男子校に入学したのに、重大発表でピンチに陥らされる件

 無事にシオリさんによる洗脳解除の電波の開発、放送も終わり、俺たちにまっとうな学生生活が帰ってきた。


「さあさあ皆様ぁ!今日はワタクシのおごりですわよぉ!」


 レイナのおごりとして連れていかれたのは、そこそこにいいレストラン。もちろん、いつぞやのユミコに求婚された超高級レストラン、「空中庭園」に比べれば値段は人間様の食べ物のそれだ。


「じゃああれは何だったの」


「いいか、あれは食い物じゃない。あれに金を食われてるんだ。」


「なるほど。」


「レイナ、お前、最近金を使いすぎじゃないか?」


 ユウリがレイナを心配する。


「大丈夫ですわぁ!お姉さまグッズをクラスの方から買い集めていたのは、洗脳期間だけですものぉ!」


 俺は何も聞いていない……俺は何も聞いていない……俺は何も聞いていない……。


「逃げちゃダメよ、カヅキ。」


 俺が耳をふさいでいるだけで何を考えているのかわかってくれる、そんなユウキが大好きだ。もちろん、親友として。


「ユウキ、最近その映画話題になってるから気を付けないとだめだぜ。」


「どうせ100話突破したんだし、読者様が追いつくころにはブームも過ぎてるわよ。」


 ファンの人、ごめんなさい……すべてはうちの親友たちが悪いんです……。


「旦那様、ゲス?」


 ユミコの視線が痛い……。


「なあ、それより料理まだか?」


 カオリの奴は最近、食い気と色気を両立してきてるからな、こいつ。でも……。


「おい、ウチのない胸がそんなに面白いか。そうかそうか、ならば戦争だ。」


 しないから。もうすぐ料理来るから。


「これが異世界のご飯ですのね……。」


 セレスさんまでつれてきて、おかげさまで超大所帯。


 さて、普段は耳が千切れるほどうるさいのに、今日は一言もしゃべっていない人物がいる。そう、ヒカルである。


「ヒカル、何かあったか?」


 名前呼び捨て&タメ語でしゃべると、ヒカルは喜んでくれるので、ガチで落ち込んでいるときぐらい気を利かせてやろう。


「……まだ先輩だし、敬語使おう、シュガー?」


 あれ、急にどうしたんだ。


「いい?人それぞれ得意不得意あるけど、敬語は大人になってからも大事だしうんぬんかんぬん……。」


 ヒカル……先輩?が言っていることが本格的におかしい。何があったんだ、この人。


「それは私が説明しよう。」


 最近出番が少ないことを気にしているのか、ボーイッシュ先輩が店に入ってきた。


「ワタクシがチキンとお呼びしましたのぉ!」


 なるほど、ならいいや。チキンとか寒いだろ。まあいいや、そんなことより……。


「だ、だめ……。言わないでぇ!」


 ヒカル先輩が涙目だ。


「どっちにしろ、いつかはばれることだろう。」


 ボーイッシュ先輩はため息をつくように言い放つ。


「私たち三年は、受験などの兼ね合いで、他の学年より休める日数が少ないんだ。」


 はええ。


「でも、ある程度学業でいい成績を取っていたら、出席日数に下駄をはかせてもらえたりもするらしい。」


 なんだ、相変わらずのザルシステムか。一文字変えたら牛乳とか届けてくれそうだな。


「逆に、スポーツの業績などでは、そういったことは少ないらしい。」


 なるほど、これでも学校としては偏差値高めを意識したいわけだな。


「そして、スポーツはできても、勉強はからっきしで、ついでに馬鹿なことをやっては休みまくっている少女がいた。」


 まさか……。


「そう、こいつ本城ヒカルは留年した。」


 そんな……ヒカル先輩の苗字を、初めてきちんと認識した気がする。


「うう……で、でもいいもん。大会とかには出られなくても、部活には居残ってやるもん!」


 だから、敬語を使え、か。


「そうそう、それと、ゴリ先生からこんなのを預かってきてるぞ。」


 手紙だ。


「な、なになに……『部活のために授業をさぼって留年するような子に、部活なんてやらせてあげられると思うなよ、来年は勉強をこそ頑張ろう』……。」


 ヒュウと風が吹いた気がした。


「シュガー、やっぱり敬語とかってのはナシで……。」


「わかりました、ヒカル先輩。」


「ふぎゃああぁ!」


 その後、レイナによるお詫びの会は、いつのまにかヒカル先輩を慰める会になった。





「そう言えば、次期の部長ってどうするんですか?」


 宴もたけなわ、しかしそろそろ切り上げようというとき、俺はそのことに気が付いた。


「それなら、実は結構前から決めていてね。実は、一年生にお願いしようと思っているんだ。」


 マジかよ。


「それも、みんなに人気があって、実力もあり、部への貢献もきちんとしている人だ。二年生も、誰も文句は言わないだろう。」


 もしかして、俺のことか……?や、やだなぁ、新一年生に「部長」とか呼ばれて頼られちゃったりするのか?


「いや、本来は漏らさないべき情報だが、お前ならいいだろうからな。」


 て、照れてなんかいないんだからなっ!


「旦那様、そういうのは趣味じゃない。」


 俺が何をやっていてもたいてい超能力でサポートしてくれるユミコですらドン引きだ。


 そんなことはどうでもいい。副部長は誰にしようかなぁ。先輩たちと決めなくてはいけない。いまからニヤケが止まらないぜ。


「お、気が付いたようだね。」


 もちろんですとも!


「そう、次期部長は……。」


「あら?みんな揃って、こんな個室で何をしているのかしら?私も混ぜなさいよ!」


「お、ちょうどいいところに来たね。そう、次期部長はルナ・ゴールドスター君に、と考えている。」


 えぇ……。


「ふふふ、まあ、私の努力が実を結んだってところかしら。」


 確かにこいつは、入部の時の事件以降、めちゃくちゃ部活に対して真摯に取り組み、先輩からも同輩からも人気が高い。ついでに言うと90気圧の金星で鍛え上げられたその実力は本物だ。


「どうしたんだい?嫌そうな顔をして。」


「具合でも悪いの?」


 さっそく部長ぶりやがって……。いえ……なんでもないです。


「ところでだ。ルナ君は少し努力家すぎる、自分にも他人にも厳しすぎるきらいがあってね。」


 きらい、どころかそれでレーザーが出て来ますけどね。


「そこで、君に副部長をお願いしたい。いいだろうか。」


 そしてなぜそこで俺……?


「いや、先輩方の方がいいんじゃ……。」


 話題にこそ上がらないが、二年の先輩たちもとても優秀でいい方ばかりだ。そんな彼女らでも、自分らの学年が完全にないがしろにされたら悲しいはずだ。


「彼女らに、ルナ君を御せると思うかね?」


 まあ……無理でしょうけど……。


「ということだ、これからのチア部を頼んだよ。」


 こいつを御せとか、nsmgナニソノムリゲー。俺には荷が重い……。


「これからはあなたもチア部をしっかり支えていくのよ!」


 ルナさんもめちゃくちゃ張り切ってるし。


 ピンポン!


 メールが来た。なに?なんかいいニュース?


 友達との連絡はほぼラインのこのご時世だ。メールで来るのはスパムか学校からの連絡ぐらいだ。


『留年警告についてのお知らせ』


 あれ……急に視界がゆがんで目が熱くなってきた……。

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