男子校に入学したはずなのに、私のために争わないでな件

 さて、学校は地獄絵図と化していた。


「そっちかっ!」


「外れっ!」


 あっちでコンクリート塊がとび、そっちでは爆発が起こる。それもこれも、このバカ共が仲間割れして戦い始めたからだ。似たような超能力バトルなら前もやったでしょうに。番外編でだけど。


 関係ないほかの生徒は、中立の立場を宣言したフウリさん、セレスさん、マキ先生となぜかリラの手によって体育館に避難している。すみませんねウチのが迷惑かけて。


「ユウキ、やるよ。」


「はい、お師匠様!」


 二人が頷きあうと、外に向かって手をかざす。すると、夏休みの補習に使われた旧校舎がぐしゃぐしゃにつぶれていく。


「私は力の微調整が、お師匠様は高い威力が自慢なのよ。」


 この戦いが始まる前、そんなことをユウキが言っていた。つまり、ユミコの大威力をユウキの微調整であつかい、旧校舎をぶっ壊したのだろう。


「正解。」


 幸いにも、旧校舎には誰もいなかったらしく、悲鳴やなんかは聞こえてこない。……大丈夫だよな?


 さて、前回の後、こんなことがあったのだ。





「どうしてもショタ君を拉致したいなら、私たちを倒してゆきなさい。」


 俺の前に仁王立ちしたシオリさんが言う。


「それなら、初対面の時のリベンジ、させてもらいますよ。」


 カオリが指をポキポキと鳴らす。


 二人の放つ殺気により、真ん中にいたマキ先生が気絶、フウリさんとセレスさんがそれを運んでいる間に、カオリが飛び出る……が。すぐに動きが止まった。


「旦那様には近づかせない。」


 俺の後ろで、ユミコが手を前に出している。


「くっ……ち、力がっ!」


「悪いけど、カオリちゃんは少しお昼寝していてねぇ!」


 シオリさんが近づいていく……ところで、シオリさんの動きが止まった。


「待ってください!貴女が暴れると、この学校どころか、町全体に大きな被害が出ます!」


「真の中立を守るため、ここは失礼しますよ!」


 声のする方を見れば、セレスさんが恐らく超能力的にシオリさんを縛っている。


 どうでもいいけど、暴れると町に大きな被害が出る一個人って何者だよ。


「カオリお姉様を返してもらいますわぁ!」


 今のごたつきの間でユミコに急接近したレイナがユミコに仕掛け、ユミコはレイナ得意の斬撃の雨を超能力でかわす。その間にカオリは逃走してしまった。


「このままじゃ数で劣る。ルナを味方に引き入れよう!」


 ユウリが叫び、シオリさんが拘束されたまま力づくで頷く。


「そうはさせないよ!」


 アヤカさんがユウリを追って飛び出すが……幽霊相手じゃ勝ち目はないだろう。


 そのアヤカさんをさらに追撃しようとしたユウキに、誰かが襲い掛かり、ユウキは間一髪で躱す。


「親友に向ける力はないわ。やめてちょうだい。」


 ユウキに襲い掛かったのは……アオイだった。


「そうはいかないんだ。カヅキには、いい加減みんなの気持ちと向き合ってもらわないといけないんだ!」


「そのタイミングを決めるのはカヅキよ!」


 アオイは、ずっとそのことを気にしていたもんな……。申し訳なく思っていたところに、ヒカル先輩が倒れている俺を丁寧に縛って担ぎ上げる。


「じゃあ、逃げよっか!」


 そう言って走り出したのだ。


「せ、先輩!」


 しかし、運動神経がいいくせに、こういう時にドジをするのがヒカル先輩。廊下のつるつるの床で全力で走り出そうとしたので、滑って転び俺を放り投げたのだ。


「きゃっ!」


「うおっ!?」


 放り出された俺が衝突したのは、最強であるシオリさんを拘束しているセレスさんだ。セレスさんが、打ちどころが悪かったのか気絶し、シオリさんの拘束が解かれる。まずい、このままでは町に被害が……!


「やだなぁ、ショタ君、そんなに怖がっちゃって。私だって、むやみに暴れたりしないよー!」


 シオリさんが苦笑して、頭をぽりぽりかきながら、縛られたままの俺の隣に立つ。


「でも、あの子は違うだろうね。」


 シオリさんが、少し寂しそうにアオイの方を向く。


「おらあああぁ!」


「……!」


 アオイが暴れ、その打撃を、ユウキが超能力を駆使していると思われる力で避けている。


「この世界には、実は、偉人と呼ばれる能力があるんだ。神様の気まぐれか手違いで産み落とされた子だね。」


 でたよ、新しい設定。でも、俺の場合、思い当たる人が何人かいるんだが。シオリさん、カオリ、小学校の頃の先生にはカオリですら敵わない人もいたな。


「偉人の能力はある程度遺伝する。代を重ねるごとに弱くなるけどね。」


 もしかして、シオリさんは自分が偉人だとでもいうのだろうか。


「あー、私なんてまだまだ偉人でも何でもないよ。私は二代目。初代のお母さんはもっと圧倒的だよ。」


 すごいな偉人。いや、すごいから偉人なのか?すでに話の中には「霊」、「超能力」、「未来科学」に「魔法」まで出てきてるから、いまさら驚きはしないけどさ。


「本来偉人っていうのは、世界で50年に一人くらいしか出てこない。でもなぜか、いま、君の周囲には偉人とその子孫が腐るほど集まっているのよ。」


 俺の周りって、そんな言い方をされても困る。俺は魔法こそこの前少し習ったが、それ以外はてんでダメですよ?


「平安時代最強の偉人である西園寺陰陽の子孫、能力がきちんと覚醒していない偉人に、『教育の偉人』とその二代目二人、『魔性の偉人』の二代目とか。」


 え、これって長く続く設定だろうか。その場での使い捨てだと思っていたんだけど。


 そして、いくつか聞いたことがある雰囲気だ。西園寺はユミコの苗字だし、「魔性の」というのは以前聞いたレイナのお母さんの話をほうふつとさせる。


「さて、そんな偉人の血だけど、止められるのは同じく偉人の血だけ。ユミコちゃんは強めに出ているほうだけど、私の自慢の妹にはちょっとかなわないかなぁ?」


 ということで、ちょっと待っててね。


 最後の一言は、言っているのかいないのかわからなかった。それを口にするのとほぼ同時にシオリさんが掻き消えたからだ。


 ユウキとアオイの攻防の間に入って二人を止める。すでにユウキは息を切らし、アオイは少し興奮しすぎていたようだ。


 さわっ


 トンッという音すらさせない、なでるような仕草でシオリさんがアオイの首に手を近づけたとたん、アオイがフッと気絶した。


「はい、一丁上がり!」


 気が付くと、隣にアオイをお姫様抱っこしたシオリさんが立っていた。


「この子はあときっかり二時間後に目を覚ますからね。」


 シオリさんはそういうと、また掻き消え、気絶しているアオイを廊下の端で同じく寝ているマキ先生に並べてきた。


「姉に勝てる妹などいないのだよ!」


 それ、絶対どこかで妹に負けるフラグですよ……。

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