男子校に入学したはずなのに、フラグ整理の会がある件:カオリとカヅキ、思い出の回想

 ということで、最初に通された部屋では、カオリが待っていた。俺を拉致した当本人であり、超のつく危険人物。あといちおう幼馴染。


「それで、お前は何をしたいんだ?ていうか、お前はフラグとかないだろ。」


 俺が言うと、カオリは怒りに顔を赤く染めて、


「うるさい!お前は黙って畳でもかじってろ!」


 と俺の頭を板の間に埋めた。これはさすがに無理があるだろ。


 だが、頭の打ちどころが悪かったのか、意識が遠のいていった。





 前にも少し話したことがあると思うが、俺とカオリの出会いは物理的に衝撃的だった。


 公園で遊具同士の飛び移りをミスったカオリが、平和に遊んでいた俺の真上に落ちてきたのだ。


「いったああぁ!」


 子供のことなのに、とてつもない痛みから、忘れられないでいる。


 そして、それからというもの、ジャイアンさながらの登場を繰り返し、びっくりする戦火をあげていったのを覚えている。そう、戦果ではなく戦火だ。いや、どっちもやばいけどさ。


「おいカヅキ、『サイコ・ハザード』見に行こうぜ!」


「嫌だよ、あれ、怖い奴だろ?そもそも、あれは大人じゃないと見に行けないんだぜ?」


「いいから、強行突破だ!」


 そのご、映画館で騒ぎを起こし、5万ほど賠償させられたり。


「カヅキ、知ってるか?人間の体って、反対側にも頑張れば曲がるんだぜ!」


「痛い痛い、死ぬうう!」


 バキッ!


 とか。


 そんなおっそろしい悪魔が、中学、高校と同じだったのは、恐らく神様の呪いだろう。見放されたっていうか、マイナスの加護をつけられた気分。


 でも、先生が気が付くより前に不審者を倒してのけたり、頭突きで教室の壁をぶち抜いたりと、カオリといると退屈しなかった。


 のんびりもできなかったがな。





「おーい、カヅキぃ、生きてるかぁ?」


 ペシペシ、とカオリに頬を叩かれて目が覚める。こいつ、性格とか抜きにすればめちゃくちゃ美少女なのに、凶暴すぎて貰い手が付かないんだよなぁ。なんせ、こいつの恋人になるってことは、こいつの暴力に毎回生き抜く生命力が必要だろ?俺には無理だね。


「って、カオリ、ちょっと顔近くないか?」


 俺が指摘すると、カオリがばっと離れる。


「あ、あ、えーっと、ごめん!……今回は、キスまでならありって……。」


「ん?なんか言ったか?」


 最後の方はごにょごにょと何を言っているのかわからなかった。らしくないな、まったく。


「それにしても、最近お前、俺といるときに本音隠すようになったよな。」


 これは単なるカマかけだ。でも、幼馴染だからか、何となくそんな気がする。


「え……いやっ……そ、その……これは……。」


 まさかの図星か。


「すまん、変なこと言ったな。無理に話すことはないが、幼馴染にたまには頼っていいぞ。」


 多分俺は、自分で言うほどこいつのことが嫌いではないのだろう。なんだかんだ、ヤバそうなときは助けてやりたくなる。


 特にこいつは、メンタルがたまに脆弱になるからな。レイナみたいな恐ろしい病み方はしないけどさ。


「ん……。ありがと。」


 うっ……。たまに、一瞬、こいつが指定暴力幼馴染だということを忘れそうになる。


「カヅキ?顔赤いけど、熱か?」


 どうやら本気でフラグ整理をやらせるらしく、カオリと俺以外はこの部屋にいない。あの変態執事のセバスチャンすら人払いしているあたり、本気度がうかがえる。


「いや、ちょっと余計なことを考えただけだ。っていうか、俺ら普段一緒に暮らしてるんだし、こんなことしなくていいよな?」


「バカ言えカヅキ。こういうのは、情緒っていうもんからが大事なんだよ。」


 そう、男喋りでこそあるが、こいつは感性は女子のそれなんだよな。


 極極まれにカオリに告白したりする奇抜な趣味を持つ狂気の命知らずがいるらしい。そしてそのほとんどが、「踏んでください」「ボコボコにしてください」などという、恐ろしい物なんだとか。百合ゾンビの重傷者かな?


「そういえば、前にもこんなことあったよな。」


 あれは、小学校中学年ぐらいのころか……。





 カオリの家は理由はともあれお父さんがいないらしい。だから、変なところで任侠を大事にする母親と書いて妖怪ミンチ女が、カオリをうちに呼んだことがあった。本当はカオリのお母さんも呼んだらしいが、仕事があると断られたんだとか。


「まったく、遠慮しなくていいのにねぇ。」


 そういって、ミンチ女がカオリにミンチ入りカレーを出していたのは覚えている。


「ありがとうございます。」


 少し緊張した風にカレーを口に運んだカオリは、何よりその熱さに驚いた、とのちに話していた。


「こんな熱い物食べたの初めてかも!」


 あの時のカオリは、少しは清純な雰囲気が残っていたな……。


 カオリのお母さんは、とてもいい人なのだが、料理がからきしダメなのと、金銭的な問題などで、あまり一緒にご飯を食べていなかったそうだ。


 それではあんまりだ、ということで、それから中学校2年ごろまで、カオリは毎日のようにウチでご飯を食べていたな。


 さすがに、中学生にもなると恥ずかしいからかあまり来なくなったが。つまり、ミンチ女のせいで今の料理ができないカオリがいる。QED証明終了。


 そしてある日、俺が熱を出したときにもうろうと起き上がったら、なにかやわらかいものが口のあたりに当たって……。





「あれ?なんか、中学生のころあたりに、起き上がり頭にお前と正面衝突した気がするんだが、気のせいか?ちょうど、こんな体制で。」


 俺が言うと、カオリは慌てて口を隠し、


「な、何言ってるんだカヅキは!あのことは記憶を失うまで殴ったろ!」


 お前俺になんてことしてくれちゃってんの。


「い、いや、何となくそんな気がしただけだよ!わかった、悪かった、もう一回記憶なくすから殴らないでくれ!」


「じゃあ目を閉じろ!」


「わかったから殴るなよ!」


 おっかなびっくりだが、目を閉じる。こいつ、野生のシマウマ並みに視線に敏感だからな。


 チョンッ。


 顔……いや、口に何か柔らかいものが当たった。


「ほら、こんな感じの衝突だったんだろ。」


 カオリが、日焼けして普段は幼馴染の俺にしかわからない赤面を、誰でもわかるほどはっきりとしている。


 そこまで怒ることないだろうに。


「あ、ああ。そう……だったな。」


「それじゃあ、ウチの時間はここらへんで終わりだから。」


「お、おう、そうか。」


 カオリ相手なのに、どこかぎこちなくなる。ん?なんで俺は今ぎこちなくなった?こんなの相手に?


「カヅキ、お前さ。」


「なんだ?」


「最後、たぶん、高校卒業するまでには誰かを選ぶんだよな。」


 こいつは何のことを言ってるんだ?


「ウチを選ばなかったら、承知しないからな。」


 カオリが……承知しない……!?


 これはヤバい。ガチで命まで取りに来られる。俺はカクカクと頷いた。


「最も、他の奴らを見ないで決められるのも少しずるみたいで悔しいからな。期待だけにしておくぞ、カヅキ。」


 そういうと、カオリは部屋から出ていった。


 いや、なんだったんだ、最後の……。

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