男子校に入学したはずなのに、後夜祭すらもカオスな件

 俺たちは謎の百合ゾンビと化した学校中の人間に追い詰められ、捕まり、一生を百合としてすごす……ことになりそうなところで助けが入った。


「だりゃあーっ!」


 安っぽい掛け声とともに突っ込んできたのは、なぜかアヤカさんだ。


「ここに咲かすは百合の花。枯らす不躾許すまじ!」


 なんか決めゼリフみたいなのも叫んでいるし。それ絶対あとで布団かぶって「あー!」って叫びたくなる黒歴史になりますよ。


 体育館の壇上に上がってこようとする人たちに、足払いをかけたり足を掴んで漫画のようにぐるぐる回ったりして場所を作っている。おかげでその隙にカオリをはじめとする俺の応援団たちと合流できた。


「何をやっていますのぉ、このアホ幽霊!

 仕方ないだろ、まさかどいつもこいつもここまで煩悩にまみれているとは思わなんだ。」


 こんな催しを見に来る奴らだ。下心満載に決まっているだろう!……と言おうとしたが、そうすると俺も下心組であることになるからやめた。


「きゃぁっ!」


 ついにアヤカさんが足を持たれて、引きずり倒された。短時間ならカオリとも張り合えるあの人がやられるとは……。


「次は私が相手です!」


 アヤカさんを助け起こしながら戦闘に乱入したのは、マキ先生だった。あの人、臆病者キャラじゃなかったっけ?


「かつての友を助けるため、当の本人直伝の技、お見せいたします!」


 マキ先生の口上に、ユウリが顔を赤く(?)する。


「成長したじゃないか。」


「カヅキちゅわぁん!ここは私たちに任せて先に行って!」



 アヤカさんの死亡フラグを背に、言われたとおりに走り出す。体育館を出ると、森が続いている。こんなところに裏山なんてあったっけ?


「カヅキ、危ない!」



 突然、誰かに思いっきり引っ張られた。


 なぜ学校の裏山に住んでいるのかわからないが、オオカミが、一瞬前に俺の頭があったところを空振りならぬ空噛みするのが見えた。いや、本当になんでこんなところにこんなのがいるの?


「どうやらこれはうちらの出番みたいね。」


「すべては旦那様のため。」


 アオイが俺のことを引っ張り、オオカミをユミコがずらしたらしい。


 俺たちは、いつの間にかオオカミの群れに囲まれていた。


「いや、いくら何でもお前らだけでこんなの……。」


「ワタクシもお供しますわぁ!」


 レイナまで包丁を構えてユミコとアオイに並び立つ。


「でも、おまえらそれ……。」


 死亡フラグじゃないか、とは続けられない。どうしよう、この超危ないのに絶妙に気が抜ける感じは。


「今はいつ来るかわからない百合ゾンビから逃げるのが先よ!」


「ウチが先頭を行く。道は切り開いてやるぜ!」


「逃げ切れたって確信できるまでは、たとえ誰が犠牲になっても止まっちゃだめだからね、シュガー!」


 ……そうだ、ここまで俺たちを守ってくれたみんなに報いなくてはいけない。


「いくぞ!」


 アオイ、ユミコ、レイナが後ろにいるオオカミの群れと戦い始める。


「一歩も遅れるなよ!」


 カオリが前側のオオカミを殴り飛ばしながら進んでいく。


「お姉様ぁ!」


「旦那様!」


「カヅキ!」


「「「無事逃げ切れよ!」」」






 おかしい。すくなくとも、何かが起きている。かれこれ三人と別れて20分は走っているのに、学校の敷地の端に辿り着かない。


「どうなってるんだよ!」


 最初にキレだしたのは、やはり我慢が苦手なカオリだ。


「落ち着きなさい!私たちが焦ってどうするの!」


 ユウキも、なんだかんだイラついている。


 ユウリは、さっきからずっと黙っているが、みんなにかばわれた負い目もあるのだろう。


 この状況下でメンタル的に平静でいられているのが、俺とヒカルだけ。かなりまずい状況だ。ヒカルも口数は減ってきているしな。


「ま、前見て!開けているよ!」


 最初に気が付いたのは、冷静さを失っていなかったヒカルだった。たしかに、開けた場所がある。だが、人気はなさそうだ。


「何かいるぞ。」


 カオリが注意を促す。カオリですら注意を払うということは、シオリさん級の化け物に違いない。


「おい、あいつは私ひとりじゃ無理だ。ユウキ、ヒカル、少しは戦えるだろ。どうせゾンビどもの狙いはカヅキとユウリだ。手伝ってくれないか。」


 あのカオリが……手伝ってほしい……だとっ!?


 なんだろう、俺の指の骨を折って命令することしか能のなかった幼馴染の成長を見られた気がして、少しうれしい。


「ええ、好きな人のためよ。」


「シュガーのためならパワー100倍!ってね!」


 でも、二人とも戦闘能力はほぼないはずじゃ……。


「お師匠様直伝の、砂が飛ぶほどの風!」


「え、えっと、スメルが元気出るように応援する!」


 すでに大惨事だった……。戦闘じぇねえよこれ。カオリの足引っ張るぐらいしかできてないじゃん……。


「いいかカヅキ。」


 カオリが口を開く。


「うちは、背中に守るもんがいた方がやる気出るんだよ!」


 何こいつかっこいい。国民的テレビアニメに出てくる、劇場版の時だけやたらかっこよくなるいじめっ子を彷彿とさせる。


「ユウリ、逃げるぞ。」


 幽霊ご都合主義のせいで、触れないし干渉できないユウリに声をかける。


「みんなに言われたろ。誰が止まっても俺らだけは止まるなって。」


 ユウリが黙ってうなずく。


 後ろを振り向くのは三人に失礼だから振り向けなかったが、振り向いていたらきがついたであろう。ここがどこなのか。そして、戦っていたモノたちがなにものなのか。






「悪いユウリ。生身だと、なかなか追いつけなくて。」


 ユウリが青い顔を横に振る。


「いこうか。」


 少し息を整えてから、また走り出そうとした時だった。


「待ちなさい。」


 急に後ろから声をかけられた。


 くそ、尺の句切れ目が微妙になってしまった。

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