男子校に入学したはずなのに、文化祭すらもカオスな件:二日目①
はあ、体が重い……。
文化祭一日目は、それはそれは大変だった。もちろん、とても楽しめたが、予想外のことが多すぎて体がボロボロなのだ。
カオリがうっかり砕いてくれた左手はとりあえずシップでぐるぐる巻きにしており、ヒカル先輩……ヒカルをかばって受けた傷は、ワセリンとサランラップで雑に対処。
体の外側だけでなく、内側は胃だけでなく、ストレスにより食道炎、さらにはのどまで焼けている気がする。
太田胃散だけだと対処しきれるか不安だし、テキトーなアルカリ性の液体飲んどくか。セッケン水とか。
「おはようカヅキ、今日はシフトの後に私とデートよね。」
下駄箱に着くなり朝から上機嫌なユウキが声をかけてくる。その元気、1%でいいから分けてくれ。
「何言ってるんだ。シフト後は、私とデートだよな。」
もはや当然のようにアオイも登場する。
「どうでもいいけど、水酸化ナトリウム水溶液とか持ってない?」
絶賛アルカリ性補給パーティーをしたい。
「どうぞですわぁ、お姉様ぁ!」
レイナが太田胃散をコップで持ってくる。すべての袋をコップに開けてくれたらしい。そんなことするくらいなら、最初に俺へのストレスを減らしてくれ。
「あ、シュガー!」
「おはようござ……おはよう。ヒ、ヒカル。」
どうしてもどもってしまい、そのせいでタメ語と名まえ呼びが目立つ。
「あれ?いつの間にピカピカと仲良くなったの?」
当然アオイたちにも目を付けられる。いっそ殺せ……。
「それはね、昨日私が告モゴモゴして、その時にモゴモゴ合わなくてもいいから、まずはモゴモゴ呼びでって……シュガー!なにするのさ!」
ヤバそうなワードだけでも隠させていただく。レイナの目がキランッ!って光ってたからもうばれた気もするけど。というかバレてるよなぁこれ。
「ヒカル、あまりそのことは人前で言わない方がいいよ。うん、そうしよう。」
「何でよ!私に告白されてタメ語で話して、名まえ呼びするのが恥ずかしいっていうの!?」
あっ、口ふさぎそこなった。
とりあえず体のどこかぐらいは無事なことを祈ろう。南無三……って言ってばかりだとご利益薄れそうだから、たまにはアーメン!
はい、効果は変わりませんでしたとさくそったれ。
「あそこまでボコボコにすることないだろうが……。」
俺は先ほどから体の周りが包帯だらけになっているため上手く動けないが、その元凶を作った人々はなんとも健やかに笑っている。
「だって、カヅキがあちこちの女に手を出していると思ったらなんか腹が立ってしまったんだもの。」
だもの……って、それでここまで殴られる俺が不憫すぎる。
「なら、いっそウチと付き合っちゃうっていうのはどうよ?」
「ワタクシでもいいですわぁ!」
「いや、シュガーとは私が!」
お前ら、とりあえずハーレム臭出しておけば何しても男が喜ぶと思うなよ……。
「まもなく、常楚高校文化祭、二日目が開始いたします。生徒の皆さんは準備をお願いします。」
その声でそれぞれがようやく動き出す。
「そういや、俺って裏方でいいよな?」
「いいわけないわよね?」
「みんなカヅキのメイド服が目当てなんだ。」
もう何でもいいと思うのよ。
そんなことを思ったバチに当たるのは、まさかのシフトが始まってわずか10分後だった。
「おおー!ここは天国でござるか!?デュフッ!」
俺が声のした方を見てみると、どこかで見たことのある顔が列をなしている。
そう、バイト先のメイド喫茶の常連さんたちだ。
「はーいみなさん、こちらですよー!デュフデュフ」
「カレンたん案内ありがとうー!」
「お安い御用ですよー!」
カレン……アヤカさんの源氏名だ。もう嫌な予感しかしない。
「さあみんな、こここそみんなのシャングリラだーっ!」
「デュフーッ!」
昨日は普通だった客が急に10人も増えたら、文化祭なんかだとあっという間にいっぱいになるわけで……。
「アオイ、ユウキ、みんなを呼び戻して!」
厨房もロビーも戦争だ。
「もちろんおさわりとかも禁止だからねー!」
アヤカさんが客をあおるせいで、主に頭悪そうな男の客がさらに集まってくる。たぶん俺の方が成績とかは低いけどな。
「カヅキたーん、ご指名だよー!」
「はーい、今行きまーす!」
ていうか、文化祭で指名なんてあったっけ?
「カヅキ、そんなものはないわよ?」
ロビーに出た俺にユウキの声が追っかけてきた。だが、時すでに遅し。いつものメイド喫茶の皆様がこちらを向いていらっしゃる。
こいつらのせいでバイトモードのスイッチが入っていたからっ!
「あれ?カヅキたん。学校ここなの?デュフッ!」
身バレした……。
「本物だーっ!デュフッ!」
「デュフッデュフッ!これは今日これなかった同志にも伝えなくては!」
お、おわった……いろいろと。
「まて!お前ら、カヅキに手を出そうって言うなら容赦しないぞ。」
「カヅキの身は、私たちが守るわ。」
アオイとユウキが、昨日よろしくメイド軍団を引き連れてみんなでロビーに出てきた。その手に持つ金属バットの用途は怖くて聞けない。
「おお!ツンデレメイドとクーデレメイドだ!デュフッ!」
昨日のナンパ野郎たちと違うのは、誰でもいいと思っているか、メイド……というか俺狙いという確固たる意志があるかだ。これはだいせんそうになるぞ……!
俺が逃げる準備をしていた時、オタク軍団の中でも一目置かれる、「タカさん」とみんなに呼ばれている人が口を開いた。
「吾輩たちを舐めないでほしいでござる。あくまでも吾輩たちはカヅキたんを守るための情報共有をしているだけでござる。身長、体重、スリーサイズに好きなものなどでござる。」
「そんなこと言って、本当はどこかでカヅキを襲うつもりじゃないだろうな!」
「そんなことはないでござるよ。それなら君たちも『カヅキたん情報共有会』に参加するでござるか?」
「「ぜひとも詳しく。」」
もう帰ってくれないかな、オタクどももメイドどもも……。
「ちなみに、親衛隊は参加費月額5000円からでござる。」
タカさんの言葉にみんな財布を取り出して始める。いろいろ怖いんだが。
「デュフ!?親衛隊長、お客さんの列ができているでござるよ!?」
「何!?我々の責任でござる!皆の衆、動くでござる!」
何か一つのことを成し遂げようとするオタクの結束力は凄まじいと聞いたことがある。今日、その噂が真実であるという片鱗を見ることができたことが唯一の収穫だった。
「じゃあ私上がりまーす!」
「この場は拙者にお任せあれ!」
俺はシフトの時間も終わったし、さて、自由……じゃないんだよなぁ。
「カヅキ、この狭い校舎内、そんなに急いでどこへ行こうというのかね!?」
「今日は私とのデートの約束でしょ?」
以心伝心というのは、こういう時にすごく厄介だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます