男子校に入学したはずなのに、女子への埋め合わせはショッピングな件

「そういえば、ショッピングというものをしてみたいです。」


 フウリさんがそう言ってきたのは、俺の得意なそぼろにらもや炒めをみんなで食べ終わり、どうでもいい話で団らんしていた時だった。


「フウリちゃん、もしかして今の部屋気に入らない!?」


「いや、気に入らないというわけではないのですが……。」


 もともとは俺とカオリが二人暮らしするためのアパートだったので、個人用の部屋は二つしかない。だから、地下のシオリさんの研究室の一室で部屋を作っていたのだが……。


「あの部屋は、少し豪華すぎるんだよ。」


 カオリがツッコむ。


 そう。フウリさんの部屋はどっかの成金かのような金ぴかで、大変に生活のしづらそうな部屋だった。


「だって仕方ないじゃん!フウリちゃんが可愛すぎるのがいけないんだよ!フウリちゃんかわいいよフウリちゃん!」


「あ、えっと、そうじゃなくて、先ほど話した大きなテーブルとか、新しいお洋服とかほしいなって。」


 たしかに、今フウリさんが着ているのはこちらの世界に戻ってきたときの物。洗濯中はシオリさんのおさがりを着ているらしい。


「それなら、おすすめの服屋教えるぜ!」


「なんか、女子の皆様で盛り上がっているみたいなので、今日の洗い物はカオリよろしく。」


 謎の嫌な予感がしたので皿洗いをカオリに任せようとすると、


「私がやりますよ。単なる居候ですし。あと、明日の放課後、カヅキさんも明けておいてくださいね。」


「いや、遠慮しようかな。」


「それにしてもこの前までの食生活が……。」


「わかった!行きます!行くから許して!」


 いや、何かこうなる予感はしていたけどさ……。





 翌日。


 狂気の徹夜練を提案したルナを何とか止めてフウリさんとの待ち合わせ場所に行ったときにはすでに30分遅れていた。


「遅れてすまない!」


「気にしてないですよ!埋め合わせのショッピングに遅刻されただけですから。そういえば最近、寒くなってきましたね。」


「すみません、マジですみません。」


 この子と将来結婚する男には同情するね。絶対尻に敷かれるじゃん。


「寒い日は暖かいココアに限りますよね。」


「はい、ただいま買ってまいります!」


 こりゃ、ごまかしがきかない分、カオリよりも厄介な相手じゃん。もしかして、あのアパートで俺が一番立場が低い?





家の近くのショッピングモールに来た。それも、かなり大型の。


「なあ、これ全部回る気でいやがりますか?」


「ここと、あと3件ほどのショッピングモールに目を付けているのですが。」


 あははフウリさん、冗談上手いなぁ


「嫌だなぁ、冗談なわけないじゃないですか!」


 マジかよ。


 ということで最初に拉致……連れてこられたのは、何故か下着屋。


「ここばっかりは、シオリさんのを借りてもサイズが合わないですからねぇ。」


 そうだとしても男を連れてくることないと思うんですが……


「どうせなら選んでみますか?」


「い、いや、さすがにそれはまずいでしょ。じょ、女子の下着選ぶとか。」


「冗談に決まっているじゃないですか、変態ですか?」


 なんだろうこの理不尽感。全くもって俺が文句言われる理由がわからない。


「それに、お姉ちゃんが目をつけている男の子に手を出すほど野暮でも命知らずでもないですよ。」


 そういやこの人、ユウリの妹だっけ。勘弁して欲しい。


「あーはいはい、ソウダネー。じゃあ、そろそろ帰ろうか?」


「女の子とのデート中に家の話は禁物ですよ。帰るのであっても、呼ぶのであっても。」


 そうですかそうですか。すみませんねぇ。デートなんてそんなに行ってな……いや、そう言われて引きずり回されたのは結構あるな。主にはデートと言うより拉致だと思うけど。


「それじゃ、もう選んだので次に行きますよ。」


 フウリさんが大量の袋を押し付けてくる。洋服の重量じゃないぞこれ。


「そういえば、この資金源はどこから来てるんだ?」


 俺が聞くと、フウリさんは財布の中から黒い何かを取りだし、


「シオリさんが、ショッピングモールに行くならこれを使えと渡してくれました。だいたいどこでも使えるから、好きに使ってくれと。」


 ユミコに続き、2人目のブラックカード保持者発見だな……。


「もちろん、きちんと返しますよ?何をしてでも。」


 今の言葉、たぶんシオリさんに録音されてるんだろうなぁ。


 そんでもって、どうせ「支払いは体で」とか言って、脱がされるんだろうなぁ。俺のいないところなら勝手にやってくれ。


 俺がもはや知らんぷりを決め、さっさと下着の店を後にする。次は家電の店が集まったショッピングモールだ。これ、一つのショッピングモールじゃダメだったの?


 さて、家電の店には俺にとって懐かしいトラウマがある。そう、カオリと一緒に回らさせられた時のものだ。


「あの、ここにはできれば長居はしたくないんですけど……。」


 なるだけ申し訳なさそうにフウリさんに告げるが、


「やっぱり家電屋さんってわくわくしますよね!新しい家電を見ていると、時代の流れを感じます!」


 と言われて本当に申し訳なくなる。わかったよ、長居しますよ、何買うの?


 以前ヒカル先輩が目をつけていたゆで卵製造機などを端から端まで全部ブラックカードで購入し、俺の腹が家電屋なのに青木まりこ症候群を起こしかける。


 青木まりこ症候群が何か知らない人は自分で調べてみてほしい。


 ていうか、パソコンとかもっと大事なものを買うべきでは……。


 フウリさんが俺に対象の袋を押し付けてきて次の店へ。そろそろ重すぎてつぶれそうなんですけど。


「次はペットショップです!」


「いや、ウチペット禁止だから。」


「地下で買えばバレません!」


 バレたときに動物虐待とか契約違反とかいろいろ面倒そうだから却下。おかげでより一層長居する羽目になった。やたらくしゃみが出たけど俺ってもしかしてアレルギーなのかな。嫌だなぁ、犬も猫も好きなのに。


「さて、最後はお待ちかね、家具のショッピングモールです。」


 だから、ショッピングモール変える必要あった?一話当たりのバランスが悪くなるから詰め込みすぎないでほしい。


「えっと、買うのは私用の勉強机、大きいサイズのテーブル、ゲーミングチェア、ベッド、たんす……。」


 買い込みすぎだろ。いや、俺は搭載量の限界がすでに突破されてるから、もう帰りたいんだけど。


「じゃあ最後にこれだけ持って帰りますよ。」





 家に帰って荷物を持ったまま体重計に乗ったら、体重が150kg増えていて、荷物を下ろしたら15kg痩せてた。


「カヅキ?さっきレイナが来て、お前にってこんなのおいてったぞ。」


 帰ってきた俺に対してレイナから手紙とはあんまりな仕打ちだと思うが、とりあえず封筒の題名だけ見てやる。


「招待状」


 俺は読まずに捨てようと思った。

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