男子校に入学したはずなのに、体育祭直後から文化祭の準備な件
「今更だけど、本当にやるのか?」
「まだ言ってるのか。このクラスで一番できてるのはカヅキなんだ。安心しろって。」
結局、ユリアさんもアヤカさんもセレスもだれ一人として役に立たず、レイナを指導役として始まったメイド喫茶だが、なんだかおかしなことになってきていた。
「でもさあ、今となっては、俺のことをカヅキって普通に呼んでくれるの、お前らだけだよ。」
「ま、まあまあ。私としても、好きな人の魅力にたくさんの人が気が付いてくれるのはうれしいわよ?」
ユウキが空々しい言い訳をする。
何が起きたのか。レイナを指導役とし、体育祭が終わったあたりから、クラスの人たちが
「カヅキお姉様ぁ、バッグをお持ち致しますわぁ!」
という、かなり胃が痛い口調を使い始めたのだ。
「バッグはいいから、そのしゃべり方元に戻らないかしら?」
「レイナお姉さまはこのしゃべり方に統一するようにとぉ!」
お判りいただけるだろうか。自分に対して、ちょっと包丁持って暴れちゃうぐらい好き、というかわいらしい女の子と、同じしゃべり方をするメンバーに一日中張り付かれるのだ。
「そのしゃべり方、一日中聞いていると胃によくないのよ……。」
おかげで最近では太田胃散による出費が痛い。今度アマゾンで箱買いしよう……。
「お姉様、汗をお拭きいたしますわぁ!」
その言葉を聞いて、いつだったかのトラウマを思い出す。
同じことを言って俺の汗を拭いたレイナが、そのハンカチをジュルルルルー、と吸い始めたのだ。
「すまん、お願いだから自分で拭かせてくれ。」
そしてこれ以上俺のトラウマを刺激しないでくれ。
「旦那様。」
「ウオッ!?って、なんだユミコか。」
学校で旦那様はやめてほしい。男だってバレるだろうが。
「この子には何言っても無駄。」
俺の汗を拭こうとして両手両足を俺に絡めてくるクラスメイトを指さす。
「汗から血まで、すべてを吸いつくしますわぁ!」
怖い怖い。焦点が合ってないんよ。
「助けてほしい?」
当然である。
「あんたら、何やってるの?私も混ぜなさいよ。」
どこからやってきたのか、大量に荷物を持った、女好き……男嫌いのルナまで介入してくる。これ以上話をややこしくしないでほしいのだが。
「って、そうよ。私はカヅキに用事があったんだったわ。ちょっと来なさい。」
物陰に引っ張っていかれる。もしかしてまた貞操の危機……?
「こ、これ。あんた用に新しいの作ったのよ。着てみてもいいのよ?」
とてもかわいらしいメイド服が、例の大きな荷物からとりだされた。ルナの自作らしい。とても素人の物とは思えないクオリティーだ。
「これ、すごくかわいいな。試しに誰かが来ている画像とかないのか?」
もはややることは決定みたいだし、せめてのちに見返した時ダメージの少ない徹底したメイドで行こうと決めていた矢先、とってもかわいいものを持ってこられた。
「かわいい物の方が、のちのダメージも少ないよな、うん。」
「あんた何言ってるのかたまに本気でわからないわよね。でも……ウチが着ているのならあるわよ。」
マジかよ。ルナは性格とかレーザーとかを抜けばたいそうかわいらしい顔をしている。しかもそのルナがこんなにかわいいメイド服……。
「言っとくけど、画像はあげられないわよ。見るだけ……だからね?」
その、少し照れて真っ赤になった顔までかわいい。
「だが正妻が現れた。」
ユミコがつけてきていたらしい。余計なのも連れて。
「妾Aも現れましたわぁ!」
さっきのクラスメイトかと思ったら今度こそレイナ。
「お師匠様でも正妻の座は譲れません!真の正妻が現れました!」
「と見せかけて本当の正妻は私でした!」
ユウキにアオイまで……。
「おまえら、正妻だの妾だのって……ていうか、男だってバレるからやめてくれよ。」
「旦那様は黙ってて。」
なんちゅう鬼自称嫁……。
なんだかんだ言って画像は見せてはもらえたが、確かにかわいい。
「こりゃかわいいな。」
「「なっ……!」」
なぜか空気が凍り付く。ルナは顔を真っ赤にして怒り始め、他のメンツも殺気を流し始める。
「あ、あんたね、ほんと、そういうところよ!」
仕方ない。こういう時のために日頃練習していた必殺技を見せる時だ。
「おい、お前ら、そんなことより、あれ!」
大声を出して、人影の奥を指さす。そして、みんながそちらを向いた瞬間に、全速力で逃げる!
「私がいる限りそれは聞かない。」
ゆ、ユミコ……だとっ!?
仕方がないので、俺は走って逃げることにした。
「はぁ、はぁ……。撒いたか。」
「誰を?」
「うーん、殺気を振りまく激ヤバ女子高生軍団だよ。」
「そんなのに命狙われてたの?」
「まあ、俺じゃなくて、お互いの潰し合いをしようとしていたところに巻き込まれただけなんだけどね。」
「それで、いてもたってもいられなくて、幼馴染のところに逃げてきた、と。」
「正確にいうと、誰にも会いたくない気分かn……痛い痛い!」
「ごめん、何が起きたのかよくわからないまま、気が付いたら左手を握りつぶしてた。もう一回言ってくれる?よく聞こえなかったから。」
というかなんでこいつがいるんだよ。俺はすべてから逃げていただけなんだけどな……。
「それと……。」
まだなんかあるのか。
いつの間にか日焼けしたカオリの頬はこれ以上ないぐらい真っ赤になって、急に艶めかしくなってきた。
「ぶ、文化祭、一緒に回らないッ!?」
「いいよ。」
こいつを護衛につけていたほうが俺の身も安全だろう。最近じゃクラスの人にも警戒が必要だし、特にアヤカさんとかシオリさんとかが襲ってきたときはこいつがいないと話にならない。
「ほ、本当に!?」
「こんなところで嘘ついたって仕方ないだろ。俺も、お前と一緒の方が、(安全だから)うれしいし。」
カオリが目を輝かせる。
「ていうか、幼馴染なんだから、そんなのいつものことだろ。緊張することじゃないって。」
俺が言うと、カオリは少しムスッとして、
「そうじゃないんだってば!」
と言う。だが、これは大丈夫な方のムスッだ。ダメな方だと、左手の骨だけでなく命丸ごと刈り取りに来るからな。
「それじゃ、クラスの出し物の方、手伝ってくるよ!」
「おう、行ってこい。」
そして帰ってくるなよ。
「ひっひっひっ、持てる男はつらいねぇ。」
いつの間にかユウリまでいた。
「うるせぇ。大きなお世話だ。」
こうして、波乱に満ちた文化祭が近づいてきた。たまにはラブコメでもやるか……。
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