男子校に入学したはずなのに百合ゾンビがバイオハザードな件

 運よく校門の前に帰ってこれた俺たちが見たのは、世にも恐ろしい光景だった。


「学校が……っ!」


 ユウキが驚がくするのも納得だ。


 後者は、ほとんどの窓ガラスが割れ、校舎内のところどころにバリケードが組まれている。


「おいあそこ、人影があるぞ!」


 目がいいカオリの指さす方を見ると、校舎の中をうろついている様子が見えた。


「あれはもう正気じゃない。」


 遠くでも精神鑑定ぐらいならできるのか、ユミコが断ずる。


「お姉様がいないだけであんなになるとは、お姉様の力は偉大ですわぁ!」


 偉大というか恐怖だけどね。あと、俺のせいにしないでくれる?


「とりあえず、街の方に逃げて通報するか。」


「それが、見て。」


 ヒカルが腕に抱き着いてきたのでそちらを見ると、なんと町まで同じようにぼろぼろになっている。


 ふと、後ろからすごい殺気を感じたので、慌てて振り返ったが、後ろには一緒に異世界から帰ってきたみんな以外いなかった。


 あと、ヒカルさん?腕に何か柔らかいものがふにゅんと当たっていますよ?


「だとしたら、この状況、もしかしてかなりヤバいんじゃないか……。」


 だれか世界を丸ごと修復できそうな人がいればなぁ。そんな人、都合よくいるわけない。


「か……じゅ……き……様ぁ……?」


 はっと後ろを向くと、百合ゾンビがいた。服は破け、虚ろな目で俺の方だけをジーっと見ている。


「危ないっ!」


 カオリが俺を抱き上げつつ地面を回転して着地。しかし、カオリがバランスを崩して俺に覆いかぶさるように倒れた。


「えっへっへぇ百合だ百合だぁ。尊し尊しぃ。」


「な、なっ……!」


 カオリが赤くなって止まる。まさかこいつ、さっきの一瞬の交錯でカオリに足をかけ、しかも俺に覆いかぶさるようにしたのか。


「って、あ、アヤカさん!?」


 よく見ると、このゾンビはアヤカさんだった。


 俺らが異世界に飛ばされる直前に俺らをかばってくれたアヤカさんが、こうも凄惨な姿に……。


「ってことは、マキももうだめだな。」


 ユウリも、一ノ瀬先生を探しに行こうとしていたが諦めた。


「そうだ、姉ちゃんならみんなをもとに戻せるかもしれない!」


 アオイが叫んだ。確かに、この状況を打破できるのはシオリさんの超絶科学力しかなさそうだ。


「そうと決まれば、うちに帰るぞ!」


「みんな、二人で一塊になろう!そうすれば、百合だと勘違いして襲われないかも!」


 ヒカルが馬鹿なのか天才なのかわからない案を出す。


「なら、ウチが空から偵察して、なるだけゾンビの少ない道を教えるから、その通りに動いてくれ!」


 こうして、俺はみんなを連れてうちに帰ることになった。





「次の道は右だ!」


「よし、あとちょっとだ!」


 最後は、俺がカギを開け、みんなで飛び込み、最後に飛び込んだセレスがカギのしめ方がわからなかったようなので、ユミコがさっとカギを閉めた。


「家の中は……普通……だな。」


 とりあえず、荒らされた様子などはない。俺たち総員八人(ユウリはレイナの中に入った。)でトイレに並び、シュールながらも地下に降りていくことになった。警戒のため、最後尾はカオリが、最初は俺が行くことになった。


 もはや懐かしい地下に下り立つと、シオリさんとフウリさんがゲームをしていた。


「いや、何やってるんですか。」


 特に問題がなかった場合の合図として決めていたトイレエレベーターを上階に上げるという作業をしながら、俺は後ろから声をかけた。


「ショタくーん!外は百合百合してるし、私たちも百合しよ?」


 突然シオリさんが抱き着いてきた……が。


「いや、元から狂気じみているので、もはや何が正気かわかりませんが、百合ゾンビにはなってないですよね。」


 百合ゾンビは俺のことを統一してカヅキ様と呼ぶ。それに、語尾がレイナのようになる。クソみたいな判別方法だけどな。


「バレたか……まあいいや、百合百合しよぉ!」


 抱き着いてきたシオリさんを、ようやく降りてきたアオイが蹴っ飛ばす。俺の貞操はこうしてギリギリ守られた。





「それで、そもそもどうしてこんなことが起きてるんですか?」


 シオリさんに一番重要なところを聞く。


「えーっと、それはぁ……。」


 アオイとカオリ、ユミコの超能力により何とか捕獲されたシオリさんに問い詰めると、ちらちらレイナの方を見ながら押し黙ってしまった。


「お師匠様、お願いします。」


「うん。」


「わ、わかりましたぁ、自分で話しますわぁ!」


 レイナが、ユミコの力を使われたくなかったのか、自分から話してくれるそうだ。


「ワタクシが、メイドカフェの指導をするときに、皆様にカヅキお姉様が好きになるように洗脳をしたのが始まりですわぁ。」


 てめぇ……。でも、それだけじゃ何も起きないだろう。


「そう。そして、その時に、洗脳ついでに、お姉様のファンを増やしたくて、あることを言ってしまったのですわぁ。」


「カヅキお姉様に惚れていない人には、自分たちと同じ洗脳をかけるように。と。」


 言葉を詰まらせたレイナの話をユミコが強引に引き継ぐ。


「ってことだから、私にできることは本来ならナッシングなのだよ!」


 シオリさんが胸を張る。


「でも、この人も洗脳の機材調達をした。」


「そっ、それは言わない方向で……!」


 俺はしばらく席を外すことにした。





「ずびばぜんでじだ。もうじばぜん。」


 しばらくして帰ってみると、シオリさんがぼろ雑巾みたいになっていたので、


「じゃあ、交換条件ってどうですか?」


 と天使のような笑みで取引を持ち掛ける。


「それが天使の笑み?」


「うわぁ……。」


「シュガー、それじゃ悪魔だよ!」


 ユミコがばらしてくれたおかげで、セレスとヒカルに引かれたが、今はそんなことどうだっていい。


「ぐすっ……何をすればいいの?ナニでもしてほしいの?」


 相変わらずこの人、おっさん臭いな。


「いいから黙って、洗脳を解く電波を流してください。」


「いい身体持って洗脳をおふっ!?」


 わざとらしい聞き間違いだが、もう文句は言わせん。たまには高圧的でもいいだろう。


「強引なショタ君もまた素敵!」


 しかしシオリさんは、シャワーのように鼻からケチャップを出して、倒れてしまった。おかげで、洗脳解除の電波を流すまでの時間が3時間ほど遅れたが、誤差である。

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