男子校に入学したはずなのに、異世界姫を連れて帰らないといけない件
「ようやく城についたぁ……。」
「もうこりごりだな。」
マタサブロウの体を背負ってへとへとの俺と、特に何も仕事をしていないユウリが城のソファに倒れこむ。大事なことだからもう一度言おう。
500キロはあるうえに切り運ぶこともできない、超やっかいなマタサブロウの体を背負ってへとへとに疲れ切った俺と、特に何も仕事をしておらず、まったくもって疲れていないはずのユウリが倒れこむ。
「私の望んだこととはいえ、重い身体を運ばせて済まない。あと、私はこれから、たまにはその体を使うから、防腐処理を頼むぞ。」
そんなガソリンスタンドの洗車みたいな感覚で虎の防腐処理とか頼まれても困るんだけど。
「ゾンビ化かぁ、コスパもいいよな。ウチも体があればなぁ。」
なんかオカルト話をしているユウリとマタサブロウを置いて応接間に入っていくと、レイナとアオイが半泣きで髪を拭いていた。シャワー上がりらしい。
レイナに話を聞くと絶対に面倒なことになるので、アオイに話を聞く。
途中で泣きが入るので話が長くなったが、要するに、玄武という巨大亀を睡眠薬で仕留めたはいいものの、その亀を使ってすっぽん鍋をしたら、村人はおろか、薬を盛った本人たちまで爆睡して、そのまま外で寝ていた村人全員が風邪をひき、追い出されたらしい。
「病人だぁ!水を早く!」
そう言われながら運ばれてきたのはカオリとヒカル。それぞれ、大の字とひっくり返った昆虫姿で干からびている。
「シュガー、みずぅ……。」
と言われたので、相変わらず近くに寄ってきていたレイナをひっつかまえ、大体の髪の水をヒカルの上に絞ってやる。
「これで満足ですか。」
「敬語いやぁ。」
とりあえず空いたばかりの風呂場に突っ込んでおいてもらった。
さて、今度は明らかにヤクザとかヤンキーとか、いわゆる腕っぷし自慢の仕事をしている男に首輪をつけてユウキとユミコが返ってきた。全員、ちょうどいいタイミングだな。
まず一日、休暇を取ろう。話はそれからだ。
んでもって、異世界での休暇は、女子たちのショッピングに荷物持ちとして参加させられましたとさくそったれ。
荷物持ちぐらいゾンビマタサブロウにでもやらせろよと思ったが、城の人から、街中大騒ぎになるからとNG。一番力の強いカオリは、こんな時に限ってヒカルとセットで全身バキバキでお留守番だし。
珍しいごはんに珍しいブローチ、地球じゃまず見られないような鉱物に、魔術的な意味を持つ怪しげなグッズetc……。
待ちゆく人たちも、人間、エルフ、ドワーフ、猫耳……。
そんな街だからなのかな。このバカ共が買い物しすぎたのは。
「もうこれ以上は持てないぞ。」
両手両肘頭の上と、そろそろ荷物が限界の俺が言うと、
「大丈夫、十分モテてるだろ。ひっひっひっ。」
ユウリにからかわれる。言っとくけど、俺は告ってくれなんて言ってないからな。
……なんか自分がすごく罪な男な気がしてきた。悪い意味で。
「ユウリと何かあったの?」
ユウキがアオイと目配せをしたのちに聞いてきたが、思いっきりしらばっくれる。
「実はユウリは……ちべたっ!」
レイナが口を開きかけたので棒アイスを口に突っ込んでやった。バカな女子特有の無駄にエロい棒アイスの食べ方をしているが、気にしたら負けである。
翌日。
まさかの一日でほぼ全快しているカオリとヒカルをしり目に、俺は全身バキバキで寝込んでいた。
「せっかくの休暇なのに何してるんだカヅキ。」
カオリにたしなめられたが、仕方ない。文句を言えるほど俺の行動は賢くなかった。そもそもこいつらの買い物についていったのが失敗だったのだ。
「そんなことより、早く帰ろうぜ。もう家が恋しい。」
うん。間違いない。帰ったところで暴力幼馴染とか動くトイレとか親友のお姉さん(変態)とかが闊歩しているあの家に帰りたいほど、異世界ではひどい目に遭った。
「それについてなんですが、皆さんにお話があります。」
セレスが待機室から出てきた。なんだよ、帰れないとか言わないだろうな。
「実は、皆さんが帰るためには、ゲートの維持のために王族が一人くぐらないといけないんです。」
へえ……。
「そして、この国の王族で、国を離れられるのが二名しかおらず、どちらがあなたたちについていくかを決めていただきたいのです。」
だとしたら、クーラー使うノリで地球に気候変動を起こすお姫様みたいなのはやめてほしいなぁ。
「その二人っていうのが問題。」
ユミコがセレスの言葉を引き継ぐ。こいつレベルの問題児ってことか?
「一人目はもちろん私です。無理矢理召喚されていった世界とはいえ、あなた方の世界にはそこそこの愛着もあります。それとある程度の常識も。」
「一応聞きますと、どの程度ですのぉ?」
俺が昨日あげたアイスの棒をいまだにしゃぶっているレイナが言ってきた。お前が常識を語るな。お前のは騙っているだけだ。
「魔法が存在しない、個人の都合で気候を変えてはいけない、みさいるというものに触れてはいけない、などでしょうか。」
なるほどなるほど。最後何があった。俺それ知らないぞ。
「ちなみにもう一人お前以外に来るとしたら誰なんだ?」
空気が微妙になりやすい質問を投げてくれたのはユウリだ。こいつ、こういう場所だと本当に頼りになるんだよなぁ。
「私のお兄さんです。弱いくせにちょっと不良が入ってて、つい先日まで東の方で遊び歩いていたそうです。」
どっかできいた話だな……。
「そして、何を血迷ったのか背中には中途半端な龍の刺青まで入れて偉そうにしていたとか。弱いくせに。」
だからここだけ人間が討伐対象に入ってたのか。他のみんなはなぜかすんなり受け入れてたから、俺だけ頭おかしいのかと思ってたよ。まあ要するに捕まえてほしかったってことね。
「ねえブルー、セレたんのお兄さんの手配書の、dead or aliveって、どういう意味?」
俺らは全員聞かなかったことにした。
「さて、では私と一緒に元の世界……日本に戻りましょう。」
「はーい!」
やけに聞き分けの言いみんなとともに、かろうじてこの世界から見た異世界……俺たちの世界でも生きていけそうなセレスをつれていくことになった。
「それではゲートを開きます。お兄様、国王修行さぼったらブッころますからね?」
「し」を抜けばいいってもんじゃないのよ。
さて、こちらの世界では何日もすごしたが、ご都合主義的な理由により、向こうでは数分しかたっていないらしい。それと、ゲートをつなげる場所はセレスが細工をした学校内限定らしいので、俺は女装を整える。
「そういえば、あの百合ゾンビはどうやってみんなを洗脳したんだ?」
「え?何のことですか?彼女らが暴れていたのは、てっきりあなたが何かをしたものだと思っていましたが……。」
マジかよ。
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