男子校に入学したはずなのに、月面で大事故な件
「何かあったのカヅキ?月面人の襲撃かしら!?」
一番最初に合流できたのはユウキだ。これで、俺のベッドにもぐりこんでいたレイナを含む三人で行動できる。
「わからん!だが、さっきから少し息苦しい!空気が漏れているのはほぼ確実だ!」
そうなると、運動神経が悪く、超能力系の力を持っていない二人と最初に合流できたのは不幸中の幸いだ。
「お前たち二人は風に逆らって進むか、どこかにしがみついていろ!俺は穴の原因を探りつつ、他のみんなを見つける!」
そんなことを話しているとアラームが鳴りだした。
「緊急、緊急。重大な空気漏れが発生しています。住人の方々は落ち着いて非難してください。繰り返します。……。」
やっぱり空気漏れか。隕石でも直撃しない限り大丈夫って言ったのに、シオリさんの嘘つき!
こんなことを言っている場合じゃない。早くほかの人を探さないと。
風の吹いていく方向である曲がり角で、ユミコとヒカル先輩がお互いに支えあいながらこちらへきている。時間がなさそうなのと、声を出しても恐らく届かないので、ユミコに先ほどレイナとユウキに行ったことを念じてそちらへと向かってもらう。
「……には……カ……が……。」
ユミコが何か言っている。おそらくカオリが取り残されているのだろう。
「俺に任せろ!」
そういうと、ユミコが頷き、ヒカル先輩がユミコを引っ張っていった。
どうやら、アオイとアヤカさん、マキ先生、フウリさんは俺よりも空気漏れが起きたところから遠いところにいたようだ。一本道ですれ違うことはなかった。
「カヅキ!これは月面人の仕業じゃない!奴らはもっと穏健で、やるなら誰にもバレないように動くはずよ!」
俺と同じようにそろそろと穴の方へ向かっているルナにあった途端、そんなことを言われた。すごい大声で。
っていうことは、まさかのまさかで隕石か!?でも、月って確か常に地球に同じ向きを向いているって、エレベーターの中で読んだマキ先生からもらった教材に書いてあったし……。
「あの二人は今穴をふさぐために動いているみたい!どうするカヅキ!?」
あの二人なら放っておいてよくね?と心の中の悪魔に一瞬負けそうになったが、ダメだダメだ。いくらなんでも女子二人を死地に送っておいて自分は逃げるのは男としてなしだ。
「俺は行く!ルナ、お前はどうする?」
「ウチは最悪空気がなくても生きていける!行くわ!」
目は霞み、頭は痛い。どんなに深く吸っても息を吸っている気がしないし、歩いているだけで足がふらつく。
「無理しないでよカヅキ!あんた死なせたら、ウチが二人に殺させれるんだからね!」
そう言ってルナがどこから取り出したのか酸素ボンベを直接俺の口に当ててくる。
「それだと酸素中毒にウボボボボボ!」
今度は酸素の吸いすぎで口からキラキラが飛び出す。もはやラブコメを大きく逸脱しすぎだろ。しっかりしろ俺と作者。
さっき見た間取りと、空気の流れ的に、次の部屋に穴があるはず!
「ショタ君!?なんで来たの!?」
その部屋をのぞいてみると、思ったよりごっつい穴が開いているところに、シオリさんとカオリが二人でパテを当てている。ていうか、なんで二人ともボンベも何も背負わずに宇宙空間で生きてられんの?
「その廊下のドアよりこっちに来るな!一気に酸素が薄くなるぞ!」
カオリが警告してくる。
「でも、この穴は二人で、しかもパテなんかじゃ埋められないでしょ!」
ルナが二人に向かって叫ぶ。そう、そういうレベルの穴じゃない。
宇宙船の穴はねじ程度の原因でもそこそこのサイズができるらしいが、これはそういうレベルじゃない。靴でも飛んできたか?
人一人ぐらいのサイズの穴はパテじゃ埋まらない。何か、詰めるものでもあれば……。
そんなことをもうろうとする意識で考えていた時だった。
「悪いカヅキ、とりあえず行け!」
そんな声とともにカオリに引っ張られ、ベタッ!と穴に詰められる。
「ショタ君、ごめんね!」
シオリさんが俺の周りにパテを塗って……壁に組み込まれてしまった。気圧の差の問題なのか、外側に面する背中がクソ痛い。背筋がまるまる持って行かれそうだ。
「な、何してるんですかっ!?」
風が収まったことに気が付いたのか、マキ先生を先頭にみんながやってきた。
「カヅキちゃん、私が変わろうか!?」
アヤカさんの申し出は丁重にお断りする。いま女装コルセットの後ろ側が千切れちゃってて、見せられないのよ。
「それもそうだけどシュガー、私のプレゼント、持ってきてくれていたんだね!」
ヒカル先輩も大概言っていることが訳が分からない。だいたい、そんなジャンプシューズなんて月面に持ってくるわけ……。
「そいつが犯人だ。」
俺がつぶやくと、みんなが、「えっ?」って顔でこちらを見る。
「月面人がこいつを投げつけたとでもいうのか?」
アオイが、何を言っているのかわからない、という風に尋ねてくる。惜しい。
「これ、俺が空に飛ばしてなくした方だよ。あれ、宇宙のかなたに飛んでいったように見えたけど、たぶんどこかで追い越していたんだろう。」
もはやガバガバ過ぎる設定だと思うが、この作品なら起こりうる事態だ。
「それより背中が痛いんだけど、誰かどうにかしてくれない?」
そろそろ内臓ごとミチミチいいながら引っ張られて行きそうだ。
「じゃあ、一気に引っ張るぞー!」
カオリが声をかけ、大きなカブのようにみんながその後ろにつく。やめろ、ストップ、腕がもげる。
その時、背中に何かがそっとかぶせられた。シオリさんが外に回ってくれたのか?と同時に、背中側に空気が送り込まれ、家の内側にいるみんなの上を転がって飛び出る。
「あれ?ショタ君、穴は?」
いつの間にか穴までふさがっている。
「え、さっき外側から空気入れてくれたの、シオリさんじゃないんですか?」
「やだなぁ、私だって外に行くには宇宙服必要だよ!?」
金星で着てなかったの、覚えてるからな。
「さっき、知らない言語の思考をキャッチした。」
ユミコがリアル電波なことを言ってくれる。
「ワタクシも外に気配を感じましたわぁ!」
「超能力的な気配もあったわね。」
「でも、霊の力も感じた。たぶん、体の構造は人間とは全く別だぞ。」
レイナ、ユウキ、ユウリの証言で何となく俺の恩人の正体がわかってきた。
「監視カメラ見てくるね!」
ヒカル先輩がアヤカさんと走り出す。
「たぶん、隠密に長けてるならそんなもんに映らないだろ。」
カオリも同じ相手を想像しているらしい。
「ええ、これは……。」
ルナも確信している。だが、お礼をするのは諦めた方がよさそうだな。向こうもこちらに見つかるつもりはないらしいし。
「でも、いつかはシオリさんのところに来るかもしれませんね。」
俺は冗談めかして言ったが、半分は本気だ。この人の技術は本当に地球の数世紀先を行っている。
「あはは、そうだねぇ!」
「とりあえず、疲れましたしもう休みましょう!」
こうして、一泊分の時間をのんびり過ごせた。
「ところで、佐藤さん?」
「マキ先生、珍しいですね、どうしたんですか?」
「明日は、学校に来てくれますよねぇ?」
この人は怒ると怖いことを再認識した。
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