男子校に入学したはずなのに、久しぶりな学校で衣替えな件

 久々の学校。いや、別に俺は学校が嫌いなわけでもなければ、意図してさぼっているわけでもない。


 ただ、強引に休まさせられたり、拉致されたりといろいろな事情が重なっているだけなんだ。


「あれ?佐藤、お前の顔久しぶりに見る気がするな。」


 俺もリラの顔を超久しぶりに見る気がする。最後に見たのはおそらく文化祭期間中だから……二週間ぐらい前か?話したのに至っては夏休みの補習とかじゃないかな?記憶があいまいだ。


「というかお前、まだ夏服着てるのか?もうとっくに衣替え終わったぞ?」


 リラに指摘されて気が付く。そういや回り、みんなが冬服を着ている……。


 そもそも、テキストしかない小説で衣替えをメインにおこうなんて、作者の頭はどうしちゃったのか。そういうのは漫画で!女子が!やるから需要があるんだよ。女装男子の衣替えの需要なんてない!……はず。


「明日からは気を付けるんだぞ。」


「うっす、すみません。」


 あっぶね、最初ちょっと男喋り出かけたわ。マジで学校久しぶりすぎる。


 こういう時、ルナからもらった銀色ウエットスーツが役に立つ。周りの目を盗んで、パッと一瞬。ほら、冬服の出来上がり!


 なるほど、役に立つな。


 ちなみに、激熱機能はシオリさんに設定を変えてもらった。


 月から地球へと変えるエレベーターの中で先生に叩き込まれた今までの勉強のおかげで何とかついていけてるし、履かないと怒られそうだから部活ではヒカル先輩がくれた靴を履くつもりだ。


 逆に、もらったときに嬉しかったものや普通なプレゼントほど手に余るというのは、本人たちの前では言えない。


 机の上においてあるパソコンをぶっ壊してくれそうな、カオリのくれたアロマオイルや比較的周囲に害を及ぼさないタイプであるアヤカさんのくれたヘッドドレス、もうほとんどやっていないバスケのボールなどなどだ。


 一応言っておくが、レイナのくれた名刀正宗は鞘にしまえないので地面に刺しっぱなし、セレスさんのくれた等身大ハッデー君はシオリさんの研究室においてある。俺はいらないし。


 フウリさんのくれた米は、大切に保管しようとしたら、


「明日も今日のように健康体で、おいしくご飯が食べられるとは限りませんよ!」


 といわれ、その日のうちに炊いておいしくいただいた。


 いつものスーパーで安売りしている米に比べてなんかおいしいなと思ったら、新潟県産コシヒカリだった。当時はこんな品種などなかったらしい。


 結局、ほとんどをフウリさんに上げてしまった。後悔はしていない。この人は、もっと笑顔でいるべきだからな。


 ……え?ユウキからもらったRTXはどうしたって?これが、機会こそ少ないが一番役に立ってくれている。


「おいカヅキぃ!お前のせいでウチまで冬服じゃねぇか!」


 俺が家に出るとき、もはや制服の用意までする必要が出てきたカオリ様がおなりだ。俺が制服を間違えたせいで怒り心頭のご様子。廊下を歩いているだけにもかかわらず襲ってくる。


 こういうとき、ユウキからの誕生日プレゼントは誰の物よりも役に立ってくれている。使い道はお察しの通りの方法だ。


「ほれっ。」


 小さい入れ物に細心の注意でもって入れ替えたそれを軽く放ってあげる。


「プレゼント、フォー、ユー!」


 三回目からはカオリが躱すようになったんで、一発目はダミーを投げるようにしている。


「何くそっ!」


 何年幼馴染やっていると思っているんだ。お前の避け方のクセ、死角、盲点、すべて把握しているぞ!


「いまだ、やれ、レイナ!」


 やっぱりだ!


 カオリは何気に他人の力を借りるのを気にするタイプだ。そして、一回目のダミーをかわさせて二回投げる方法をすでに二回食らい、見破った。


 その時にこいつが取る方法というのは、もう一回回避を増やす……のではなく、他人、それも自分と近しい人の力を借りる。


 カオリと仲がいい人で、学校に入るだけで目立つシオリさんを除けば、レイナしかいない。


「お姉さま、確保ですわぁ!」


 そしてレイナは真後ろから抱き着いてくるのが好き。ならば、真後ろにRTXを塗りたくったとげがあればどうなるだろうか?


 ドスッと音がして俺の前から音が上がった。


「ぐはっ!」


 はめられた……だとっ!?


「お前は後ろへの防御に意識を振ることまで織り込み済み。そしたらウチは前から貫くだけだ。」


「ちょっとだけ味見ですわぁ!」


 ぺろっ。


 犬みたいにほっぺを舐められる。これ、また拉致られるやつ!?


 だが、今回はそれでは終わらなかった。そろそろ拉致エンドも飽きてきたのか?


「待ちなさい二人とも!」


 なっ……そこにいたのはシオリさんだ。なに学校に勝手に入ってきているんですか。


「ショタ君を拉致るのは許さない!」


 だが、シオリさんはなんだか味方みたいだし、ツッコむのはよそう。


「いや、こいつにはわからせる必要があるんだよ、姉ちゃん。」


 アオイが廊下の角から出てきた。


「あなた、同じ親友としてそれで恥ずかしくないのっ?」


 ユウキも反対側の廊下の角から出て来たし。


「拉致したい気持ちはわかる。」


 ユミコが廊下に面した教室から、


「ならやっていいじゃん!」


 ヒカル先輩が窓から飛び込んできて、


「カヅキの好きにさせてやれよな。」


 ユウリが床をすり抜けて、


「私は拉致するの手伝うよ!」


 アヤカさんが窓から飛び込んできて、


「ウチはいまのところ成り行きを見守らせてもらうわ。」


 いいから助けてほしいのだが……と思わせながらルナが電話をかけてきて、


「平和を壊すのは許さないですよ。」


「右に同じです。カヅキさんには恩もありますしね。」


 フウリさんとセレスさんがどこからともなく俺の前へ、


「み、皆さん、落ち着いてください!」


 二人にわっしょいと抱えられてきた、真ん中に降ろされたマキ先生が縮こまる。


 このながれ、代々戦隊ものやヒーローもので使い古された流れじゃないか。


 仲間割れし、潰し合い、最後に仲直りして一つの目的を達成する、みたいなやつ。一番危険なのって、俺じゃないの?

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