男子校に入学したはずなのに、フラグ整理の会がある件:セレスの魔法講座

 なぜ俺が女子トイレを使っていたか。すれ違ったのがマキ先生やアヤカさんなら、俺自身の直接の安全はともかく、正座で叱られることなんてなかったろう。


「いいですか?私たちの世界にはない、とても便利な多目的トイレという存在が、こちらの世界にはあるはずですよね?なのにあなたは、わざわざ女子トイレに入ったりしてきて……犯罪ですよ?わかっていますか?」


 返す言葉もございません。


 多分、今までほかの女子連中が俺が学校の女子トイレに入ったりアパートの同じトイレを使ってもツッコまなかった方が珍しいんだ。普通はこういう反応をする。


「ちなみにここは治外法権。」


 毎度毎度何かあるたびに出てくるユミコが、今回は床板を外して出てきた。


「っていうか、今回はフラグ整理がどうのな会、というか集まりだろ?」


「うん。」


「なら、セレスさんはでなくてよくね?」


 こうやって日程は巻いて早く帰ろう。じゃないと、マキ先生のごまかしがバレてしまうかもしれない。


「すみません、それは、私があなた方にお礼をするため、ユミコさんに無理を言ったのです。いちおう、世界を救ってもらいましたし。」


 なるほど、そういうことなら……。


「でも、さっきのあなたを見てお礼をする気が一切なくなりました。」


「その件については本当にすみません。」


「いいですか?あなたには魔法の才能があります。」


「そもそも魔法って?」


「魔法というのは、精神に起因し、この世に変革をもたらす力のことです。」


 ごめん、そういう急激ガチ展開は俺も読者も求めていない。


「超能力は意思、つまり脳みその構造が原因で、魔法は心の在り方の問題。」


 ユミコが解説をしてくれる。その設定、絶対今作ったろ。


「どんな魔法が使えるんだ?」


「あなたの才能は火の魔法ですね、火を起こせますよ。」


 すげえじゃん。いつか俺もかっこいい魔法使いみたいになれるのか!


「ですが、こちらの世界の構造上、あなたの精神構造的に、自分の体しか使えません。」


「というと?」


「私も魔法は使えないけど、体内の酸素しか使えない、とか?」


「さすが超能力者、そんな感じです。酸素が何かはわかりませんが。」


 ってことは、もし俺がすこしでも火を起こす魔法を使えば、酸欠で倒れるってことか。なんて使えない……。


「でも、希望はあります!例えば、薪に火をつけるのに使えるとか……。」


 人間チャッカマンじゃねーか。誰が喜ぶのその役割。この世界にいるなら100円ライターでいいよ。


「あと、弱点属性の攻撃には弱くなるので気を付けてくださいね。」


 なんだよ属性って。


「つまり、旦那様は水に弱くなる。」


「チャッカマンになれる代わりに泳げなくなるってか。リスクリターンが釣り合ってなさすぎだろ。」


「いえ、そんなに重い代償は必要ないですよ。せいぜい、少しだけ泳ぐのが遅くなる程度、サメにでも追いかけられない限り不安になることはないです。」


 今までの俺の不幸度合いと、作者の雑さから言って、それがないとは言い切れない。


「そのリスク、軽減とかできる?」


「それでしたら、わが王家に伝わる秘宝を差し上げましょう。代々伝わるものですが、私の世界を救ってくれた方にはふさわしい物でしょう。」


 お、なんだなんだ?水中でも呼吸ができる魔法の道具とかかな?セレスさんはとても大きなものを出してきた。


「じゃーん!こちらです!」


 金に輝くそのアイテムは、俺の体ぐらいの穴が開いたドーナツ型の物体だった。


「これをつけると、かなり強い火属性の方でも水上で自由に行動できるそうです!」


「要らん。」


「そんなぁッ!?」


 それ、現代日本の科学で十分に作れる浮き輪と呼ばれるものです。


「じゃあ、こちらの水上拠点なんてどうですか?」


 それはフロートマットって呼ばれる奴ですね、あります。


「あー、すんません、それどれも現代日本で量産されてるんですよ。」


「でも、水に浮くんですよ!?」


「そういう商品ですからね。」


「泳げなくてもいいんですよ?」


「そういう人向けですからね。」


「ドラゴンのブレスにでも耐えられるんですよ!?」


「やっぱそれ全部もらっていいですか?」


 ドラゴンのブレスがどんなものか知らないけど、勝手なイメージ的には、火がゴーってなったり、吹雪がヒョーってなったりするんだろう。それを耐えられるって、金属か何かか?ユミコに預けて量産させれば、俺も一生お金に困らなくなる……。


「旦那様、お金なら私が稼いで払うから。」


 ユミコじゃなくてシオリさんでもいいか。でもあの人いまヒカル先輩と百合百合するのに忙しそうだしなぁ。


「ま、まあ、これぐらいなら……。」


 セレスさんが涙目なので、もらうのは断念しました。


「ちなみに、セレスさんはどんな魔法を使うんですか?」


「私は光属性使いです。ですので、レーザーを作ったり、気候を変動させたり、大体なんでもできます。」


「ってことは、やっぱり弱点は闇属性なの?」


「はい。夜中にトイレに行けなくなる、寝るときに明かりが必要になるなどの弱点ができます。」


 ガキか。


「ほかにも、地面に潜れなくなる水属性、火の中に入れなくなる森属性、太陽を見ると目が焼ける闇属性などがあります。」


 圧倒的火属性の不遇さよ。俺よ、なんで火属性なんだ。


「ほかにも、属性外魔法と呼ばれる、無属性魔法があります。ですが、無属性魔法は『無』をつかさどるため、この世に存在することが困難になり、体が勝手に消滅します。」


 火属性でよかった。


「ここらへんで魔法講座を終わりますが、よいですか?」


「あー。でも、試し打ちしてみたいかも、せっかくなら。」


「お姉様がそういうと思って、みんなで用意していましたわぁ!」


 外を見ると、みんなが薪木を囲んでいる。


 ていうか、マキ先生とかアヤカさんの前で魔法なんて使っていいのか?


「一応言っておきますけど、私だってオカルト系のことは信じていますからね?」


 マキ先生の声にレイナの顔が半分だけ引きつる。


「私も、超能力なら店長のをいつも見てるし!」


 本当に、なんだこの集まり。


「じゃあ、行きますよ、魔法って、使うときに呪文とかいりますか?」


 俺がセレスさんに尋ねると、ユミコがセレスさんの口を遮り、「火の呪文」とかいた紙を渡してきた。


「これを大声で。」


「あーこれですね。なになに。『この世に在る万物よ、この世に在る生命の源よ、我に集いてこの地に炎をもたらさん!』」


 ……恥ずかしっ。中二病じゃん、誰だよこんなバカゼリフ考えたのは。ユミコと作者か。


 みんなが静まり返る。もちろん、何も起こらない。


「えっと、呪文とか入らないので、集中して火が出るイメージをすればできますよ。」


 ユミコにグリグリをしていると、セレスさんが教えてくれた。ので、さっさと集中させてもらおう。


 頭の中で、体の酸素が指先に集まり、燃えるイメージを……


「アッツ!」


 指先に直接火が付いたので、着火剤にその火を近づけ、とりあえず火だけつけたら、バケツの水に手を突っ込んで火を消す。


「あれ……視界が暗い……。」


 まさか、もう酸欠!?


 俺はそのままゆっくりと気絶していった。

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