男子校に入学したはずなのに、文化祭すらもカオスな件:一日目final
体育館の舞台に突入した俺たちを待っていたのは、かつてない大歓声だった。以前大会に出させられたときすらこれほどのインパクトはなかっただろう。
見る人たちの熱気の違いか。
「GO!」
ヒカル先輩の合図で、思わず体が勝手に動き出す。
どんどん曲が進んでいく中に、別の音が混じった。人の話声……?ボーイッシュ先輩の声だ。でも先輩は踊っている。音源に追加されているのか。
「この部活に入ったのは、とある先輩から、しつこい勧誘を受けたからだ。最初は面倒だと思ったし、青春なんてなんだって思っていた。私はみんなと少し違う、はみ出し者だから、どうせ楽しい時間なんて来ないだろうって。
でも、その秘密に気が付いていた先輩や、とある事故でそのことを知っても優しくしてくれた後輩に救われた。本当に楽しく青春できた。うらやむだけのものが手に入った。感謝の気持ちしかないよ。ありがとう。」
その声は絶妙な音量に調整されており、音響は壇の奥側にあるから、客席にはノイズしか届かないだろう。
いや、シオリさんのことだ。そこだけうまく消しているのかもしれない。
そしてその声は、ボーイッシュ先輩だけで終わらず、俺が大会に代わりに出ることになったヤクザの先輩、超小柄なのにやたら馬力のあるあの先輩や、練習後にみんなにジュースを奢ってくれるお金持ちのあの先輩。
今年で卒業する三年生の先輩の全員からのメッセージが込められている。
そして、おそらく最後に来ると踏んでいた、ヒカル先輩からのメッセージだ。
曲もそろそろクライマックス。みんなからはじけるしぶきは汗だけではない。
「今まで厳しくしたり、ワガママをたくさん言ったり、後輩のみんなには迷惑をかけてごめんね。
何を考えているのかよくわからない部長を信じてついてきてくれてありがとう。一緒に踊ってくれてありがとう。
恥ずかしいから面と向かっては言えないけど、みんなのことが大好き。この部活が大好き。
本当に三年間、長い間ありがとう!!」
パァンッ!
予定していたクラッカーは天井からの物だけだったが、後ろの音響の機械からもたくさんのリボンが出てきた。
それだけじゃない。その一本一本に手書きのメッセージが入っている。遠くへ飛ぶ物にはお客さんへの感謝が、すぐ近くに落ちるものには俺たちへの激励だ。
「三年間、ありがとうございました!!」
一番前の列に並んだ先輩たちが、観客席に向かって勢いよく頭を下げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます