男子校に入学したはずなのに、私のために争わないでな件②

 気絶したアオイを置いてきて、さらには決めゼリフまで放ったシオリさん……だが、今のいざこざによってセレスさんが起きてしまい、そのまま拘束された。


「ひとりじゃ拘束が甘かったみたいですね。今度は、バックアップに私も付きますよ。」


 そう言って、フウリさんもシオリさんの拘束にまわる。


「いくら偉人の血でも、超能力とか魔法は才能だからねぇ。」


 そう言ってシオリさんは思っていたより素直に拘束される。どうやら、超能力系には物理とは全く違う力が流れているようだ。


「では、そろそろこちらも。」


 ユミコがそういうと、レイナがフラッと倒れた。その体をユミコが支え、アオイ、マキ先生の隣に並べる。


「顔の周りの空気をどかした。」


 それで酸欠か。えげつないことするなぁ……。


 だが、これで俺をさらおうとしていたチーム(誘拐組とでも呼ぶか)は数の有利を失った。俺を守ってくれているチームはシオリさんこそ行動不能だが、まだまだ粒ぞろいだ。


 そのままぜひ俺を守ってくれ。じゃないと、最悪俺が男だって学校にばれる。まあ、それ以外の理由でも退学にさせられそうだけど。


 すでにあちこちで廊下が割れ、壁は突き抜け、天井は落ちていた。この騒ぎの原因が俺だとばれたら……最悪、警察沙汰!?


 だが、もたついていた間にカオリ、ヒカル先輩には逃げられ、アヤカさんと味方のユウリも見当たらなくなってしまっていた。


「お師匠様、これからどうします?」


「カオリの気配は近い。」


 そうしてユミコが耳を澄ます。ここいらで、前回の冒頭に戻るわけだ。


「そっちかっ!」


「外れっ!」


 ユミコが珍しく気合を入れたが、気配をごまかしていたらしいカオリはそれをやすやすとかわし、いったん撤退する。カオリにしては珍しい選択だな。一度ヒカル先輩やアヤカさんと合流するつもりか?


 だが、そんなことをしたらユミコは先にその二人をつぶそうとするに違いない。


 ヤバそうな気配を感じ取ったのか、いつの間にか目を覚ましていたマキ先生が他の先生たちと共に生徒を非難させている。


 俺もつれていってはくれませんかねぇ。


 いや、俺をつれていったらそっちに戦火が広がるのはわかっているから、言うに言えないんだけどさ。


「ユウキ、やるよ。」


「はい、お師匠様!」


 二人が頷きあうと、外に向かって手をかざす。すると、夏休みの補習に使われた旧校舎がぐしゃぐしゃにつぶれていく。


 前回の冒頭までようやくたどってこれたわけだが、やはり悲鳴は聞こえてこないので、大丈夫だ。たぶん。










 階下では、アヤカとユウリが戦っていた。あの戦いが始まったときに確信した。この戦い、上手くすれば私がカヅキを独り占めできると。


 人殺しにでもなって、金星からも地球からも追われるのは一番まずい。だから、レーザーの威力を一番下まで下げる。


 ここから見て、二人が一直線になったら、二人にレーザーをかすめるように打つ。このレーザーを作った人が、どうして金星にいない幽霊にも効果があるように作れたのかは謎だが、そこはどうでもいい。


 二人が一度距離をとる。次の交錯を狙う……!


 その時、すぐ隣の旧校舎が音を立てて崩れ落ちた。魔法?いや、超能力だ!


 大きく飛びあがって距離をとる……。


「ブへぇ!」


 何の音?


「ルンルンひどいよー!」


 着地したところには、ヒカル先輩がつぶれていた。尊敬する先輩の一人だ。なにより、その身も社会的地位を削ってでもチアに一心に打ち込むところが……!


 はっ!


 ダメダメ、落ち着くのよルナ・ゴールドスター。今は敵。今は敵。今は敵。


「どうしたのルンルン?」


「いえっ!先輩の生きざまに感動していただけでありますっ!」


 ありますってなんだよ私のバカバカバカ!


「えへへ、そうかなぁ?」


「そうですよヒカル先輩!」


「あ、ありがとうねぇ!」


 そう言ってヒカル先輩は抱き着いてくる。この人は、カヅキとはまた違ったかわいさというか、よさというか、いやいや、落ち着いて!私は別に佐藤カヅキのことを何という風に思っているわけじゃない。そうでしょ?そうよね?


「ヒカル先輩、それよりお急ぎだったのでは?私はこれで失礼します!」


 とりあえず、全力で逃げることにした。カヅキの逃げ癖、うつったかしら。







「へっくしゅん!」


「どうしたのカヅキ、風邪かしら?」


 ユウキがのぞき込んでくる。仕方ないだろ、周りで戦闘が起きているせいで冷や汗ばっかり書きっぱなしなんだから。


「ユウキ、あそこでユウリとアヤカが対戦中。」


 ユミコが指をさす方にユウキと二人で向くと、アヤカさんがユウリに向かって暴れていた。幽霊なんて実体ない相手にそんなことしても絶対無意味だけど。


 でも、見ていて気が付いたが、ユウリはそれを避けている。ということは、当たったらまずいのか?


「あれは……!」


 ユミコがはっとした顔をする。


「何の話だ?」


 俺がきくと、代わりにユウキが答えてくれた。


「あれは、浦和と西園寺で共同開発した悪霊退散の札よ。とはいっても、いい霊を退散させる人なんていないから、霊全てに効果があるけどね。」


 やばいじゃん。


「今度は、あそこ一体の足場を崩す。」


 ユミコがそういって、二人の付近を指す。そうか、ユウリは飛べるから足場を崩せばアヤカさんの攻撃は届かないのか。


 けれどもけれども。またまたイレギュラーが起こる。


 天井のかけらにでもあたったのか、あと2時間は起きないと言われていたアオイが起き出してしまったのだ。レイナは寝てるからいいが、アオイだけでも最近はこの二人と俺じゃ手に負えないぞ。


「さっきの偉人の話は聞いていただろ?どうするのさお二人さん。」


 口は動くらしいシオリさんが、自分を拘束しているセレスさんとフウリさんに向けて聞く。


「ダメです。あなたは危険すぎます。」


 セレスさんは断固拒否したのだが……。


「でも、このままじゃお姉ちゃんが浄化されちゃう!」


 フウリさんが超能力だか魔法だかの接続を切ったのだろう。


 シオリさんが解放された。


「さあ、アオイちゃん、もう一回寝ててね。」


「姉ちゃん……。ごめん、今は譲れないんだ。」


 二人はそう言って牽制しあうと、残像を残して……

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