男子校に入学したはずなのに、フラグ整理の会がある件:ルナとの異文化交流

「なあ、ルナ。」


 俺は、ルナが部屋に入ってきたときに、ずっと気になっていたことを言わせてもらうことにした。


「お前、別にフラグとか立ってないだろ?俺、早く帰りたいし、帰らせていただいてもよき?」


 こいつは、なんだかんだキャラが濃いくせに出演率が低い。フラグもクララもたっていないだろう。


「べ、別に、あんたとの間にフラグなんて立っているわけないでしょっ!か、帰らせてもらうわ!」


 そう言って、ルナは唇を強く噛み、血をぼたぼた垂らしながら……。


「って、待った!」


 ふと、本能が危険を察知した。こう見えて、だてに長くカオリのご機嫌を取る人生を送ってはいない。この機嫌の損ね方は、長引く予感がした。


「な、何よ!」


「やっぱ異文化交流は大事だろ?だから、もう少しそばにいてくれないか?」


 頼む、この答えであっていてくれ……。


 しばらくルナは固まった後、顔を赤くして


「仕方ないわね、あんたがそこまで言うなら、いてあげてもいいわよ!」


 と言った。どうやら、選択肢として正解だったようだ。あー、ひやひやした。


「べっ、べつに、あんたのためじゃないんだからねっ!」


 なんだろう、このゲームに出てくるツンデレキャラみたいな感じは。俺の周りは比較的こういうの多い気がするけど。


「い、いい?うちは男が嫌いなの!だからあんたも半径1kmには入るんじゃないわよ?」


 同じ学校に通っている時点で無理ゲーだろ。


「なら、今この状況はどうなるんだ?」


「あんたのことが血反吐吐きそうなぐらい気持ち悪いけど、我慢してあげているのよ!?感謝し、泣いてウチに一生の忠誠を誓いなさい!?」


 ごめんなさい高校生には重すぎる。


「ふと気になったんだけど、金星人ってみんなルナみたいな性格なのか?」


「うーん、気にしたことないけど、大体みんな似たような感じじゃないかしら?地球人ほどいろいろな性格やら個性やらがあって、あっちこっちで戦争が……っていうのはないわね。」


 なるほど、こいつは最初、地球の男を全滅させる目的で来てたっけ。そんなに簡単に他の星の支配生物を半壊させようという意見が通ったのは、みんな同じ意見だからか。


「逆に言うと、発展も遅いわよ。あんたら地球人類が発達したのは、せいぜいここ4000年が歴史ってところでしょうけど、ウチらのところは2万年は歴史があるわ。」


 なるほど、みんな同じスペックだからか……。


「ちょっと、なんでかわいそうな人を見るような目でこっちを見るの!?やめなさい!その目で見るな!」


 ビィンッ!


 危なくレーザーが目から脳天まですべて貫いてくれるところだった。怖すぎ。


「言っとくけど、ウチは特別優秀なのよ?地球で言うところの特殊作戦部隊的な立ち位置にいるんだからね?」


 まあ、仮にも隣の星を攻め滅ぼすために来ているんだから、そういう立ち位置にいても何らおかしくない。こいつの能力を除けば……。


「ってことは、大体の金星人はお前より能力が低いんだな……。」


「何!?何を憐れんでいるのよ!?」


「大丈夫、俺が憐れんでいるのはお前の事じゃない。」


 こいつと似たような性格であり、なおかつこいつよりも何らかの能力が低い場合が多いとか、金星の人かわいそうすぎるだろ。


「そういえば、お前の他にも金星人地球に来てたりしないのか?」


「来てるわよ?でもみんな、だいたいこの星で恋人作っちゃって、永住申請と退職願を出してきたわ。」


 なんて打たれ弱い特殊部隊……。


「その点私は超優秀!すっ、好きな人なんていないし、きちんと任務を遂行しているわ。」


 最初の「す」で声が裏返っていたぞ、好きな人いるのか。シオリさんとかかな?


「任務って、お前最近チアしかしてないじゃん。」


「地球人との絆を持つのが今の私の任務よ!その点チアは……。」


 あ、なんかスイッチ入っちゃったみたいだな。





 三時間ほどチアについてご高説いただいた。正座が痛いんよ。


「それで?あんたも副部長なんだから、チアに関して少しは語れるんでしょうね?」


 当然だ。


「いいか、お前はこないだまで勘違いしていたが、そもそもチアリーディングというのはな……。」


 その後、俺のチア論は四時間弱程度で遮られた。


「旦那様。そろそろ夜が明ける。」


 そう、ユミコの家はでかすぎたり暗かったり、その他の理由で、昼夜の感覚がない。


「そしてそろそろ火曜日。」


 ヤバい、出席日数!


「私がごまかしてありますよ……。」


 どんよりした顔の一ノ瀬先生が顔をだす。


「うう、教師としてあるまじき蛮行……。私ごときがこんなこと……。」


 相変わらず気の弱さはぶっちぎりだが、今回はマジでナイスプレーです。


「まあ、つまりお前のチア論は……。」


 こうしてチア論に花を咲かせていると楽しい。楽しいが、急に視界がかすんできた。


「ちょ、カヅキ、大丈夫か?」


 ルナが心配して駆け寄ってきたところに、ユミコも現れた。


「旦那様、栄養失調。」


 あ……俺が最後に飯を食ったのはいつだったか。フウリさんとショッピングに行く話をした時だ。


 その後、ルナの徹夜練的なのを止め、15kg痩せるほど大量の荷物を運び、ユウキによる劇薬でできたブラウニーを食べてアオイとバスケ……。


 そりゃ死にそうになるわけだ。


「そうだ、金星の郷土料理、食べる?」


 珍しいものだが、今は普通の飯が食べたい。が、声は出ないしやたらおいしそうなにおいまでしてくる。


「これこれ。地球にも似たような料理があるんだろ?確か、こっちでの呼び名は……。」


「切干大根。」


「そうそれ。」


 なんだ、おかんの味的なあれか。おいしいよな、切干大根。うちの奴にはなぜかミンチが入っていたが、それはうちの母親の趣味だろうから、普通は入ってないよな。


「ほら、ウチが話しすぎて倒れたんだろうから、食いな。べ、別にあんたのために作ったんじゃないからね!?」


 ありがとう……声は出ないのでユミコに伝えてもらい、おいしくいただく。


「旨いな!」


「でしょ!?やった!って、そうじゃなくて、そりゃ当然よ!」


「グダグダ。」


 ユミコが最後になんか言ったが、よく聞こえなかった。


「地球の切り干し大根との違いはどんなところなんだ?」


「なんか、地球人には軽い興奮作用みたいなのがあるらしいわ。こないだなんて、レイナがなんか作るって言ってたから少し上げたわね。」


 なんてもん食わせるんだ。それ絶対さっき使われた媚薬的な何かじゃん。


「すまん、トイレに行ってくるわ。」


 はあ……これで栄養リセットされるのか……。


「工事中。」


 ユミコ……お前ってやつは……。


「女子トイレなら空いてる。旦那様は女装中。」


「おい、カヅキ貴様何やるつもりだおい。」


 ルナ……二重の意味ですまん。


「背に腹は代えられんように、トイレに行くかそれをあきらめるかの二択しかないんだ。」


 諦めて女子トイレを使い、出ようとしたとき……


「あなたはここでなにをしているんですの?」


 セレスに鉢合わせした。もういやだ……。

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