男子校に入学したはずなのに、女子の幼なじみと風呂な件

 俺が理解した事案に、カオリも理解が追いつくようになるまでに、そう長い時間はかからなかった。


「なぁこれ、別々に入るとしても中から丸見えじゃね?」


 そう。ベッドは最悪、1人がソファで寝る、間に仕切りを作るなどの解決方法はいくらでもある。だが、こればかりは解決案が思いつかない。


 ちなみに俺たちは小学校のころ1度だけ同じ風呂に入れられたことがある。理由は忘れたが、その時に恥ずかしさでオーバーヒートしたカオリが暴れて、風呂場をぶっ壊したので、それ以来入ることは無かった。


「お、お前が入っている間、どこかに出かけてようか?」


「その間にホテルの人が来たらどうするつもりだ!」


「じゃあ、俺が目隠しして後ろ向いて、待っていればいいか?」


「そんなこと言って、こっそり目隠しを取るつもりだろう!」


 じゃあどうしろって言うんだ。


 カオリの目が、漫画で言うグルグルした状態で書かれそうなヤバそうな目になってきている。こういう時は逃げた方がいいが、今は逃げられない。なんのギミックもなしにカオリから逃げるのは至難の業だ。


 さらに厄介なことに、この状態のカオリは大抵ろくでもないことを考えつき、それを力業で実行する。今日は何をやらかすつもりだ。


「そ、そうだ!うちが見張っているから、目隠しをして一緒に入ればいい!」


 ほらね、やっぱりしょーもないことを思いつきやがった。


「カオリ、自分が何を言っているか分かってる?」


「もちろん、もちろんだとも!なんでこんな簡単なことをすぐに思いつかなかったんだ!?」


 ダメだ、目が正気のそれじゃない。


「で、でも、目隠しにできるようなタオルがないだろ?結べるような長くて、俺の目をおおえるようなやつ!」


「こんなこともあろうかと、これを持ってきているのだ!」


 こんなこともあろうかと、は絶対に嘘だろ。そんなことを俺に思わせながら、カオリは水で濡らすとゴムみたいになる、水泳用のタオルを出してきた。


「濡らしてくる!」


 もう嫌な予感しかしない。






「カヅキ?目隠し着いてるよな?」


「えぇえぇ、着いておりますとも。強く巻きすぎて頭蓋骨ミシミシ言うぐらいきちんと。」


「そうか、ならいい。……カヅキ?目隠し着いてるよな?」


「えぇえぇ、着いておりますとも。強くつきすぎて頭が圧縮されるぐらいきちんと。」


「そうか、ならいい。……カヅキ?目隠し……」


「だらぁ!何回やるつもりだこのやり取り!」


「暴れるな!目隠しが外れるだろ!それにまだそんなにこのやり取りしていないはず!」


「こんなに何回もやらされたら暴れるわ!どんなに暴れても取れないぐらいきちんと着いてるし、このやり取りは28回した!」


 目隠しをしてからずっとこの調子だ。


「体を冷やすといけないから、先に浸かっていろ。」


 という、2ミリ位の優しさを見せた後、カオリが頭を洗いながらずっとこのやり取りが続いている。


「そんなにはしていない!せいぜい25回程度だ!それに、そのタオルよく考えたら結構前から使っているから、うちの匂いとか染み付いていそうでちょっと恥ずかしいんだよ!」


「そんなタオル使うなよ馬鹿野郎!そもそも、こんな孫悟空の頭の輪っかみたいなの付けられて、そんなの嗅ぐ余裕ねーよ!」


「そんなタオルとはなんだ!出すところに出せば言い値で売れるぞ!」


「おまえ、変な商売に手を出していないよな……?」


 幼なじみとして本気で心配する。と同時に、何だこの胸のモヤモヤは?心配でもないよなぁ。まぁ、今はそれどころじゃないけど。


「そ、そんなわけないだろうがこのバカ!」


 む、殺気!


