男子校に入学したはずなのに、文化祭すらもカオスな件:二日目final

「「「さあ、カヅキ?百合カップルコンテスト、誰と出るの!?」」」


 俺は今、カップルの相手役を誰にするかを決めるため、人生最大ともいえる決断を迫られていた。


 もとはと言えば超重度に女子が苦手だった俺のもとに、いろいろな経緯で集まってきた女子たち。


 さらにはその過半数が俺への好意を表明してくれている。普通の男子と普通の女子であれば願ったり叶ったりな状況だっただろう。


 だが、問題は、先ほども言ったようにその男子が女子としゃべることが本来得意ではなかったということ。


 そして全員が、振られたとしたらヤンデレ化しそうなタイプであること。


 普段から包丁とともに生活送るレイナはもちろんのこと、俺のことを生涯の旦那様扱いするユミコ、親友ながらちょくちょく発言がぶっ飛ぶユウキに、おそらく初告白であろうヒカル先輩。


 ヤンデレ化こそしなそうだが、やはり俺に好意を示してくれたアオイと、幼馴染である俺が異性に絡まれているとさぞ楽しくなさそうなカオリ。


 ちなみにルナとユウリは傍観者モードだ。


 委縮しきって倒れてしまった一ノ瀬先生はシオリさんが回収してどこかへ拉致っている。そっちは保健室と反対方向ですよ。あなたOGでしょ。


「あの、そろそろカップル用の台本を作るので、決めていただけませんか?」


 先ほど俺におそろしい闇バイトを笑顔で提示してきた受付のお姉さんからせかされる。


「えっと、それじゃあ……。」


 仕方がない。リスキーだが、この手で行くか。


「お願いする人は決めたが、その人が誰になっても、お前ら、暴れる、壊す、殺す、その他そいつを含む他人を害する行為は一切なしだからな?」


 念入りに念には念を念念したあとに、全員が承諾するのをまってから発表する。心が読めるユミコはもう固まっているが。






「ユウリ、お前にお願いしたい。」


「「「へっ!?」」」


 俺とユミコ以外のその場の全員が予想外だったようだ。当のユウリも。


「な、なんでこのアホ幽霊なんですのぉ!」


「カヅキは、そういうちょっとヤンキー系が好みだったのね!?」


「も、もう一回考え直そうぜカヅキ?」


「たいへんだ!ピカピカが息してないぞ!?」


 予想通り、天地がひっくり返ったかのような大騒ぎになる。


「理由説明もしないと。」


 ヒカル先輩にAEDを取り付けながらユミコが言ってくる。


「あー、ユウリを選んだ理由はな。幽霊だからだよ。こいつなら、誰かには見えるけど誰かには見えない、つまり『いるけどいない』状況を作り出せるだろ?」


「たしかにそうだけどさぁ。」


 本人からもできるって言質をいただいた。


「こうすれば、少なくとも自分の周りの人間が傷つくことはないからでしょう、カヅキ。」


 さっきまで傍観していたルナが口をはさんでくる。


「まあそうだ。ユウリならファンクラブもないし、友達も少ないし、」


「おい。」


「ほかの人とちがって、少なくとも物理的に傷つけられることはないだろ?」


「まあそうだが。」


 自意識過剰になって忘れちゃいけないのが、こいつらも友達同士だということ。つまり俺のせいで傷つくなんて言うことがあってはいけないのだ。


「もちろん。口でいろいろ言われるかもしれない。精神的に傷つけられることがあるかもしれないから、絶対とは言わないよ。」


 ユウリが自分を追い込まないようにもしてやらないと。


 ユウリは、レイナの体からスルーっと抜け出てきて、しばらく目をつむって考えた後、


「仕方ない。いいよ。一番先輩のウチがみんなを守ってやる。」


 と頼もしいセリフをのたまった。






「やっぱり今からでもワタクシが幽霊になりますわぁ!」


 レイナがずっと泣いて、危ないことを言っているので、みんなで取り押さえて包丁を奪ったり、本当の恋人のようにぴったりくっついて歩くユウリを追い払おうとして壁に手を打ち付けたりといろいろあったが、無事みんな、コンテスト応援席に陣取れた。お前ら、応援とかしなくていいからな?


 評価基準はたった一つ。壇上でどれだけいちゃつけるか、らしい。そもそも恋人じゃない俺らにそんなハードルは高すぎるのでテキトーに負けてさっさとほかの人の姿を安全圏から眺めたい。


「おまえらいいか、俺は勝ちたくないし、お前らもそんな俺らを見たくないだろ?だから、余計な応援はするんじゃないぞ?」


 もはや八百長だのなんだの言ってられないからな。


「もちろんだよシュガー……。」


 目を覚まししおらし気なヒカル先輩を見ているとなんか罪悪感もわいてくるが、しかたない。


「ユウリ。ここの生徒たちのなかで、余計な奴にはお前の姿が見られないようにしとけよ?そうすればこの狂った学校のことだ。見える派、見えない派で対立が始まるはずだからな。」


 その対立の間に速やかに負ける作戦である。






「さあ、エントリーナンバー一番!一年と二年によるカップル、カヅキさんとユウリさんです!」


 アナウンスの読み上げに応じて、ユウリと手をつながさせられて壇へ上がっていく。後ろからはレイナの歯ぎしりの音が……。ていうか、ナンバー俺らが一番なの?


「なんでもお二人は、ここ、体育館の倉庫で運命的な出会いを果たし、そこでの密会を重ねるうち、お付き合いすることになったそうです!」


 ちなみに、この設定を考えたのはユミコだ。一番頭がいいうえに、この作戦に一番理解を示してくれた。なんでも、「夫の浮気を笑って許せるのがいい妻。」とのこと。いつの時代だよ。そもそもお前は俺の妻じゃない。


「果たして重ねていたのは密会なのか、それとも身体なのか!?」


 おいアナウンス、あとで覚えておけよ。


 俺らが壇上へ上がるにつれ、ざわめきが大きくなる。会場の端々から、


「ユウリさんの方が見えないぞ。」


「もう片方の子、どこへ行った!?」


 などという声が聞こえてくる。成功だ。


「あーっと、ユウリさんの姿が見当たりません!どこかで腰が砕けているのでしょうか!?」


 ……あれ?何かがおかしい。もちろんアナウンスはすでにかなりおかしいが……


「おいユウリ、何かおかしくないか?」


 作戦では、若干見える人が多いように設定してもらうつもりだったが、見えている人がいないらしい。


「ウチは条件でしか見えるか否かが設定できないんだよ。」


 つまり、設定する条件をミスったってことか。


「ちなみに、どういう条件にしたの?」


「下心がない人と知り合いにだけ見える。」


 あっ、詰んだな。


 大群が体育館の壇上へと押し寄せてくる。


「カジュキ様ぁ!それならワタクシとぉ!」


「カヅキお姉様ぁ!」


 これは怖い。かつてこれを見たユウリが「この世の終わりかと思った」と評したのも頷ける。


「おいユウリ、これヤバいぞ、条件今すぐ変えよう!」


「も、もう無理だ……この世は、この世は終わったんだぁ!」


 お前はもう死んでいるだろ、などと突っ込む暇はない。すでにパニックになっている。


「カデュキしゃぶわぁ!」


 ヤバい、バイオハザードどころじゃない。どんどん囲まれていく。


 おわった……。

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