男子校に入学したはずなのに、体育祭の盛り上がりに欠ける件
その日俺たちは思い出した。ヤツらが近づいていた恐怖を……努力を怠ったが故の屈辱を……。
「それでは、今日から体育祭の練習を始める!それぞれ、競技ごとに分かれ、安全に留意して取り組むように!」
男子校ほどの盛り上がりを見せないのが、女子校の体育祭。もちろん、盛り上がらないわけではないが、それでも今一つ盛り上がりに欠ける気がする。
「カヅキ、お前、自分が何の競技に出るか覚えているか?」
アオイが聞いてきたのは、そう聞かれても仕方がないぐらい、俺はクラスの人と交流が少ないからだ。
先日、一ノ瀬先生に言われた、体育祭の競技を決めるようにという言葉を、比較的クラス委員長とも交流があるユウキに伝えたところ、そのまま委員長に、そして俺が知らない間にできていたクラスの「裏」グループラインに伝わり、いつの間にか決まっていた。
「なあ、俺ってもしかしてハブられるようなこと何かした?」
俺が入っていないそのラインについてアオイとユウキを問い詰めると、こう帰ってきた。
「いや、なんというか、カヅキは人気がありすぎるというか……。」
「ファンクラブの集いというか、女子でもいいと思っている人の集いというか、そんな感じよ。」
と、容量を得ない答えだけが帰ってきて、非常に歯切れが悪いとだけ感じた。
「ま、まあ、ハブられてるならそう言ってくれよ?親友の二人に迷惑をかけるのは忍びないし。」
「いや、それだけはないから安心しろ。」
そんな会話をしたのが数日前の話だった。
「言っておくけど、うちはまだカヅキのこと諦めてないからな。」
「私もよ。隙あらば奪ってやるわ。」
何のことを言っているのか聞こうとしたが、本能がそれを全力で止めてきたためやめた。
「それで、俺は何の競技に出るんだ?」
自分の知らない間で決まっていた競技なので思い入れもクソもないが。
「えっと、『超!早着替え競争!』ってやつ。」
かろうじて早着替えはわかるが、超ってなんだ、超って。
「私とアオイも同じ競技だから安心してね。」
嫌な予感しかしない。
「ちなみに、レイナはパン食い競争、カオリは騎馬戦らしいぞ。」
騎馬戦の勝ちは捨てじゃん。
「三年だと、お師匠様は玉入れ、ヒカル先輩はダンスらしいわ。」
三年は、万が一にもけがなどさせられないので、競技が甘いのだが、ユミコが玉入れって反則じゃね。
「それで、俺ら早着替え競争組は何を練習すればいいんだ?」
「更衣室で着替えの練習でもしてるか。」
俺は制服を抱え、トイレで練習することにした。
こういう時、全部個室の女子トイレは便利だなぁ。
そう考えた俺は、自分が女子校に慣れすぎていることに気が付き、なんか変な気持ちになった。
体育祭当日。
やはり、高校入学前にネットで見た男子校の体育祭に比べると、今一つ盛り上がりに欠ける気がしていたが、チア部のダンスで少し会場が盛り上がったのはうれしかった。
ヒカル先輩のことだから、前日になって連絡をしてくるんじゃないか、と、今までやった曲をシオリさんの地下研究室で練習していたのが功を奏した。
「カヅキ、うるさい!」
ボロアパートなので、カオリにボコられたり、アオイに文句言われたり、ロックのおじさんやヒカル先輩の乱入があるが、それを防げるのが地下の利点である。
「いいですか!?次からは、二週間前には連絡して下さい!」
ヒカル先輩がルナにキレられていたが、あいつはいつもキレているし怖さ半減である。レーザーがなければ。
「次は、『超!早着替え競争!』です!」
あ、呼ばれた。
「カヅキ、行こうぜ。」
「いくわよ。」
アオイとユウキに連れられ、進んでいく。本当に何をするのか知らないんですけど。
あれよあれよという間につれて来られて、少し前に紙があるテーブルと、謎の巨大テント。いやな予感しかしない。
「よーい……ドン!」
なぜか一番手にされていた俺は、これぐらいはわかるのでテーブルの紙を取る。ここまでは一位で独走だ。
「チャイナ……ドレス……?」
俺が紙をもって凍り付いていると、次以降の人がやってきて、紙を確認しながら走っていく。
もしや、コスプレ大会ってことか……?
テントの中に入ると、あたり一面コスプレの山が……。
「ナース服……ナース服……。」
ほかの人たちも次々にやってきて、各々の服を探し始めている。個室はあるし、急がないと……。
チャイナ服は割とすぐに見つかったので、着方の謎さに苦戦しながらもテントを飛び出る。
バシャバシャバシャッ!
何かの会見にでもあっているかのようにすごい勢いでフラッシュの嵐に合う。
目が慣れてくると、よだれを垂らしたシオリさん、レイナ、クラスの人たちがこちらに向けてカメラを構えているのが見えた。
「ご丁寧に髪型までセットさせた理由はこれかよ……。」
だが、これで終わるはず……。目をつむり、前に、ゴールに向かって駆け抜ける……。
はずだった。
ゴインッという音とともに腰をテーブルにぶつける。
「いったぁ!」
気が付くと、グラウンドを半周して元のテーブルに戻ってきている。
「カヅキ!次だ、次!」
アオイの声がスタートラインの方から聞こえる。
え、これで終わりじゃないのかよ……。
俺は仕方なしに、次の紙を手に取る。「バニーガール」。
さあ、地獄の始まりだ!
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