男子校に入学したはずなのに、文化祭すらもカオスな件:一日目②
「あははははは。」
前回から引き続き、乾いた笑いを上げ続けるカオリとともに、カオリのクラスのお化け屋敷へと入った。
「いらっしゃいませー、入場料は一人200円……って、カオリちゃん!?」
お化け屋敷に入ると、カオリのクラスメイトと思われる人が、声をかけてきた。ちゃん付けということはそこそこ仲がいいのだろうか。今更だが、幼馴染としてこいつにきちんと友達ができるか不安だったが、まあ一安心だ。
それにしてもお化け屋敷か。TDLにみんなで行ったときぶりだな。あの時はレイナといっしょにそれはそれは酔狂なところに入ったな。最後に脱出が必要だったっけ。
「それじゃ、二人でよろしく。」
俺がそう言って500円玉を渡すと、そのまま奥へ通された。
「おつりは?」
「はい?」
「だから、おつりは?」
「チップって知ってます?」
日本にはチップという文化がほぼないことを知っているか聞こうと思ったが、目が怖かったのでやめた。
「わ、悪いカヅキ。あいつにはあとで返すように説得するから!」
「いや、そこまでしなくてもいいよ。」
カオリの言う説得とは、名ばかりの拷問であるからだ。あいつの場合、素手で何でもできるので拷問に向いている。俺命名、人間アイアンメイデンだ。
「じゃあ、中入ろうぜ。」
「あははははは。」
カオリが再び乾いた笑いを上げ始めた。
「なあ、さっきからどうしたんだ?」
「え?お化けなんて怖くないぞ?そんなもの、存在しないだろ?」
「いや、存在するだろ、ユウリとか。」
なるほど、こいつ、おばけが怖いんだな。自分のクラスの出し物なのに。
「ほら、怖がってないで行くぞ。」
「でも、ここ……!」
カオリが異常に嫌がるので、一つあとのペアが先に行ってから行くことになった。
「ねえここ知ってる?本物が出るらしいよ?」
「そんなわけないでしょー。」
なんだろう、ホラー映画で真っ先に死ぬタイプのモブみたいな会話をしている。
その二人が入ってしばらくして、俺らのスタート時刻。一歩踏み出したタイミングで、悲鳴が聞こえた。
「ギャーッ!」
「ほ、本物!?」
ドドドドドドドドドという漫画のような走る音を立てながら、さっきの二人が引き返してきた。カオリは、一層動きたがらなくなったが、入場料は多めに払ってしまったし、仕方がないから丸太のように担いでやる。
「…めさま…っこ。」
カオリが何かつぶやいた。
「え?超しめ鯖ごっこ?」
痛いからあんまり好きじゃないんだが……。
「お姫様抱っこじゃボケィ!」
カオリの力で殴られ、首が360度回転する。フクロウじゃねーのよ。
「ギャーッ!」
自分で殴ったことで変形した俺を見て悲鳴上げてるし。
「それならそうと言えよな……。」
これ以上逆らうと何をされるかわかったもんじゃないので、素直に持ち方を変えてやる。
「最初からこうすればいいんだよ。」
さも労わるような手つきで俺の首を戻してくれたが、できれば最初からやらないでほしい。怖いから言わないけど。
「それで、本物が出るっていうのはこいつのことだろうな。」
「なんだよ、友達にそのいいかたは失礼じゃないか。」
「ギャーッ!」
案の定ユウリだった。というか、さっきからカオリの叫び声が安っぽすぎて話が頭に入ってこない。
「でも、なんで普通の人にも見えるんだ?」
確か、誰にでも見える訳じゃなかった気がするが。
「そこらへんは、幽霊御用達ご都合設定に決まっているだろ。」
「やめろ、メタい話は皆さまに嫌われるんだよ。」
こいつはここで何しているんだか。
「それがだな、先日、西園寺のお嬢様から通達があってな。」
「なんだ?」
「今日ここで、ある人物と再会できるっていう話だ。タイミングは、ちょうどお前が来たあたりで……。」
そこでユウリが固まる。
「え、今度こそヤバい幽霊でも見つけたか……。」
俺も、振り返って固まることになる。
「まったく、未来の学校の文化祭がどれほどのものかと来てみれば、この程度の物だったんですね……。」
俺たちの一つ後ろのタイミングでやってきた人物も固まる。三人が固まっているところに、そちらに視線をやった。
「ギャーッ!」
そこにいたのは、一瞬しか素顔を見れなかったが、一生忘れることのないであろう顔、この文章を読んでいるすべての人が予想できたであろう人物がいた。
「フウリ!?」
カオリのおかげで硬直が解けたユウリが叫んだ。
「それで、どうしてこんな状況に?」
フウリさんをみて気絶したカオリを、これまたTDLの時同様、俺のトラウマにあふれた保健室につれていき、ユウリと三人で二年生のクラスがやっているカフェに来た。
このテーブルに座っているのが二人か三人か、ひそひそとした口論が聞こえてくる。
「えっと、話せば少し長くなるのですが、良いですか?」
改めてみると、フウリさんもユウリと似て目鼻立ちの整った顔をしているな……。
「ああ、いいぞ。」
少し気をそらした合間に、長い話が入る予定が入ってしまった。これは、尺的にとてもまずい。
「えっと、何から話せばいいのでしょう。実は、記憶と体を当時のそのままに、現世に返されてしまったみたいなんです。」
「なるほど。それで?」
「以上です。」
そこから何があったかとかを聞きたかった上に、長い話をするフリをする人の例に洩れず、一瞬で終わった。
「いや、生き返った後の話を聞きたいんだが……。」
「さっき、この学校の前でです。」
ほんとに以上じゃん。微妙に尺が余る。
「それで?これからどうするんだよ。」
確かに、このままでは住む家もないだろう。というか、一文無しってヤバくね?
「いえ、生前に持っていたお金ならあるので、それでしばらくは暮らしていけそうかと。」
なぜか嫌な予感がしたので、金額を聞いてみる。
「いくら持ってるの?」
「なんと大金、千円です!」
フウリさんの手には聖徳太子が10枚握られていた。やはり戦前の通貨か……ん?
「あのお化け屋敷って……。」
「はい。200円って高すぎですよね。ユウリの気配を感じたので、払いましたけど。」
えー……あの受付、良心ていうものがないのか……。今と昔じゃ、200円の価値が全然違うんだぞ……。
「それじゃ暮らしていけないじゃん……。」
「そうなんですか!?どうしましょう……。」
どこを間違えたんだろう、お先真っ暗じゃん。
「その話、全て聞かせてもらいました!」
今度は俺にとって縁がある、最近出番ゼロのキャラの声がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます