男子校に入学したはずなのに、異世界の魔物と戦う件:白虎組

「なあユウリ。」


「なんだ?」


「白虎って、たぶんこいつだよな?」


「たぶん……そうなんじゃないかな?」


 なぜこんなに自信がなさげなのか。


 俺らの目の前には、王冠をかぶり、王さまっぽいコートを羽織り、椅子に座り、あろうことか足を組んで紅茶をたしなむ白い虎がいた。


「これを倒せばいいのか?」


「そうだろ。」


 倒すときは、ユウリのご都合幽霊パワーで遠くから倒すと決めていた。……なのだが、こいつは遠くからだと見えないのだ。


「おお、そなたらもティータイムにするかね?」


 いかにも偉そうな感じで白虎から唐突に声をかけられ、俺は腰を抜かし、ユウリは腰を浮かした。


「あ、いえ、ちょっと、道に迷っちゃって、あはははは。」


 ユウリが乾いた声を上げる。演技下手か。


「なるほど、それなら道を案内してあげよう。背中に乗りなさい。」


 まあ、第一声で「虎がしゃべった!?」などと突っ込まなかったのは及第点だが、それにしてもこの虎……。


 紳士かよ。


「い、いや、さすがに白虎さんにつれていってもらうのは悪いかなーって。」


 俺が言うと、ユウリから小突かれる。しまった。


「なに?私を知っているのか。ならば、私の家も見せてやろう。おいでなさい。」


 これ、人気のない洞窟に連れていかれた後、ガブってやつか……!?


 だが、虎を含む大体の動物は人間より足が速い。逃げ切るのはまあ無理だろう。


「ま、まあ最悪ウチはもう死んでるし。」


「この裏切り者ッ!」


「おい、何をしておるか。さては山道、疲れたな?よかろう。乗るがいい。」


 服の端をパクっと加えられて、背中に乗せられる。こわ……肩から上全部持ってかれたかと思った。


 仕方ないので虎に揺られ、隣を幽霊が浮いて付いてくること約20分。それはそれは立派な家に着いた。


「でっか……。」


「そうか、君は外の世界の人間だったね。ならばこの家は大きく見えるだろう。」


「なっ……!」


 ユウリが声を上げる。


「おいカヅキまずいぞ、外から来ていることがバレているということは、うちらがこいつを倒しに来たことまでバレてるはず。」


「聞こえているぞ。もちろん気が付いているがな。君らは悪くない。この大きな体のためにたくさんの物を食さないといけない私が悪いのだ。」


 なんだろう、ものすごく心が痛む。


「だが、討伐する前に一つ願いがある。」


 肉が食いたい……とかじゃないだろうな。


「私は、堂々と生きたと、仲間に伝えてほしいのだ。」


「仲間……?」


 虎ってそんなに繁殖力強かったっけ。というか、神獣の仲間なんてそんなにごろごろいるのだろうか。


「いや、わずか700年前に会った同志の人間だよ。」


 もう死んでるよ。


「あ、その人なら知り合いだけど……。」


 俺が突っ込もうとしたとき、ユウリが口を開いた。


「なに、外の世界に出ていたのか?」


「いや、どの世界でも、到達するあの世はつながっているみたいでさ。一度と言わず、何度かあったことあるよ。」


 もう勝手にしてろよ、ご都合主義者共が。


「じゃあ、会いに行こうぜ。」


 そう言われて、白虎はうずくまり、ユウリがすうっと消えた。もう帰っていいかなぁ。






 約二時間後。


 待ちくたびれた俺のもとに、ユウリだけ戻ってきた。


「マタサブロウの奴、向こうで暮らすことにしたから体くれるって。」


 誰だよマタサブロウ。いや、あの虎の名前だろうけどさ。主人公である俺がいないところで派手に話を進められても困るんだよね。


「じゃあ、討伐完了っと。


カヅキ、ウチは物持てないから、マタサブロウの体運んでおいてくれる?」


 どこへ消えたご都合主義。しかも大型の虎なので500キロはありそうだ。無理無理。


「それとユウリ、どうするんだ?尺がまだまだ余っているぞ?」


「これから使い道があるから、とっとと運んでくれ。」


 そう言って先に行ってしまう。横暴だ……。あんなにいい人……虎だったのに、今はもう冷たくなっている。だが申し訳ないが切り分けて運ばせていただこうか。


「言っとくが、切り分けようなど考えるなよ。」


「うわっ!」


 耳元で白虎……マタサブロウさん?の声が聞こえる。


「愚か者が。おぬしの仲間も幽霊ではないか。私が出てきても問題あるまい。」


 もうツッコむ気が起きない。


 自分の体だからなのか、少し軽くしてくれて、運べるようになった。動けるようなら自分で動いてほしいんですが。


「それでさ、カヅキ。」


 いつのまにかいなくなっていたユウリが戻ってきていた。


「ちょっと言いたいことがあるんだけど。」


「は、はぁ……今度は何でございましょ。」


「お前が死んだ後でいいから、ウチと付き合わないか?」


「もういいよ、なんでも……ん?今なんて?」


 付き合ってほしいとか言ったか?


「だから、死ぬまでは待ってやる。生きてる間は、他の誰と付き合おうと、結婚しようと、ウチは気にしない。だから、お前が死んだあと、ウチと付き合え。」


 最近、俺のモテ指数が増加しているのだろうか。というか、本当に今年に入ってからなんかおかしい気がする。


 全ては学校を間違えたことが始まりなのはわかっちゃいるけどさ。


「いやいや、待て待て。お前が俺とって、なに、幽霊活動に付き合う的な?」


「違う、男女としてだ。」


 こいつに限ってそんなことないと思っていたが……。


「でもほら、いつもお前レイナに憑いてるじゃん、レイナにばれたら……。」


「あいつはもうウチの気持ちなんて知ってるに決まってるだろ。お前に拒否権はねぇ。」


 ええ……。


「返事はお前が死んだ後に聞かせろ。返事も含めてそれまで待ってやる。」


 スケールがでかすぎる告白だな。


「わ、わかった。でも一応伝えておくと、俺は今のところ誰とも付き合うつもりないからな?みんな友達で仲良く、バカやってるのが楽しいんだ。」


 ユウリは、にやっと笑って、「知ってるよ。」とつぶやいた。なんというか、食えないやつだ。


「それで、そろそろ出発してもらってもいいかね。」


 俺らの空気に置いてけぼりを食らっていたらしいマタサブロウが声をかけてきた。もうなんか……いろいろありすぎだろ。ほんと。


「そうそう、帰ったらフウリにきちんとご飯作ってやれよ。あいつ、飯作れねーから。」


 あ……。


 そういえば、文化祭で会って、そのままウチに来ることになって……。放置していたわ。家に帰りたくないなぁ。でも、カオリもいるから帰らないと殺されちまうし……。


「まずは城に帰るところからだろう。」


 最初に帰るのが城という、なんとも異世界チックな展開にため息をつく。


「これなら、まだ家の方がましか……。」


 どっちがましか、で考えないといけないあたり、終わってるんだけどさ。

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