男子校に入学したはずなのに、文化祭すらもカオスな件:二日目②

 ウフフフフ、アハハハハ!


 両手に花の状況でそんな笑い声が聞こえてくる日々。いやはや、男子諸君の少ないものがあこがれるだろう。


「楽しいわね、カヅキ。」


「あ、ああ、そうだな。」


「お前も、美少女に囲まれるのは悪い気がしないだろ?」


「はぁ、そりゃあそうだな。」


 なのになぜ返事がこんなに浮かないか。それには理由が二つある。


「なあ、思ったんだけど、外部の人がいられる時間までは男子フォルムでよくないか?」


「ダメダメ、メイド服こそ、カヅキの正装でしょう?」


 一つは格好。俺は別に趣味として女装しているわけではない。さらに言えば、男子の恰好であるのがベストなのだ。


 なのになぜかうちの親友はそれを嫌がる。まあ、女子校に通う上で男子の恰好をした男子に少し気後れするというのは珍しい話でもないだろうし、別に悪く言うつもりはないんだけどさ。


「それとお前ら、素人の俺でもわかるほどに殺気を振りまくのやめないか?」


「そんなことするはずないだろ?『陸上部の美姫』さんならともかく、温厚なうちらが。」


 温厚な奴はこんな殺気を振りまかないが、殺気というのは証明ができない。しいて言うなら、俺らが通る道で先ほどから何人か腰が抜けているくらいだ。


「ならいいけど、死人は出すなよ?」


「そんなの出すわけ……。」


 そこで言葉を区切るなよ。まったく、カオリの影響か、最近みんな狂暴になってきている気がする。


「じゃあ、さっさと周りに行こう!」






 最初に行くことにしたのは、ユミコのクラスだ。結果はどうであれ、昨日はヘリコプターまで飛ばしてもらったしな。


「確か、お師匠様のクラスは縁日をやってるのよね?」


 まあ、ロクな縁日じゃないだろうが……。


 そう思って教室に入った俺たちは全員言葉を失うことになる。


「なんだ……このクオリティ……!」


 中に入った途端、目に入ってきたのは本物の縁日だった。


 天井ではなく星空が、なんちゃってではない、ろうそくの入った提灯が、鉢巻きを巻いたおじさんたちの屋台が見える。


 広間のように大きく見える教室の中央側では、盆踊りもやっている。中央にはやぐらがあり、太鼓をたたいている人もいた。その中心でユミコが祈っていた。


「なにやっているんだあいつ……。」


 15分ほど待っていると、ユミコが下りてきたので、何をしていたか尋ねる。


「超能力の星空。西園寺グループの特殊メイクと商品。」


 つまりこいつは完全に文化祭を乗っ取っていた訳か。


「星空は幻覚だし、おじさんたちはクラスメイトの特殊メイク。」


 何にこだわっているんだか……。


「どうせ偽物なら、より本物らしく見せるべき。」


 確かに、こいつのお母さんが経営しているメイド喫茶もある意味じゃ同じかもしれない。


「それで、さっき祈っていたのは、超能力が切れないように重ね掛けする必要があるとかか?」


「正解。」


 なんちゅうワンマン経営。よくクラスメイトが従ったな。


「ナンパ予防の特殊メイクとSPで手を打った。」


 高校の文化祭にいくらかけているんだか……。


「原価ゼロ円。私の幻術、母の錬金術がメイン。」


 すごいな、いろいろな意味で……。


「ただしSPのための金額3億円。」


 すごいな、文字通りの意味で……。


「それで、昨日はありがとうってことを伝えに来ただけ。」


「旦那様を助けるのは当たり前。」


「ちょっと、お師匠様?弟子のデート中に相手をかっさらおうとするのは大人げないのでは?」


「ふん、今日の書き取りは『NTR失敗』。」


 なんか怖いからここには口を出さないでおこう。そうしよう。


「じゃあ、仲の悪い師弟は置いといて、ウチと駆け落ちと行きますか。」


 二人がけんかしているところに、わざわざ余計なことを言ってアオイが手を引いてきた。


「じゃ、じゃあな!」


 ユミコは持ち場を離れられないらしいが、ユウキはついてきた。


「うん。また。」


 じゃあね、ではなく、また、なのが怖いところだが、そんなことを考えても仕方ない。


「そういえばカヅキ、後夜祭はどうするんだ?」


「なにそれ?」


「マキ先生が言っていたでしょう、後夜祭、すごく荒れるけど一度は出てみるべき、みたいな。」


 そんなことを言ってはいるけど、あの先生が学生時代に出たわけではないと思う。性格的に。


「なら、行ってみるかな。」


「でも、入るのってたしか前々から準備されていたチケットか、当日ボランティアになることのどっちかが必要だったよな?」


「マジか。」


 ボランティアか……嫌な予感しかしない。


「さっきそっちで受付していたわよ。」


「じゃあ、行ってみるか。」






「後夜祭用ボランティア、残り席数少なくなっています!」


 文化祭実行委員的な人がボランティアの募集をかけている。


「すいません、ボランティアの枠まだありますか?」


 俺がきくと、その人はにこっと微笑んで、


「はい、今あるのだと、化学部の治験か、化学部の白い粉を運ぶ仕事か、国際交流部の漁船で隣の隣の国まで行くお仕事がありますよ!」


 どれも人生賭けるタイプのボランティアじゃねえか。あと化学部なにしちゃってるの。


「えっと、安全なのは……。」


「一番安全な体操部の火の輪くぐり百連発は、もうないですね……。」


 誰かこの学校に安全という言葉を教えて差し上げろ。どいつもこいつも頭おかしい。いや、女装して籍がない女子校にわざわざ通っている俺もたいがいだけど。


 しかたない、二日連続でこんなことはしたくなかったが、この人を呼ぼう。


「助けて、シオリおねえ……」


「呼ばれてる途中でジャジャジャジャーン!」


 この人、面倒だけどたいがいのことはこなしてくれるからなぁ。


「今日のショタ君は、後夜祭に入りたいんだね!後夜祭は私もOG会を取り仕切っているからね!つまり、私は後夜祭みたいなもんだね!要約すると、ショタ君は私の中に入りたブフッ!?」


 言わせねーよ。


 この人も下ネタとか性癖とか、そういうのを減らせば顔はいいんだしモテるでしょうに。


「痛い……これが愛……。」


「だれがDV夫ですか。」


「つまり私とショタ君は夫婦ってことでオケ?」


「おい、姉ちゃん?ちょっと面をお貸しくださいやがれ?」


 アオイに気が済むまで殴らせてから、話を聞くと、


「じゃあ、私のチケット上げるよ!」


 というので、それはさすがに申し訳ない。いや、いくら何でも。


「逆に、私の上に座るというのはどうかな!?」


「身の危険を感じるので遠慮します。」


「ショタ君はワガママばかりだなぁ。」


 あなたの出す案もたいがいですけどね。


「仕方がない、あの人に頼もう!」


 シオリさんが他の人に頼むという案を出す。この人に頼られる人って、何者なんだ?


「大丈夫、この程度ならあの人はいくらでも話を聞いてくれるから!」


 なんか嫌な予感がしてきた。

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