男子校に入学したはずなのに月面旅行に行くことになった件

引率教諭:一ノ瀬マキ


参加生徒:一年……佐藤カヅキ、浦和ユウキ、田中アオイ、山田カオリ、鈴木レイナ、ルナ・ゴールドスター


     三年……西園寺ユミコ、本城ヒカル


 また、今回の課外学習はボランティア数名が付くものとする。




「じゃあ、早速別荘へ。」


 なんとか無事にみんなからの誕生日プレゼントを受け取り終わった後、ユミコにそう促された。


「ダメですよ、佐藤さんはここからの休みをすべて返上しても間に合わないくらい休んでいるんですから。」


「短期留学制度を適用させる。」


 気が弱い一ノ瀬先生が折れるのにはその一言で十分だった。


「それって、うちらは行っちゃダメか?」


 アオイが不安そうに聞いてきた。


「もちろんダメ。」


「いや、いいだろ。」


 ユミコはなんか嫌そうな顔をしていたが、俺が誕生日にもらったものだし、誰かを仲間はずれにするのは心が痛む。


「旦那様、浮気性?」


 誰がじゃ。俺の心読めてるならそういうの良いから。


「それなら私も遠慮なく。」


 ユウキがそこに乗っかり、結局いつものメンツで行くことになった。ヒカル先輩いわく、ボーイッシュ先輩も来たかったが、受験のために休むらしい。それをあなたはよくもまあ笑顔で報告できますね。


「ところで、月に行くのに誰も帯銃しないの?」


 ルナが、さも常識を聞くように問うてきた。


「いや、まさか月面星人でもいるのかよ。」


 カオリがルナに聞き返す。月程度はさすがの地球の技術でも研究されていると思ったが。


「いないわけないでしょ。地球よりはるかに高い技術、特に隠ぺい力を持っているわ。」


 もう驚きなれているのか、へぇ、ぐらいしか感想が出てこない。


「たまに地球人の技術力を測るために隠ぺいをしていない機体を地球で飛ばすこともあるらしいわ。」


 それがいわゆるU.F.Oか……そういう難しい話は偉い人、頭がいい人が頑張ればいいと思います。はい。


「それじゃあみんなこれ、はい。」


 シオリさんが雑に銃を配る。が、明らかにテレビとかで見るそれとは違う。


「これ、なんだ?」


 ユウリがあまりいい顔ではない顔をしながらシオリさんに聞く。


「素人でも狙いがつけやすいように形を変えたルナちゃんのレーザーだよ。セーフティーないから注意してね。」


 みんなはきょとんとしているが、なんつったテメー。


「あと、引きやすいように引き金は雲より軽いから気を付けてね!」


 それはもう銃じゃなくて時限爆弾だろ。


 いろいろあってようやく準備を整えた。なんでも、食料や空気はすでに充分以上に別荘の方に供えてあるらしい。ありがたやありがたや。


「そういえば、エレベーターってどこにあるんだ?」


「じゃあ、ショタ君の家に行こうかー!」


 嫌な予感がしてきた。






 エレベーター。オーバーテクノロジー、俺の家……うっ、頭がっ。


 俺が立ちくらむと、カオリが、


「ウチも同じ気持ちだよ。」


 と支えてくれた。カオリにここまで言わせるとか、シオリさん怖いよいろいろ……。


「ほら、入って入って!」


「こ、これがほんとの女子トイレ……!」


 シオリさんに押し込められて鼻血を出しているアヤカさんを避けながら、エレベーターという名のトイレに乗る。改装して広さが5倍ぐらいになっているけど、もうここをトイレとして使うのは完全に諦めたからいいや。


「お姉様との旅はいつも退屈しませんわぁ。」


 レイナが引っ付いてくる。俺は退屈ぐらいさせてほしい。最後に退屈したのはいつだろうか。もはや記憶が出てこない。


「出発。」


 ユミコが「M」とかいたボタンを押す。月の頭文字でMなんだろうけど、エレベーターに使う文字ではない気が……


 ガコンッ!


 嫌な音とともに俺らは地面に倒れ伏した。いや、急上昇中なのか。


「この中での腕立て伏せは特訓になりそうだね!」


「反重力魔法って、こういう時のために使うものだったんですね。」


 などと言っているヒカル先輩やセレスさんは元気そうだが、


「ブクブクブクブク……。」


「痛いです!痛いよう、お姉ちゃん!」


 気絶しているマキ先生とフウリさんはもう諦めよう。うん。


 そんな時間がどれほど続いただろうか。減速……は全くなく、急停止により天井、いや、地面か?にたたきつけられて、サザエさんのエンディングの家みたいになった。わかる人にはわかるはず。


 目を開けると、ドアが開いて、奥へと廊下が続いていた。


「ここが……。」


「そう、旦那様の別荘。」


「君の秘密基地だよ!」


 ユミコとシオリさんが胸を張って言う。いや、ユミコ、張り合っても勝てないからやめとけ。殴ろうとするなって!


「でもこんなところ、安全なのか?」


 カオリが心配そうに言う。お前は何が起きても死なないだろうから安心しろ。


「大丈夫だよ!ピンポイントで隕石でも落ちてこない限りね!」


 シオリさんにとって相当な力作なのか、めちゃくちゃいろいろ説明してくれる。


 原子単位で水を作り直すろ過装置、どういう理屈かは知らないが、酸素とエネルギーを同時に取り出す超高性能ソーラーパネル、地球上のあらゆる料理を作れる自動配膳機。


「いやはや、技術の進歩は偉大ですね……。」


 フウリさんがようやく回復してまた絶句しているけど、これはこの人限定ですからね?


「庭はこっち。」


 芸術的な知識もあるらしいユミコの設計らしい。ていうか、酸素ないのに庭を造られましても。


 巨大食堂でみんなでご飯を食べたり、軽くなった体で体育館で遊んだり、違うのは密室ってことと、重力だけのはずなのに、こんなにも環境が変わるとは……。


「旦那様が言い出すだろうと、全員分の客室もある。」


 すごいな……。っていうか、さっきダメって言っていたけど、なんだかんだユミコもみんなにいかせたかったんじゃないか?


「うるさい。」


 珍しくユミコが赤面している。普段は無表情なだけに新鮮だな。


「もう寝るべき。時差ぼけ防止。」


 そう言ってユミコは珍しく自室に戻ってしまった。


「お休み。」


 俺もベッドに横になる……って、引っ掛かると思ったか!


「レイナ、そこに隠れているのはバレてるぞ。」


「ご、ごめんなさいですわぁ。でも、ワタクシたちのプレゼントがユミコ様のに負けているんじゃないかと不安で……。」


 だからと言って俺のベッドにもぐりこむな。関係性が一切わからん。


「安心しろ。大丈夫だから。」


 その時だった。


 ズゴオオオォォォン!


 大きな音と共に風が吹き始めた。

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