男子校に入学したはずなのに、女子転校生に絡まれる件

「リラ先生、逃げて!逃げてーっ!」


「警告、警告、視界に男を確認。排除。排除。」


 体育の時間、本来やる予定だったバレーボールを中断して行われていたのは、担当教員と金髪ツインテ転校生の鬼ごっこだった。


 この話の原因は、約2時間前に遡る。







「なにか、ルナさんに質問のある人はいますか?」


 既にビクビク震えているマンボウメンタルのマキ先生は、おずおずとみんなに尋ねた。


「はいっ!もしこの教室に男がいたらどうなりますかっ!?」


 そんな、色々な意味でスレッスレの危ない質問を投げたのはアオイだ。恐らく、告白の回答を先延ばしにしているのが原因か、最近機嫌が悪い。


「まず、私が気が付かなくても、男がいれば私の髪飾りがアラームを鳴らすわ。そのあと、レーザー攻撃が始まるから、みんなは男がいても安心よ。」


 危ないのはアオイの質問じゃなくて転校生の方か。なるほど理解。ていうか、目の前に男いますけどね。何で鳴らないんだろう。


「ル、ルナさん?体育科など、一部の教員は男性ですけど……。」


 マキ先生が、ハムスターもかくやという震え方で聞いている。そりゃレーザーは怖いわ。


「大丈夫ですよ、先生。」


 さすがに、授業中などは髪飾りのスイッチを切るのだろうか。


「教員であろうと、親であろうと、男はみんな汚物です。消毒してこそ世のためです。」


 想像の斜め上を行く回答をありがとう。


 こうして、この日初めての男性教員の授業の体育で暴れ始めたのだ。


 ありがたいことに、予定の長距離走は無くなったんだけどさ。


 一方、こっちはこっちでやることがある。


「アオイ、ちょっと来てくれないか。」


 昼休み、レイナに空けておいてもらった体育倉庫へ行くと、てきとうなマットの山に腰を下ろした。アオイも跳び箱の上に座る。


「この前の話なんだが。」


「うちがカヅキに告白したことだな。それの返事をようやく貰えるわけだ。」


 とげのある言い方をされたものの、こちらに非がある。文句は言えない。


「遅くなって悪かった。それで、ごめん。俺はまだ、誰かと付き合うとか、そういうことは考えてない。もちろんアオイは、すごく可愛いし、付き合いたいか否かなら、めっちゃ付き合いたい。けど、今は誰かと付き合うべきでないと思うんだ。」


 俺のフィーリング重視の回答には、さすがに怒るかなとも思ったが、黙って頷いてくれた。


「ちゃんと話してくれて嬉しい。ありがとう。もちろん、気が変わったらいつでも言えよ?」


 全く、俺の親友は見た目も性格も出来すぎた、俺にはもったいない良い奴である。


 ガシャァン。


 なにかが落ちる音がした。出入口の方からだ。そういや、ユウキとここに閉じ込められモドキにあったこともあったなとか思いながら、そちらに走った。


「なんじゃこりゃ。」


 音がしたところには、コンクリの床が線上に焼け焦げた跡と、結びあとの着いた金髪が1本落ちていた。





 放課後、まだ少しギクシャクしながらも大体いつも通りになったアオイとユウキと帰ろうとした時、やはりというかなんというか、ルナに呼び止められた。


「ちょっとあんた。学校案内してよ。」


 先生はもう帰ってしまっている。いてもあまり頼りにならなそうだけど。


「じゃ、じゃあうちらも一緒に行くよ。」


「そうよ、カヅキだけじゃ大変でしょう?」


 親友二人の助け舟が、俺の心に入港する。


「こんなの1人でいいでしょう?それに私は、カヅキに相談したいことがあるの。」


 やばい、男だってバレてる!?


