男子校に入学したはずなのに、私のために争わないでな件③
ギギギギギ!
先ほどから、チェーンソー同士をこすり合わせているのかと聞きたくなるような音が聞こえてくる。
「おとなしくしててアオイちゃん!ショタ君は私が守るから、これ以上暴れないで!」
「うるさいよ姉ちゃん!このままじゃ、いつまでたっても私たちの関係は前には進めない!」
二人が戦っている廊下の床は、コンクリートのはずなのにもうそろそろ限界だ。
だが、戦っている二人はとっくにそれに気が付いていたらしい。
シオリさんが、恐らくアオイのパンチを利用して後ろにさがり、アオイはそれを追撃する。どちらもまったくダメージのなさそうな拮抗状態だ。
このままでは、どちらかの集中力が少しでも崩れたタイミングで相手を殺してしまうかもしれない。多いなこういうの。そこで俺はこそこそとフウリさんとセレスさんのところに行く……が。
「しっかりしてください、あなたは私情を挟みすぎです。もっと冷静に行動してください。」
「はいすみません……。」
ここでもけんかしてるし。
「ふたりとも、落ち着け。いま、アヤカさんの足場をユウキとユミコが崩したことでユウリの安全は確保された。このままいけばユウリが何とかしてアヤカさんを行動不能にするだろう。だから、フウリさんとセレスさんで協力して、あの二人を合わせて拘束してほしい。」
この戦法なら、多少のかすり傷を負うことはあるかもしれないが、大きなけがにはなるまい。
「理屈はわかりました。ですが、フウリはもともと力自体は弱いですし、私もほとんど残っていません。」
シオリさんの拘束は、よっぽど疲れるのだろう。あれを拘束できている時点で奇跡に近いですからね。
「じゃあ、旧校舎破壊コンビの力を借りましょう。」
フウリさんが代替案を出す。
「ユミコさんもユウキさんも、あなたの言うことなら聞くはずです。カヅキさん、説得よろしくお願いします。」
「ええ……。」
むしろ俺に対していくらでも要求してくるタイプだと思うんだが……。
「このセリフを言えば大丈夫のはずですよ、ごにょごにょ……。」
ええ、これいうのかよ。嫌すぎる。
さて、俺は戦っている二人に目を付けられないよう、なるだけ壁際をかさかさと動いてユウキとユミコのもとまで行く。
二人は、カオリとヒカル先輩をあぶりだすためにやたらめったらどこもかしこもありとあらゆるところを壊していた。
「あ、あの、お二人さん。」
「「ギャッ!?」」
ユウキだけでなくまさかのユミコも悲鳴を上げる。どんだけびっくりしたんだよ。
「か、カヅキ。その動きやめてくれないかしら。」
「百年の恋も2度ぐらい冷めそう。」
どこまでキモイ動きをしていたんだ俺は。
「そんなことより、二人にお願いがあるんだよ。あっちで戦っているシオリさんとアオイを超能力で拘束してくれないか?」
ぶっちゃけ、ユウキとユミコがいないと二人を拘束できない。どっちにも死人は出したくないからな。
「……お師匠様?」
「なんか考えていることが若干ワザとっぽい気もするけど、許そう。」
ユミコの考えていることテスト。これがあるから、俺が二人を拘束すべきだと思っていることが本心でも、フウリさんとセレスさんに吹き込まれたことまで読まれないか?
「ただし、条件がある。」
「またよからぬことを企んでいませんか?」
俺よりもユミコとの付き合いが長いユウキが嫌な顔をするんだ。何を要求されることやら……。
「さっきのセリフを言って。」
嫌なんだが。
「いってくれないならやらない。」
なんかやたら今日饒舌じゃないか?いつもみたいに無口でいてくれよ。
「言って。」
「はいはい、わかりましたよ。」
わずかな時間稼ぎに一深呼吸置かせてもらう。
「ユミコ、夫のために一つ、力を貸してはくれないか?」
「喜んで。なんでもする。」
怖いよ、こいつの忠誠心こわいよ。これだから言いたくなかったんだよ。ユウキの目も怖いもん。ごみどころか害虫を見る目だよ。
ここは、鉄板のギャグで……
「えっ、今何でもするって?」
「言った。」
だめだこりゃ。
「カヅキ、あなたって……。」
「さあ行こうかー!二人を早く拘束しないとね!」
さて、ギャグマンガのお約束のように二人はいまだに同じところでお互いの打撃をさばきあっていた。よくもまあ飽きませんこと。
「旦那様の願い、聞き遂げる。」
ランプの魔人かな?というよりも早く、ユウキと一緒にシオリさんとアオイを拘束してしまった。
「私も微力ながらお手伝いします!」
セレスさんとフウリさんがユミコと手をつなぐ。
超能力関連は詳しいわけではないが、もしかしたら電池をつないで使っているような感じなのだろうか。
「失礼。」
ポカ、とユミコに叩かれてしまうが、その手つきは優しい。さっきのセリフがそんなにうれしかったのだろうか。
個人的には、臭すぎ、中二すぎetcだと思うのだが……
「うるさい。」
あ、ユミコの奴、顔を真っ赤にしてる。
「遊んでいないで、そのまま、気絶処理までしてしまいましょう。」
復活したフウリさんにそう言われ、ユウキが力を入れると、なんとあのアオイとシオリさんが気絶したのだ。
「今日は調子がいいからかしらね。」
そう言ってこめかみに血管を浮き出させながらユウキがこちらを見てくる。
「えっと……ユウキも……かわいいと思いますよ?」
「まあ、及第点ね。」
何のテストだったのか、落第だとどうなっていたのかは怖くて聞けなかった。
だが、これで残りは逃走中のカオリ、ヒカル先輩、戦闘中のアヤカさん……は、ユウリによってなんか無力化されていた。
作者がどうやって倒すのか思いついていなかったのか、いつの間にか、って感じだ。
「メタい。」
うん、ごめん。
ユウリは遊撃に行ったようだから、これで俺が拉致される危険性もほぼなくなったってわけか。本当に大変だった。
「この惨劇、どうしよう。」
「西園寺財閥が弁償してくれるわ。そうですよね、お師匠様?」
「う、うん……。」
珍しくユウキがユミコを圧している図も見れたし、一件落着……。
「さあ、シュガー!イッツショウタイムだよ!」
「カヅキ!今からそっち行っていいか?」
ヒカル先輩とカオリの声だ。嫌な予感が……!
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