男子校に入学したはずなのに、フラグ整理の会がある件:レイナによるペロペロマッサージ

 さて、俺の次の予定だが、ハナから次は参加する予定がなかった。理由は二つだ。


 一つ目は、アオイがもう少し落ち着くまで一緒にいてやりたかったから。


 そしてもう一つは単純明快。ユミコに渡されたプログラムに書いてあった、ペロペロマッサージが恐怖すぎたからだ。


 いや、なんだよペロペロマッサージって。どう考えてもレイナが犬みたいに全身舐めてくるとか、そういうオチだろ。しかも、そこからの「一緒にお風呂に入りますわぁ」が来るところまで含めて目に見えている。


 俺はさっきのバスケのゴールのリングをフリスビーのように構えた。


「さあ、来るならどこからでも来い!」


「わかりましたわぁ!」


 気配……真下か!


 慌てて地面に向けてバスケのゴールを叩きつけると、刺さって抜けなくなる。


「かかりましたわねぇ!」


 本体は……上!?


 しかし、突き刺さったゴールのせいで反応が遅れ、飛び降りてきたレイナに、頭にしがみつかれる。首が折れるって!


 しかしレイナは蛇のようにして俺の体の周りをぐるりと一周し、俺が反撃をする前に大きく飛んで俺の腕の届かないところへ。


「クソ……だが、ペロペロマッサージは絶対にさせないぞ……。」


「もうワタクシの勝ちですわぁ!」


「なにっ!?」


 パチンッ!


 レイナが指を鳴らすと……なんだ、体中がむずむずして、それでいてなんだか気持ちいい。


「何だこれはっ。」


「お姉さまはご存じなくて?これが、鈴木家直伝、ペロペロマッサージですわぁ!」


 どういう……ことだ……。


「このシールは、ある一定の音がぶつかると、剥がれるようになっておりますのぉ。今回で言えば指パッチンですわぁ。」


「それが……どうした……。」


「それを、代々伝わるシールのツボに張ることで、指パッチンで一斉にペロペロと剥がれたシールが、疲れや汚れも一緒に持って行ってくれますのぉ!」


 そんだけハイテクノロジー使っていて、何が代々伝わる、だ。


「お姉様のお疲れを感知いたしましたので、癒しのために門外不出のおきてを破らせていただきましたわぁ!」


「ちなみにそれ、何代前から伝わっているんだ?」


「お母様のおばあさまのおばあさまのおばあさまのおばあさまだから……。」


 9代前か。歴史長すぎだろ。そんな昔にシールはないだろ。


「なんでも、初代様は薬草を練るところからやっていたんだとか。」


 あっこれガチの奴だ。


 俺は全力で土下座する。


「何で土下座しますのぉ!?落ち着いてくださいませ!」


「だってこれ、ガチの奴じゃん。さすがにそれを疑っていたとなれば、土下座もしたくなる。」


「お気になさらないでくださいませぇ!」


 いや、俺が気にするんだよ。主に良心が痛む的な意味で。


「お姉様にはいつも健康、元気、不健全でいてほしいからいいのですわぁ!」


 こいつ、やっぱいい奴じゃん。一言多いけど。


「不健全にはなるつもりはないが、それでもいつも、本当にしんどい時とかはありがとうな。」


「愛人としての最低限の心得ですわぁ!」


「ていうか、おまえ、俺のこと好きでいてくれているのに、なんでそんなにいつも愛人を強調するんだ?」


「それは、ワタクシごときでは素晴らしき皆様にはどうやっても太刀打ちできないから、せめて愛人の枠ではありたいという思いからですわぁ!」


 そうか、今までこいつを見てきて気が付かなかったが、こいつ、自己評価がとんでもなく低いんだ。説得できる気がしないから、包丁で物事を問うたりするし、俺に対しても、みんなに対しても常に低姿勢だったりするんだ。


「おいレイナ。あまり自分を低く見すぎるなよ?お前にはお前のいいところがあって、それは誰にも負けてないんだからな?」


「お姉様……。ようやく、ワタクシにフラグが立ちましたのね!?ここからはワタクシ、レイナルート一直線ですのね!?」


「違うそうじゃない。」


 こういうところは本当に残念な奴だ。黙っていればいい子だろうに。


「おまえさぁ。もう少し余計なことを言わないようにすればいいじゃん。」


「そしたらお姉様がすぐにワタクシに惚れてしまって面白くありませんわぁ!」


 言うようになったじゃん。


「大丈夫だ。そんなことは天地がひっくり返ってもあり得ないからな。」


「お姉様はツンデレですわぁ!」


 俺が?ないない。


「ところで、行間抜いてあとA4一枚ぐらいの尺があまっているが、お前は何かしたいことあるのか?」


「お姉様と一緒にお風呂……。」


「却下。」


 しかし、いつの間にかレイナが手元に持っていたボタンを押すと、あたり一面が風呂になっていた。もちろんだが、ここは健全な小説なので大量の湯気によりきわどいところで見えない。


「なっ!ここ……は……?」


「アクセス数企画御用達のシオリお姉様の作った機械ですわぁ!」


 読んでない人もいるだろうから、出しちゃいかんでしょ。こういうの。


「そしてここでは、好きな設定を楽しめるのですわぁ!例えば……。」


 レイナがポチポチと何かをいじくると……お、俺の体が、女の物にッ!?


 あるものがなくなり、ない物が付いている。


「ひえっ!?」


「そっしってー!でーん!ワタクシのお胸百倍ですのぉ!」


 レイナは割と着やせするタイプなのか、元から大きかったものを……百倍にして、前に向かってすっころび、頭を打って気絶した。バカなのかな?


 だが……。


「こんなに小さいのに、普段から俺を支えてくれてるんだな……ですわぁ。」


「おい、俺の脳内ナレーション原稿を勝手に書き換えるんじゃない。確かに思ったけど!」


 これだからこいつは油断できない。


「それにしてもお姉様、ワタクシのここをご覧になってぇ!」


 元のサイズに例のブツを戻したレイナがこっちにすり寄ってくるが、湯気という名の絶対防壁がさらに強化された。


「おいこれ、誰かが外部で健全になるように変な設定でも入れてるんじゃないか?」


 俺らが一定以上近づこうとすると、湯気が二人の間に立ち込め、晴れると勝手に距離が開いている。


「ユミコお姉様の仕業ですわねぇ、してやられましたわぁ。」


「じゃあ、帰るか。」


「そうですわねぇ。」


 こいつに近づけなくて、よかったような、残念なような。何俺、実はレイナのことが好きなのかな。


「それにしても、この超強力媚薬、ペロペロマッサージに丸ごと使ったのに、ついぞ効果は出ませんでしたわねぇ。」


 こいつ……!ていうか、俺も俺だ。さっきアオイを泣かせたばっかりだろうが!学習しろ!


「お姉様ぁ、お風呂上がりのお水ですわぁ!」


 気分だけ風呂に入り、感覚だけすっきりしたものの、心も体もどんよりだ。さっきのマッサージで疲れが100は飛んだ気がするが、こいつとの接触で200は疲れた……。


 しかも次にユミコと話して、ユウリに取りつかれて、ヒカル先輩と勉強会でしょ?


 俺の体力最後まで持つかな。


 するとレイナが、俺をそっと優しく抱きしめてくれた。


「お姉様。いつまでも、敬愛しておりますわぁ。」


 だから、そういう不意打ちは反則だろうが……。

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