男子校に入学したはずなのに、フラグ整理の会がある件:マキの進路相談

「それでは、進路相談を始めたいと思います。」


 魔法やらガラスの破片やらでギタギタになった部屋から、黒服の怖いお兄さんたちに誘導されて新しい部屋につき、座った途端にこれだ。


 しかも、俺の隣にはユミコが。


「まず、将来の目標等、何かあれば教えてください。」


「私の旦那様。」


「違う!いや、まあ、特には決まってないですけど……。」


 こんなノリで俺の将来を決められてはたまったもんじゃない。


「えっと、それでは、進学は考えていますか?一応、内部進学というのもありますが、多くが外部に出るらしいですよ。」


「がい……」


「内部。」


 ユミコ、俺の頭が読めているなら、あえて違う答えを出さないでくれるかな?


「さ、西園寺さん、一応、本人のご意思を尊重しないと……。」


「ていうかなぜおまえがいる。」


「妻として出席。」


 やめなさい、一ノ瀬先生が顔真っ赤にしてるでしょ。


「えっと、西園寺さんは内部進学なのかな?」


 あまり話したことがない二人なので、先生はユミコの見た目につられて子供に対する話かけになっている。痛っ、ナレーション読んで怒るなよ。


「西園寺グループから、すでに旦那様専用口座を開設、お小遣いに30億は入れてある。」


 怖いよ。勝手に口座作れてるところも、入ってる金額も。


「西園寺グループとしては大卒以上しかとっていないから、旦那様にも大学は出てもらう。でも、経営は私。」


 ユミコがトリップしている間に、俺が話させてもらう。


「えっと、今のところはあまり深く考えていませんが、慶田大学や、早稲應大ぐらいには行けたらなと考えています。」


「無理ですね諦めましょう。」


 せ、先生?そんな、「おっと口が滑った、聞かなかったことにして」みたいな顔してもダメですよ?


「大丈夫。それが旦那様の望む道なら、いくらでも裏口を用意する。」


 トリップから戻ってきたユミコも恐ろしいことを言ってくれるし。


「まず、俺は裏口はいらない。自力で入試を受けるから!」


「ま、まずはこのテストを解いてみてください。」


 ユミコが退出、先生が試験監督で3時間。


「採点まで終わりです!」


「随分ダイジェストにしましたね。」


 雑なんて言ってる場合じゃないシナリオの構成だ。


「やはりカヅキさん、って感じの点数ですね。こちらをご覧ください!」


 何々……。三教科、300点満点で……5点。


「偏差値が15、志望校合格率0%です!」


 もはやマキ先生すら一周回って笑顔である。俺はさらに一周回って真っ青である。いや、回ってないか。


「で、でもこれ、入試問題ですよね?それなら解けなくても仕方な……」


「一年生で習ったところだけを集めた模試です。」


「ここは中学生の単元。」


 ……あるぇえ?まちがってるぞぉ?そうかあ、間違っているのは俺じゃなくて世界かぁ。


「現実逃避禁止。」


「佐藤さん、これ、相当大変ですよ。とても優秀な先生が個別指導で教えて、一年生の分を取り返せるか否か……。」


「受験までにはぎりぎり。」


「そういうお前はどうなんだよ、ユミコ。」


「他人の心よむ。」


 カンニングじゃねーか。


「しなくても満点。」


 クソ、こいつもなんだかんだ言って頭いい組か。いいなぁ。俺も父さんみたいに頭いいまともな人格者になりたいのだが……。


「そういえば、先生はお義父さんの教え子。」


「いや、誰がお義父さんじゃい!って……」


「「えっ?」」


「西園寺さん、冗談でも怒りますよ?あの先生のお子さんがこんなに馬鹿で脳みそすっからかんなわけないじゃ無いですか!」


 すんません、とりあえず無駄に俺を傷つけないでください。っていうか、一ノ瀬先生って案外口悪いのな。


「西園寺グループの調査力を疑う?」


 ユミコがつぶやくと、窓から、床下から、天井上から、ドアから、十人以上の黒服の男が入ってきた。もちろん、手にはモデルガンを持っている。


 ……モデルガンだよね?ショットガンから狙撃銃まで、どんな距離でもガチで殺しに来てるし。


「信じます信じます、先生もそうでしょ!?」


「いえ、私は……。」


 あわてて口をふさぐ。この人、一回校長に歯向かってから変なところで勇気出しすぎなんだよ!痛いって!噛まないで!


「まあいい。」


 さっと黒服たちが消える。


「つまり、お義父さんがいる限り安心。」


 いや、それよりマキ先生が父さんの教え子って!?


「うん。」


「佐藤……。」


「名前はいうなって!絶対こんなところでちょびっと名前出しても、作者が後で忘れて矛盾が生じるんだから!」


 国民的4次元ポケットを持つ某アニメのヒロインのお父さんは、おかげでキャラデザすら安定していないとか。


「さ、西園寺さんの冗談はともかく、佐藤さんは今すぐ勉強した方がいいですよ。」


 それは俺もそう思った。


「あとは、大学の偏差値を少し落とすことも視野に……。」


「それは、やっぱり嫌なんです。」


「そうですか……。私も全力で教えますから、力を合わせて、がんばっていきましょうね!」


「はい!ありがとうございます!」


 俺とマキ先生がしっかりと握手したとき……。


「シュガー!見てみて!回転式福笑い!五時間耐久コースだよ!」


 なにそれ面白そう。


「カヅキの分もあるから、みんなでやろうぜ!」


 カオリの声も聞こえる。


「待って!今行くから、一緒にやろう!」


「佐藤さん!?いま、何の話していたか覚えてます!?」


「覚えてます!楽しいことはやらないと、人生損する、ですよね!」


「言ってない!言ってないからそんなこと!」


「それでは、またお会いしましょう!行ってきます!」


「待って佐藤さん!できれば、お父さんのおうちでのご様子とか……!」


 遊び終わったのちに聞いた話だが、マキ先生はガチで父さんの元教え子だったらしい。それならそうと早く言ってくれれば……とも思ったが、向こうも今日知ったみたいだし、この学校、管理ずさんだなぁ。


 父さんは絶対に個人情報を漏らしたりしないから、俺が知らないのは仕方ないが。


 ちなみに、本日の微妙に余った尺はみんなでおいしくいただいた。

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