男子校に入学したはずなのに、体育祭のコスプレがマニアックな件

 前回のあらすじ。体育祭の『超!早着替え競争!』でチャイナ服を着た後にバニーガールになることになった。


 バニーガールを着ること自体に、まずは問題があった。コルセットの肩ひもが出てしまうのだ。というか、誰だよ高校の文化祭でこんな企画を通したのは。


 先日校長に怒られた割に、俺でさえ明らかにいかがわしいと思うコスプレを通した奴は頭が湧いている。


「なにこれ。『ご自由にお使いください』……?」


 巨大テントの中の化粧品コーナーに、こだわりたい人向けの様々な色の化粧が置いてある。自分の肌の色を変えたり、いろいろなことに使うのだろう。


「これを使えば……。」


 なんとか肩ひもの色をごまかし、テントを飛び出る。前にも何人かバニーガールやナース、レオタードなどがいたが、俺のところにばかり妨害せんばかりのフラッシュが来る。


「これは反則じゃないのかよ……。」


 俺がつぶやくと、


「あくまでもファンの数ですわぁ!」


 と並走しながら写真を撮るレイナが口をはさんできた。そして俺のバニー姿を連続写真に収めると、どこへともなく消えていった。


 さすがにもうないだろうことを期待していたが、ウチの学校のこの企画を通した人間はその程度の良心すら持ち合わせていなかった。俺のサービスシーンなんてどの読者も喜ばないでしょうに。


「次はなんだよ、クソ。」


 俺が悪態とともに開けた紙には、「白スク」と書いてある。


 ここで、実況が不穏な言葉を放ち始めた。


「さあ皆様ぁ!白スクを引いた人が出たみたいなので、スプリンクラーが作動しますわぁ!」


 どっかで聞いたことのある声だが、知らないし知りたくもない。


 うちの学校はたまにやたら設備がよく、例えばグラウンドが芝生だったり、それを管理するためのスプリンクラーがあったりする。


「そんなもん作動したら……。」


 中学のころ、やたらとエロに詳しい友人が鼻高々に解説してくれたのを覚えている。


「白いスク水って、水にぬれるといろいろ透けるんだぜー。」


 頭の中には「ぜー……ぜー……。」とエコーがかかって聞こえるのは、きっと気のせいだ。


 そして、レイナにそこまでされても俺には秘策があった。


「おそらくあいつのことだ、課題に『裸レインコート』でも入れたんだろう。テントの中にレインコートがあったのが見えていたぜ。」


 白いスク水を主に股具合を気にしながら慎重に履き、小学生用の物を大きくしたような黄色いレインコートを着込む。


「さてレイナさん、お手並み拝見と行きますか。」


 俺がテントを開けた瞬間、


 ザーッ!


 スプリンクラーというより洪水といった方が正しい大水が俺を襲う。ついでに、テントの中でまだ着替えていた数人も洗いだされる。まさしくカオスだが、この程度で脱げるほど日ごろから健全であることに全力を出していない。


「負けるかチクショウ!」


 転がっていたベルトで自分の全身を縛り、レインコートを死守する。中まで当然のように水が入ってきていたので、中は見るも恐ろしい惨状に……。


「誰が俺のサービスシーンなんて欲しがるんだよ。」


「私だぁ!!」


 よだれを垂らし、目をらんらんと輝かせ、よがりながらごつい一眼レフを構えるシオリさんだ。


「ていうか、あなた卒業生でしょ。なに関与しているんですか。」


 俺が突っ込むと、シオリさんはコートの中にどうやって納めていたのか、やたらエロく縛られたボーイッシュ先輩を取り出す。


「むー!むー!」


 黒くて丸い、シオリさんの趣味に合いそうなさるぐつわをかまされたボーイッシュ先輩は、俺に逃げろと合図してくるが、この人からは逃げられっこないしなぁ。


「私がこの子の先輩なのは知っているでしょ。つまり、手ごまとして使っていたのだよ!」


 なんとも迷惑な先輩である。


「ということは、この企画を通したのも、コスプレのお題を決めたのも……。」


「全部私だ!ショタ君が白スク着て濡れ濡れになるシーンを見たかった!」


 おかげさまで半分近い生徒が水に流される大惨事が起きたけどな。


「勝負は、まだ終わっていませんわぁ!もはやコスプレは全部流されてしまいましたから、ゴールした人が勝ちですわぁ!」


 さっきゴールテープの係の人、そうとう下流まで流されていったけどね。


 実況をしているレイナも同じことに思い至ったらしい。


「それなら、より写真を撮られた方が勝ちですわぁ!」


 そう言いながら自分もカメラを片手に俺に向かって突進してくる。


「おねぇーさまー!」


 もちろん俺も逃げるが、反対側からも人が来ている。そして何より、シオリさんが獲物を逃がす気がない獣の目をしている。


「ほぅらおいで。怖くないよぉ。」


 猫なで声を出すシオリさんに捕まり、体に巻いていたベルト、レインコートのボタンをはずされていく。


 このままでは、白スク水にあるものが透けて、俺が男だとばれてしまう。


「ダメッ!見ないでください……。」


 もう、恥ずかしいやら情けないやらで涙が出てきた。シオリさんはびっくりして俺のことを放し、俺は地面に座り込んでしまう。


「お願い……。見ないで……。」


 恥ずかしさで顔が熱くなってきたし、寒くて震えてきた。このままじゃ風邪をひいてしまう。下から見上げると、普段はかわいげのあるクラスメイトも怖く見えてくる。


「うぅ……。」


 俺が困っていると、ブシャーッという音とともに俺の周りにいる人たちが鼻血を吹いて倒れた。


 今度は、あたり一面血の海である。


「その破壊力……さすがお姉様……あっぱれ……ですわぁ……。」


 そういってレイナがかくっとなる。貧血で眠ったようだ。


 俺は血の海の中で一人呆然としているしかない。だってもうこれ、血まみれで見つかった、暗殺者か何かの才能がある子供みたいじゃん。


 とりあえずこれ以上鼻血で汚れないため、あてもなく歩いていると、少し汚れているが、あるものを見つけた。


「これは……ゴールテープ……?」


 俺が探し求めていたゴールテープが、そこにはあった。文字はかすれているが、「早着替え」とうっすら読める。


 それを握りしめ、ただ一人残っていたこの状況でも真面目に採点係をやっているウチのクラスの委員長に見せに行く。


「これが……私が勝った証です。どうか……これで……。」


 こんな状況でもいたって冷静な委員長は、そのテープをよく観察すると、


「ダメですね、これじゃ。これは、『超!早着替え競争!』のゴールテープではありません。『極!早着替え競争!』のゴールテープです。ですが、出場すればこれで優勝扱いになりますよ。」


「絶対やらん。」


 こうして、二時間後、水と鼻血の中を、ゴールテープを見つけたアオイが一位、予備のテープを見つけたユウキが二位になった。何このガバガバシステム。

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