に入学したはずなのに、私のために争わないでな件④

「あれは……!」


 先ほど、少し遠いところから声をかけてきたカオリとヒカル先輩を探すと、なんと旧校舎のがれきの上に二人は立っていた。


 ……いや、あれは「立って」はいないか。寝転がったヒカル先輩がひっくり返ったテントウムシのようなポーズをとり、その上にカオリが乗っている。


「ヒカオリ砲……!」


 シオリさんが少し慌てた声を出す。


「シュガー!これ、異世界で朱雀を一発で倒したすごい技なんだけど、シュガーがおとなしく誘拐されてくれるなら、撃たないで上げるー!」


 なんて無邪気なテロリストだ。


「おい、ウチは味方のはずなのに、なんで!」


 アオイが少し焦った声を出す。確かに、この中でアオイと、そこで伸びているレイナはあいつらの仲間のはずだ。あとたぶん威力的に巻き添えを食らうアヤカさんも。


「おいお前ら!」


 ユウリがやってくる。


「ユウリ!今こっちに来るな!ヒカオリ砲の巻き添えを食らうぞ!」


 俺がユウリに警告すると、


「でもあれ、完全な物理攻撃だからウチには効かないんだよな。」


 とご都合主義で回避しやがった。あいつ……!


「フウリさん!このままじゃ町が蒸発します!」


 俺は実際に見たわけではないが、実は朱雀が一番の強敵だったらしい。それを一撃で倒したとなれば、この辺はすべて更地になると考えた方がいいかもしれない。


「でも、二人も疲れている。溜めが必要。」


 この距離でも二人の心を読んだのか、ユミコがそういった。こっちを見て。


「なあカヅキ、もしかしてお前、あれをやるつもりなのか!?」


 アオイが青い顔をしている。いや、ダジャレじゃなく。


「仕方ないだろ、やるしかないんだ。」


 でかい爆弾や大砲を向けられた世の名作の歴代主人公たち……彼らがもはやお決まりとってもいいほど愛用したあの手でしか、みんなを守れない。


「旦那様でも危険。」


「でも、やるしかない!」


 この世界、時代のお約束を知らないフウリさんやセレスさんが何事かと俺を見る。


「お約束って何ですか?」


「あんな大砲よりも威力がある攻撃への対処法って何をするつもりですか!?」


 それぞれ、フウリさん、セレスさんだ。


「今は長く説明している時間がない。それより二人とも、いや、アオイとシオリさんの四人にお願いがあるんだ。」


 俺はまずフウリさんとセレスさんに時間がないことを前置きし、アオイとシオリさんの拘束を解いてもらう。カオリやヒカル先輩と味方のはずのアオイも、俺の読み通り暴れないでいてくれる。


 こいつは、意外とプライドが高いからな。


「まず、ユウキとユミコの超能力で俺を強化してくれ。さすがにあのバカ威力をもろに食らったら俺も消し飛ぶ。」


 計画の第一段階だ。この調子でアオイ、シオリさん、フウリさん、セレスさんにお願いをして、計画実行だ。





「まず、お二人の拘束状態を解きます。」


 フウリさんのアナウンスでアオイとシオリさんがゆっくり降りてくる。アオイが暴れないようにシオリさんが手をつないでいるので安心だ。


「次に、旦那様の強化。」


「とはいっても、固くなるだけよ?やけどもするし、砕けるときは一気に砕けるから、気を付けてね。」


 体が、ラグビーの選手みたいな格好のまま固くなっていく。っていうか、最後のユウキの忠告、なんて?


「いくよショタ君。」


「絶対かえって来いよ?」


 そう言ったシオリさんとアオイが俺の腕を両側から持って、ヒカオリ砲の方へと本気でぶん投げる。この二人が本気で投げたら、当然音速はこえるので、周りに水蒸気の衝撃波が出てくる。


「なぬ!ヒカオリ砲、発射!」


 こっちの発射を見たヒカル先輩も、こちらに向かってカオリを打ち出す。もちろん、このままいけば二人そろって人間トマトピューレになってしまう。


 そこで、俺とカオリがぶつかるのとコンマ01秒もずれずに、俺の位置をフウリさんとセレスさんにずらしてもらう。


 さらに、固くなっている腕でカオリの体の何か所かに引っ掛かり、ユウキとユミコに角度を変えてもらう。


 上へ30度、60度、そして90度。


 音速を越え、カオリを抱きかかえたまま空へと昇る。


 ロケットが急上昇するときのようにあっという間に学校が、町が小さくなり、地球が丸く見える。


 そう、歴代主人公たちの大技と言えばこれ、爆弾を持って飛び上がる、だ。


「なあカオリ、いったん、落ち着かないか?」


 どうやらヒカオリ砲にはカオリ自身の体にも相当な負担がかかるらしく、おとなしくしている。


「まあ、まずはどうやってここから落ちるか、だろ。一番の難関はそこだ。」


 俺がそうぼやくと、


「ウチはカヅキとなら心中できるぞ?」


 などと返してきやがる。ふざけんなっての。


「やめだやめだ、そんなくらいの。お前だってまだ恋人の一人もいなけりゃ、やり残したことも腐るほどあるだろ。」


 俺たちの上昇がゆっくりと止まっていく。


「いや……恋人はいないが、好きな人はきちんといるぞ。」


 上昇が完全に止まり、俺とカオリは向かい合わせで抱き合ったまま、ゆっくりと落ち始める。


「え、えっ!?だ、だれだ!?」


 そいつに早く警告しなくては。金星……ぐらいじゃ追ってくるだろうから、冥王星あたりまで逃げるように。


「イニシャルぐらいなら教えてやるぞ。」


「た、頼む!」


 俺が必死に頼むと、カオリはにやっと笑い、


「S.Kだ。」


 と答えた。


 だ、だれだ!?ウチのクラスのショウコ・影山さんか?そもそも、名前と苗字どっちが先だ!?


 そんなことを考えているうちに、どんどん落下が加速していく。もちろん俺もカオリもパラシュートなんて持っていないし、超能力四人組はすでに力尽きているか、余裕がある場合はアオイとシオリさんの拘束を最優先する話になっている。


「ど……る、このま……ゃ、こっぱ……んだぞ!」


 カオリの声も聞こえなくなってきた。


 ちなみに、人体の落下は200km/hぐらいで安定するらしいが、そんなの誤差だろというぐらいには加速している。


 地面の方からは、金色に輝く光が見えてきた。なんだあれは。世に聞く走馬灯ってやつかね。誰が言い出したのかは知らんけど。


 金色の光がどんどん迫ってきて、俺たちとぶつか……すれ違った。


 直後、上向きの強烈なGがかかって俺は気絶した。最後に見たのは、割と気絶なんてさらさらしなさそうなカオリだった。

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