 慌てて頭を下げると、とても重そうななにかが、頭上スレスレを飛んで行った。後ろの方では、ガシャン!となにかがガラスを突き破る音がする。


「おまえ、何投げた?」


「温泉の周りにある石。」


 ぶつかったら頭がトマトみたいにぐぢゃぐぢゃになるやつだ。もちろん頭じゃなくてもその部分がベチャンゴになるのは免れない。


「ガラスの弁償はお前だぞ。」


 と「カオリが」言う。なんでだよ。


「冗談だって。さっきホテルの人が言っていたが、ものが壊れることがあってもユミコからの連絡通り、弁償は不要らしいから。」


 恐らくユミコの自費負担だろう。今度アイスでも奢ってやるか。割に合わないだろうけど。


「どうでもいいけど、まだ洗い終わらないの?」


「女子の風呂は長いんだよ、バーカ。」


 正確には髪が長いやつが、だろう。というツッコミは怖いからしなかった。


「カヅキー。終わったぞー。」


 しばらくして俺がゆでダコみたいになってようやく、カオリが声をかけてきた。


「ホイッ。」


 カオリが入るのと同時に湯船の外に投げられたので、死ぬ気で着地して頭を洗うことにする。


「そういえばカヅキ、シャンプーハットはなくていいのか?」


 こいつは馬鹿なのだろうか?今まで避けてきたはずの、1度だけ一緒に風呂に入った記憶を自らほじくり返してきた。


「その時のことについては言わない約束じゃないのか?」


「おまえ、見えてなくても顔が真っ赤になるのが分かるぞ。」


「だ、誰が真っ赤だ!風呂に入っているからだろう!」


 そういって、まぁ投げるわ投げるわ。


 さっきみたいな石はもちろん、屋上にある綺麗な庭園のジャリをショットガンみたいにして投げてきたり、俺が1発目を避けた後に当たるように、バスケのスリーみたいに投げてきたり。


 しかしここで、俺にとって不幸な、カオリにとってはめちゃくちゃ不幸な偶然が起きる。


 チュインッ!


 小粒の石を弾丸のようにカオリが弾いたものが、俺の耳のすぐ上を通過した時だった。


 今までの2人の無茶な機動、カオリの荒い使い方に限界が来ていた目隠し用のタオルが、小石によって貫通されたのだ。


 バツンッッ!


 顔面がはじける。顔に巻いてあるゴムが弾けるというのは人生の中でも限られた体験だと思う。もちろん初めてだ。


 目を思いっきりつむり、そろそろと開ける。まぶしい。


 目が夕焼けに照らされた明かりに慣れてくる。もちろんそれと同時に、カオリの、運動によって引き締まってはいるが、それでいて女子っぽさもある体も見えてきた。夕焼けと夜間ぐらいの今の時間帯はカオリの日に焼けた茶髪が映える。


 しばらく2人で硬直した……が、先に我に返ったのはカオリだった。どうなってるのかは知らないが、キワドイところにはきちんと湯気がかかっている。絵になってもコンプラ的にはセーフだが、0.1秒後の俺の顔がコンプラ的にアウトだろう。


しばらくはゾンビ映画の出演依頼がやまなそうだ。南無三。







 恐らく、風呂場が血みどろになっているだろう。そんな予想の元に、私はエレベーターで最上階に行き、マスターキーで部屋のドアを開ける。


 外からは綺麗な夜景が見えるはずだが、私の旦那が血だらけで張り付いているので少し難しそうだ。彼なら、全治2日って所だろう。


「ユミコ、なんでこんな所を……。」


 旦那様が呻くように救いを求めてきたので、私に出来ることは一つだけだ。


 ニマーッと笑って、凶暴系幼なじみと同じ部屋に突っ込んだ理由を教えてあげる。


「面白そうだから。」


「マジ……勘弁……。」


 旦那様がガクッと気を失う。奥でシャワーを浴びている犯人には声をかけない方が良さそうだ。仕方がない。添い寝でもしてあげようか。


 私は旦那様が風邪をひかないよう、水分をふき取ってからベットの中に転がし、隣に自分も横になる。あえて薄着になって、布団で体全体を隠しておこう。


 そっちの方が面白そうだ。

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