男子校に入学したはずなのに、文化祭すらもカオスな件:一日目①

 俺は、女子という生き物について、誤解していたのかもしれない。


「ねえねえ、そこの君!ちょっといい?」


 俺が今いるところは女子校。文化祭。ナンパ。その言葉を聞いて、皆さんはどんな状況を想像するだろうか。


 多くの人は、学校外部の不埒な輩が学校内部の女子をナンパするものだと思うだろう。だが、少し考えてほしい。


 外からくる人は、基本的にナンパに慣れている強者だ。つまり、女子と話すことに慣れている。何が言いたいかというと、他の場所でも普通に出会いがあるのだ。


 それに比べ、男女の出会いが(本来は)ないここの生徒の方が、必死になるのである。


 いつもはまじめな委員長が、メイド服を着てイケメンに対してアプローチしているのはその必死さからくるのだろう。


 もちろん、メイドコスのクオリティも気合に比例して高くなっている。校長に目をつけられているから気を付けてほしいんだがな……。


「なんか、みんな必死だな。」


「そりゃ、本来であれば同じクラスの人と恋愛なんて、ないからだと思うわ。」


 ユウキが俺の言葉にうなずく。


 一応断っておくが、俺は同性愛を否定しているわけではない。アヤカさんのように、普通の人も……いや、あの人を例に出したのが悪かったが、基本は普通の人なのだ。


 ただ、わざわざ女子校に、となると話は別である。


 俺が言っても説得力なんて欠片もないが、同性愛の人が共学でない学校に入るのは、異性しかいない学校に一人で入学するようなものである、と俺は考えている。


 ……本当に俺が言っても説得力無いな。


「それで?お前らはしに行かないのか?ナンパ?」


 俺がそういうと、アオイから割とガチの鉄拳を食らう。


「仮にも自分に告白した人間に対して、他の男にナンパしないか聞くのはどうかと思うぞ。」


「今のはさすがに私でもフォローしきれないし、したくないわね……。」


 気まずい。そして何となく申し訳ない。


「す、すまん。」


「じゃあ、お詫びとして一緒に文化祭を回ること!」


「もちろん、私も一緒よ。よかったじゃない。両手に花で。」


 ところがどすこい、俺はすでにカオリと約束している。両手に花はまだ別にいいが、後ろから鬼が追いかけてくるのはごめんだ。


「すまん、すでに先約が……。」


「はあ、カオリでしょ、知ってるよ。」


「わざと誘ってみたのよ。そんなにカオリが好きなら付き合えばいいんじゃないかしら?」


 うわあ、めちゃくちゃ怒ってるし……。


「ま、まあまあ。文化祭は明日もあるし、明日は暇だから、明日こそ一緒に回ろう?特別に、いろいろ奢ってやるからさ。」


 そう言って何とか取り繕う。


「はあ……恋愛は先に惚れた方が負けっていうけど、本当なのね。」


 ユウキが色っぽく頬に手を当てる。


「まったく、しかたないよ、これがこいつのいいところだし……。」


 アオイも頬が赤い。


「あ、ヤバい!待ち合わせの時間が近い!」


 時計を見て、俺は立ち上がった。


「カヅキ、そういう雰囲気壊すことはやめよう、そうすればもっとかっこよくなるから。」


「そういうところも、良いところでもあるわよ。」


 そう言って二人は顔を見合わせてため息。俺は、二人に謝罪して教室から飛びだす。


 もう本当に勘弁してほしい。






 ところで、俺の入学式の当時の様子を覚えているだろうか。幼馴染であり、目鼻立ちの整っているカオリにさえ、かわいいと評された事件を。


 今でも、部屋にある鏡に女装中の自分の姿が映ってびっくりすることがままある。おかげで鏡の中の自分とキャッキャウフフできそうだ。しないけど。


 そんな俺が、ある程度女子には慣れているものの、自分で女の子を捕まえたい系男子に見つかると、どうなるか。


「あ、ねえ彼女。ちょっと案内してくれない!?」


 案内、という言葉に対し、ノーと言えないのが日本人のよき心。


「は、はい。どこですか?」


「そうだな。君の教室なんてどうかな?」


「もしくは、君のおうちでもいいよー!」


 あ、これナンパだ。この前も海で似てるのにからまれたな。だが、ここにカオリが現れるとまずい。ここはこの前と違って学校。暴力沙汰になったら、この前のお叱りなんかじゃすまない。


「えーっと、私忙しいのでこれで……。」


「まあそういわずさぁ!」


 腕を掴まれる。女装しているせいか、女子の気持ちが刺さりやすいのか、怖い。あの、いやらしい目つきも、腕に込められた力も、近すぎる距離感も。


 周りの人たちは、絡まれたくないからか、素通りしていく。


 誰でもいいから助けてくれ……。そう願った時だった。


「コラてめぇら!うちらのお姉さまになにしているんだ!」


「今こそ、お姉さま親衛隊の真価を発揮するときですよ!」


 後ろから、頼れる親友の声が聞こえてくる。内容には目をつむ……耳をふさぐが。


「おねえーさまぁー!」


 レイナを先頭とした、クラスメイト達が大量に突っ込んでくる。


「こいつらはうちらが守衛さんに引き渡す!カヅキは先に行け!」


「あとから絶対、合流するわ!」


 空恐ろしいフラグを立てながら、二人はクラスメイト達とともにナンパ男たちを取り押さえにかかった。


 そういえば、今更だが、こいつらバカメイドが何かやらかした時の責任って誰のものになっていたっけ……校長……だよな……?


 俺しーらないっと。






「カヅキ、幼馴染と回る文化祭はどうだ?」


 やたらとご機嫌なカオリが聞いてくる。


「右手が少し使いずらいけど、楽しいかな。」


 俺は、そんな彼女ににこやかに答えて差し上げる。


「左手が使えるんだから、わがまま言わないの!ほら、伸ばしておかないと、骨がずれちゃうよ?」


 俺がカオリとの待ち合わせ場所についたのは、待ち合わせから二秒遅れていた。俺の腕時計は電波時計なので間違いない。


「もう、次遅れたらお仕置きだよ?」


 そう言いながら俺の右腕を骨という骨が小麦粉並みに細かくなるまで加工してくれたのがほんの数分前のできごとだ。


 なにより恐ろしいのは、これでもまだ「お仕置き」に入らない、というところだが、それについては深く考えない方が精神的に健康になれるという結論に達した。


「そ、それよりカオリ、行きたいところとかないのか?」


「うーん、それなら、カヅキの行きたいところでいいよ!」


 なぜか乙女モードなカオリが俺に何かを譲る発言をする。いつだったか水族館に行った時も似たような表情だったな……。


「じゃあ、ここにするか。」


 せっかくなのでカオリが喜ぶだろうと、カオリのクラスの出し物にする。文化祭定番のお化け屋敷だ。


「お前のクラスなんだろ?是非見せてくれ……カオリ?」


 カオリがアハハと乾いた笑い声をあげている。


「ど、どうした?」


「あははははははははは。」


 とりあえず、このままではらちが明かない。俺は、カオリを連れて中に入ることにした。

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