男子校に入学したはずなのに、フラグ整理の会がある件:ユウキからの重大発表

 カオリが去ってしばらく、呆けていた俺は、隣にユウキがいることに気が付いて驚いた。


「うおっ!?」


「カ、カヅキってば、驚きすぎよ。」


 ユウキには、本当の気持ちを呪いの山で聞いてしまった負い目があるから、二人きりは遠慮したいんだがな……。


「もしかして、山でのこと考えてる?」


「ああ、まあ、そんなところだな。」


 ユウキには、本当に申し訳ないことをしてしまった。


「気にしなくていいわよ。そんなこと。」


 最近、伸ばしているのか、ショートカットだった髪がボブほどまで伸びてきている、その髪を揺らしてユウキが答えた。なんか、ユウキは髪が色っぽいよな、ほんと。


「そうだ、それなら、カヅキに一つ、宿題の回収を忘れていたわね。」


 宿題……?


「もう、忘れてるのね。遊園地編の③を見るといいわ。」


「なんでみんなそんなメタい話を平然としてるの?」


「内容は、『私とアオイが、いつカヅキが男だと気が付いたか』ね。」


 そういえば、そんな話もあったような……。


「あれね、実は真っ赤な嘘なのよ。」


「へ?」


「だから、嘘!カヅキが男なんて、言われて初めて知ったわ。こんなに美人なのに、男だなんて思うはずないじゃない!」


 なんだろうこれ……喜べばいいの?悲しめばいいの……?


「でもカヅキ、それをあの時に言っていたら、私たちがあなたをだましたと勘違いするか、あなたが私たちをだましたと思って自分を責めるか、どちらにせよ疎遠になっていたでしょう?」


 さすがユウキ。言われてみれば、そんな気もする。というか、たぶんそうなっていたのだろう。


「確かにそうだな。助かったよ。」


「お礼を言うのは私の方よ、あの時、カヅキが男子校に帰っちゃったらどうしようって、本当はベットで泣いていたのよ?」


 ぐぬぬ……女子を泣かせてしまっていたとは、何となく申し訳なくなる。


「でも、あの時は親友でいいって言っていたよな?」


「そうね。でも、確かにあなたのことが好きだったわ。それは友愛であり、恋愛でもあった。カヅキには少し難しいかしら?」


 女子らしさ100%でいつも通り笑うユウキは本当にかわいい。カオリのような鋭利な雰囲気や、レイナのようなおどけた雰囲気とは違う、女子らしさを体現したようなかわいさだ。


「そうだな。俺には少し難しい。だが、悪いことをしたな。」


 最近ユウキといると、なんか本当に恋人みたいな空気になるな。


「そんなこといいわよ。それより、カヅキ?」


「はい?」


「最近、わたしたち、二人きりで遊べてないじゃない?」


「まあ、そんな気もするな。」


「ということで、二人きりで遊ぼうのコーナー!」


 いや、何して遊ぶんだよ。


「というわけで今回は、お菓子作りをしていきたいと思います!」


「ユウキ、どっち向いてしゃべってるの?」


「カメラ目線っていう奴よ!私の時間は、『重大発表』のコーナーにしちゃったけど、それだけだとページ数的にも内容的にも物足りないでしょう?」


 言っている意味が半分ぐらいわからないんだが。


「ちなみに、この部屋の様子はルール違反する人がいないようにするため、そこの小さい穴から監視カメラで覗かれているわ。」


 こわっ、最初の説明の時に言えよユミコ。あと、ルール違反とは?


「そしてその映像はあとでお師匠様と私が合同で編集して、アルバムにして各々の家に送られるようになっているわ。」


「俺の人権とかは?」


「いい、カヅキ?世の中には、そういったものを無視できる存在が少なからず存在するのよ?」


 ないんですねわかりました。


 出会った頃は、ユウキは一番のまとも要員だったのに、どこで道を踏み外してしまったのだろうか。


「ちなみに今日は、ブラウニーを作るわよ。」


「おお、俺の好きなチョコのお菓子か。」


 もしかしたら、俺が実はチョコが好きなのを知っていて、用意してくれていたのかもしれない。


 なんて親友思いなんだ。


「材料はこちら。チョコレート、バター、たまご、砂糖、強力粉、ベーキングパウダー、バニラエッセンスなどです。」


「なあユウキ、俺にでもうまく作れるかな?」


「そんなあなたにもご安心!今回は、完成品をご用意しました!」


 料理番組の意味!


「全部混ぜてオーブンに入れればきっとできるわ!」


「全国の料理関係者に謝罪した方がいいと思うぞ。」


 炎上しても知らないからな。そんなにたくさん読者様いないけど。


「ちなみに、今回は私が少しアレンジを加えて、よりおいしく仕上がっています!どうぞ、召し上がれ!」


 おお、それにしても、さっきの適当な発言を感じられないおいしそうな出来栄えだ。


「じゃあ、ありがたくいただきます!」


 そして、なにも確認しなかったことを後悔する天にも昇る味!


「かりゃあああいっ!」


 口の中に劇薬でも入れた気分だ。


「ごはあっ!ごはっ、げひょおお!」


「カヅキ!?どうしたの!?もしかして、RTXは苦手だった?」


 久しぶりの登場なので説明しよう。RTXというのはスコヴィル値160億の劇薬。食ったら命の保証はない。当然ながら。


「は、はいお水!」


「ひぎゃああああ!」


 そう、激辛に水は禁物。辛み成分が解けてより舌が感じやすくなる。


「うごっ!うごっ!」


「舌を出して涙と汗にまみれ、白目をむいたカヅキ……セバスチャンさんに高く売れそうね。」


 ユウキはのんきに写真を撮り始める。早く助けろ!って、何もできようがないんだけどさ。


 いや待て。誰に何を売るって?


 とりあえず俺はさっきブラウニーを作る時ように用意してあった、砂糖のもとへと走り、一気に口に入れる。


「しょっぺえーっ!」


 このタイミングで……不意打ち……だと……っ!?


 まさか、塩と砂糖を間違えるという今どき古すぎるボケをこんなところでかましてくるとは……。





「あら、おはよう、カヅキ。」


 俺が目を覚ますと、ユウキが膝枕してくれていた。


「あれ……?激辛ブラウニーは?」


「なんのこと?カヅキは私が来た頃には寝ちゃっていたわよ?」


「そ、そうなのか。すまない。」


 まさかの、今作二度目の夢落ちをかますとは、作者も腕が落ちたな。


 俺は立ち上がろうとして、地面に手をついたとき、畳に何かついているのに気が付いた。


「白い……粉……?」


 なめてみると、確かにしょっぱい。


「なあユウキ、これって……。」


「あ、そろそろ私時間だから、帰るわね!」


 だからキャバクラかっての。


 こうして、ユウキは逃げるように帰っていった。


 部屋の掃除に箒ではいたが、茶色い粉には絶対に触らないようにした。

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