男子校に入学したはずなのに、問題が積載すぎる件
メールが来た翌日の日曜日。
「えっと、佐藤さん。」
「はい、すみません。」
俺の立場は、非常にマズいものとなっていた。
「まず、今日、なんで呼び出されたと思ってますか?」
どうやら、一ノ瀬先生も百合ゾンビになっていたらしく、人によってはその記憶が残るらしい。こればっかりはシオリさんでもどうしようもなかったとか。つまり、怒っている。
「えーっと、留年警告の関係と聞かされていますが……。」
「それだけだと思ってます?」
普段おどおどの人が本気で怒ると怖いっていうのは、本当だった……。
「まず、文化祭におけるメイド喫茶のナンパ男に対する暴行事件。これはまあ、毎年起きてますし、良いでしょう。」
いいのかよ。
「後夜祭後の失踪事件。これは、私も失踪をしたことがありますから、あまり強くは責められません。」
なんだかんだ言っていい人だよな、一ノ瀬先生も。
「ですが、後夜祭中の洗脳事件と、その後その人たちの記憶を消した罪、これはあまりにも重い!」
ちなみに校長はすべてに怒っているそうだ。
「正直に言います。このままだと、留年で済めばいいほうだということを覚悟しておいてください。」
「というと?」
「最悪、停学あるいは退学ということになります。」
マジかよ。って、これほどやらかして今まで退学のお誘いが来なかっただけましだ。
「つまり、あなたがもう一つでも何かやらかせばほぼ確実に退学ということになりましょう。」
「うあああああ。」
「間延びした声を出してもダメです。そういえば、一時期あなたが実は男なのではないか、といううわさを聞きましたが、そういうのがあったら退学どころか少年院は覚悟しておいてくださいね?」
あははは、そんなわけないじゃないですかぁ、現実なんてみたくないー。
「顔が真っ青ですが、まさかあなた……。」
「い、いや、違います!ワタクシ女ですわぁ!」
焦って無理やり女口調を作ろうとすると、レイナみたいになる。
「具合が悪いならこんなところに来ている場合じゃないでしょう!?今すぐ保健室に!」
はあ……。まあ、これで説教が終わるならいいか。
疲れすぎていたのでちょっと寝た俺が保健室から出ると、ルナがいた。
「ちょっと、今日の練習のメニューとか考えたんだけど、こんな感じでいいかしら?」
俺は非常に疲れているから、明日にしてほしいが、今日のメニューならそうもいかない。
「今日は具合が悪いから、俺は見学だぞ。」
「顔真っ青にしていれば休めると思っていたら大間違いよ!だいたい、ヒカル先輩もボーイッシュ先輩も、あなたに甘すぎるんだわ。」
そう言って練習メニューを見せてくる。
「……これ、いつもの三倍ぐらいない?」
「あ、0一つつけ忘れていたわね。」
30倍かよ、ふざけんな。
「こんなにやったらみんな死んじゃうぞ!?」
「大会が近いのは知っているでしょ!これでもまだ足りないわ!」
「ふざけんな、俺らが生息しているところは日ごろから1気圧なんだよ!お前みたいに90気圧星人じゃないの!」
まあ知っていたが、けんかになった。疲れすぎで視界がかすむが、みんなにこんなメニューをやらせたら、視界がかすむどころじゃすまない。
「いい?先輩たちが守ってきた、この強豪常楚チア部を守るには、このぐらいの努力が必要なの!」
「先輩たちが守ってきたのは、大会で勝つことよりも、みんなが笑顔でいられることだろ!」
俺がつい熱くなって怒鳴ると、ルナは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして固まった。
「……そうね、ちょっと部長に任命されて熱くなりすぎていたみたい。ありがとうね、副部長さん!」
俺に怒鳴られてかえって冷静になったのか、かわいい笑顔を残して体育館の方に走り出す。
が、数歩だけ走って振り返ると、
「そうだ、具合が悪いなら今日は休みなさい!明日からビシバシいじめてあげるからね!」
とだけ、めちゃくちゃかわいい笑顔を残して、今度こそ走っていった。
先輩たちはもしかしてこの流れを予測していたのだろうか。もし俺が部長だったら、あそこで冷静になれなかったかもしれない。
ボーイッシュ先輩はともかく、ヒカル先輩を少し舐めていたな……。あの二人には、本当に追いつけなさそうだ。
家に帰ると、玄関先にフウリさんがいた。
「お会えりなさいませ、お嬢さま。」
俺なんか恨まれることしたっけ。笑顔が怖い。
「えっと、普通にカヅキって呼んでくれると助かるんだけど。」
結局この子には俺が男で、女装してるってバレてるわけだし。
「おかえりなさい、あなた。」
え、え、俺本当に何かした?
「あの、なんか怒ったりしているなら、言ってください……ね?」
「別に、怒っているも何も、そんなことあるわけないじゃないですか。」
なら、まとっているオーラが幽霊だった時より怖いのはなぜ……。
「いいですか、案内された家に行ってみたら、誰もいないどころか、かつての自分の宿主がいて、しかも自分に対する記憶がないかとても気まずく(中略)食事が全部カロリーメイトと再生水でその再生水の原料がなんと(中略)家主は何日も帰ってこず、確かに私が料理ができないのは悪いと思っていますが(中略)というだけなので、全然怒っていないですよ?」
フウリさんが話を終えるころには、俺は深々と土下座していた。この辺の地理も歴史も文化さえあいまいなフウリさんに、さすがに申し訳ない。
「あ、ショタ君、フウリちゃん、ごはん食べよ!」
「勘弁してください!もうあのサプリだけは!あれだけは!」
「お、俺が作りますよ!」
そういえば女装姿で初めて料理かもしれない。
「ショタ君、そのまま裸エプロn……。」
「シオリさんはドックフードがいいですか?」
「すみません。」
もはや曜日感覚なんてあってないようなものだが、一応今日は日曜日。休みたいんだよ。
「ただいまーっ!」
ちょうど飯ができるころにカオリが帰ってきた。タイミングのいい奴め。
「今日の夕飯なにー?」
「味噌汁、そぼろにらもやし炒め、サラダ。足りない分は米を食え。」
フウリさんが、米のところで目を輝かす。ウチに今あるのは、スーパーで安売りの古米だが、この人的には感動なのかもな。
少しやるせないような、なんとも言えないような気持になるが、
「ほら、食事の準備してください。カオリは手洗いうがいしてきて。」
「「はーい!」」
いまが笑顔でいてもらえて本当に良かった。たまには、こういうのんびりしたのもありだな。
「人が増えたし、大きなテーブルが欲しいよな……。」
「まあ、また今度な。」
「早く食べようショタ君!」
「さあ、手を合わせましょう!」
「「いただきます!」」
いや、別に最終回じゃないからね?
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