 今では、ふたりもこのことを知っているから、それとなく俺とルナを遠ざけようとしているんだろう。


「わ、分かった。行くよ。」


 親友達に心配そうな顔をされながら、恐怖の学校案内がはじまった。


「ふーん、ここが体育館ね。あんた、ちょっと来なさいよ。」


 体育倉庫に連れていかれる。怖い。レーザーの威力ってどれぐらいだろう。貫通しないといいな。


「今日、気がついたことなんだけどさ。」


 俺を先に倉庫に入れ、後ろ手でドアを閉める。どこかで見た光景だと思ったら、カオリに見させられたギャングモノの映画のワンシーンだった。


「ご、ごめんなさい。」


「何を謝っているの。」


「いや、それは、その……。」


「早く言いなさいよ。」


 じゃあ髪を、正確には髪飾りをいじらないでください。いつ何が出てくるかわからなすぎて怖い。


「じ、実は。」


「知ってるわよ!あなたはちきゅ……日本で言う所の、がぁるずらぶなんでしょ!」


……は?


「ちょ、ちょっとタンマ。どうしてそんなことを?」


「昼休みに、クラスのアオイさんとかいう人をここに連れ込んでたじゃない!それに、付き合うのなんのって!」


 あー、良かったのか、良くないのか……。


「ウチは、男女交際は一切認めない主義だけど、むしろ女女交際は大いに進めるべきだと思っているの!」


 は、はぁ……。


「つまりね、告られたら、OKしかないのよ!断るなんて言語道断!なんなら胴体までぶった切って殺りましょうか?」


 なんだろう、「やる」に誤変換が着いた気がする。


「おい待て、なんだお前。お前もカヅキのファンか?」


 すーっとユウリが現れる。隠れていたのだろうか。最近はお世話になってるぜ。


「あんたこそ何よ。ヒトじゃないわね。いいわ。わたしとやろうっての?」


 逃げ場とかないかなぁ。そこまで考えた時にあることに気がつく。


「そ、そういえば、ルナさんはどうしてうちの学校に?」


 みんなビビりすぎて質問を全然しなかったので、こんな不自然な時期に転校してきた理由を聞いていなかったのだ。話題をそらせる。


「え?えーっと、お仕事の関係で……。」


 何かよく分からないことを言っているが、聞かない方がいいのだろう。コンクリの地面を焦がせる髪飾りを持っている女子高生がまともな仕事なわけが無い。


 けれども、話題をとぎらせてはいけない。やばい。


「じゃ、じゃあ、次のところに案内するねー。」


 もはや三十六計逃げるに如かず、だ。


「次は、保健室に案内するねー。」


 焦点が合わず視界がぼやけるのは気の所為である。


「保健室!?いいわね、女の付き合いってのが分かってるじゃない!」


 ちょっと何言ってるのか分からないけど、着いてきてくれるなら御の字だ。


「保健室はこの廊下を……。」


「めんどくさいから読みとるわね。3、2、1、はいOK、分かったわ。行くわよ。」


 えぇ、この人もユミコ系の超能力者なの……。


「違う。」


 体育館倉庫の出入り口から声が聞こえた。


「うわあっ!いるならいるって言えよ。」


「いる。」


 俺は突っ込まん。突っ込まんぞ。


「同じ系統の超能力者だと、お互いの思考は読めないけど、この人の思考は読める。でも、考えている言語が何語か分からない。」


 アメリカからの転校生なら英語じゃないの……?もしかしてユミコもバカなのだろうか。


「英語は理解。」


「何このチビ?あなたの愛人よね?ロリっ子が可愛いのは分かるけど、ちきゅ……日本って、こんな小さな子に手を出すようなところなの?」


 日本文化を誤解させてはマズそうだ。


「この人は先輩だよ!それもふたつ上の!それと、日本はそんな国じゃない!」


「私は正妻。」


 この転校生は、どうやらゆくとこゆくとこで喧嘩を売るらしい。


 もう俺帰っていいかな?


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