男子校に入学したはずなのに、転校生と幼なじみが修羅場な件
以前読んだ漫画や見たアニメでは、主人公は女子に囲まれると、大抵困った顔をしながらもそこそこ喜んでいたものである。それは彼女らが少しぐらい乱暴でも、普段は可愛らしい美少女とか言うやつだったからだろう。
ルナが髪飾りをいじっているのを見て何らかの危険を察知したのか、ユミコはひとまず逃げ出した。しかし、俺はいつの間にかツインテールの片側を手首に結び付けられてしまっていて、逃げられない状況だった。
「全く、興が削がれたわ。さっさと保健室に行ってお楽しみをしましょ。」
よく分からないことを言うこいつを前に、俺は赤べこみたいにコクコク頷くしかない。
「捕まって。」
制服の背中から、ルナがひょいと取り出した丸い板は、ルナが投げると、宙に浮く。
「なんじゃこりゃっ。」
「反重力板よ。ちきゅ……日本人はこんなものも知らないの?」
こんなものが発明されたら、恐らく世界レベルのニュースにはなるだろうから、俺がニュースを見てないせいらしい。チャンネルの権利は全てカオリにあるからなぁ。
ルナがそれに捕まると、まるで無重力かのようにフワッと浮く。
俺もそれの取っ手に捕まると、体が浮いた。
「行くわよ。」
この宙に浮く感覚は何かに似てると思ったら、この前の遊園地の事故だった。
「着いたわよ。」
この前と違うのは、乗り物としては優秀なようで、割と普通のスピードで保健室についた。ドアには札がかかっている。
「教員はもう帰ったお。鍵は空いてるから勝手に使っていいけど、が18禁シーンは禁物だお。」
教師陣の中でもかなり重度の腐女子で知られる保健室の先生はもう帰ったようだ。そういえば、前々から有給がどうとか言ってたな。
「これで誰にも邪魔されないわね。」
ルナは勝手に札を「入室禁止 特別秘密区域レベル5」に架け替えてしまった。こいつはこいつで自由だよなぁ。ていうか、いつ使うんだろう、この札。
「じゃあ、さっそく、そこのソファに横になりなさい。」
厨二病でもある先生が仕掛けた侵入者防止のクロスボウを見ずに避けながらルナはソファを指さす。
「お、おう。」
ソファーには何も仕掛けられていなかったが、女子と、保健室で、2人きりとかいう色々とヤバそうな状況は胃に良くない。
「なぁ、何するつもり?」
「そうね……まずは上を脱ぎなさい。」
どうしようか。「遠慮します。」って言えば離してくれる……わけないしなぁ。
「な、何をするつもりなの?」
「だから、女同士での良さっていうのを教えてあげるわ。」
「なんの!?」
「体に決まっているでしょう?」
そんなのが決まっているのはどこの世界線での話なのだろう。
「私ちょっとそういうのは……。」
「なによ、私じゃ嫌だって言うの?」
「め、め、め、滅相もない!」
自分で言ってて、なんの時代劇のチョイ役だよって思うようなセリフを吐いてしまった。こうやって話しながら退路を探すのは難しい。
多くの学校では、怪我した人が直ぐに入れるように、救急車の利便性や、外からでも中からでも入れるように、保健室は1階に、窓があるように作られている。もしかしたらそういう法律でもあるのかも。
しかし、ここは先生の趣味のため、秘密基地っぽさを出すために、窓は全部塗り固められ、それこそレーザーでもなきゃ傷をつけることすら難しいだろう。
「仕方ないから、下だけでもいいわよ。」
「し、下はもっと……じゃなくて、下もダメだ!」
こっちを見られたら、さすがに男だって隠しようがなくなる。リラ先生と鬼ごっこしているところを見たあとで、あれを再現しようと思うほどMではない。
「いいから動きなさい。私の命令よ。」
ルナの目がサディスティックに細められる。獲物を狩る獣のように。
すると、体が勝手にすっ転び、ソファに横になってしまった。
「はぁい、いい子いい子。」
しかし、救いの神は現れた。
「センセー?またN○RVごっこしてるの〜?」
そう言いながらカオリが入ってきたのだ。ここしばらくで、カオリが現れたことに初めて感謝したかもしれない。
「でべゑぶっごどじでぎゃどぅ!」
カオリに気がついたルナが、白人特有の白い顔を鬼のように真っ赤にして何かを叫んだ。
カオリはカオリで即座に状況を理解し、何かにキレたかのように戦闘体勢に入る。
修羅場というのは、本来はインド神話などで阿修羅と帝釈天が争ったとされる場所であるが、現代日本では主に恋愛関係のもつれなどで起きる非常に居心地の悪い場所を指す。本来の意味では基本使われない。そう、居心地の悪い場所である。
「ぐるぁあ!」
だの、
「ゴロスゴロスゴロスぅ!」
などは決して言ってはいけない花の女子高生が争う場は居心地どうこうの問題ではない。
「ふ、2人とも落ち着け!」
だけどこれ、片っぽだけ止めれば俺がもう片方に殺されるんじゃね?止められないじゃん。
おそらく、今のこいつらに水をぶっかけても冷静にはならない、どころかより一層激化するだろう。それなら、こいつらを1度機能停止にしないといけない。それなら、この前シオリさんに貰ったものが役に立つだろう。
「テッテレー。気体硫酸ボンベー。」
栓を抜き、カオリ達の近くに投げ込み、俺は部屋のすぐ外に隠れる。これは、なんでも溶かす鬼つよの硫酸をどうやってか気体にしたもので、部屋に投げ込んだ後、ドアに貼った青色リトマス紙が赤くなったら完成だ。
お、早速赤くなってきた。そろそろいいかな?
保健室の薄いドアを開けると、雪国であった。いや、これは中のものが全部解けて平地になっているのか?足元には水たまりがある。
中では、カオリが目を回して倒れている。しかし、ルナは無傷だ。こいつの体どうなってるの?
「おい、人間やめ人間のカオリですら目を回してるんだぞ。お前は何もんだ。」
俺がルナに声をかける。すると、ルナの着ている半溶けの制服がモザイクのようになった、かと思ったら、ルナが着ていたのは銀色のウエットスーツだった。
「私は、あなたたちの言う宇宙人よ。金星から来たわ。」
なるほど、ここの先生の同類か。
カオリが復活し、俺を守る位置にたつ。
「なあお前らさ。」
俺は一言言わせて貰うことにした。
「服は?」
殴られた後などにできる腫れというのは内出血の一種であるから、冷やすことにより血管が収縮し、少しはマシになる。
以前、誰かにそう言われたのを地で行くため、水泳部、化学部の協力の元、超冷却プールで水浴びをしている。
「なんでアタシまで入らなきゃいけねーんだよ。」
カオリには、溶けた服が肌を溶かす前にと、超冷却プールに付き合ってもらうことにした。部活着は完全に消滅したので水泳部の貸水着である。
「なんでここはこんなに寒いのよ。」
あくまでも金星人だと言い張るルナは、カオリのように服が解けて無くなっていた訳では無いが、主には俺とカオリの私怨から入ることになった。金星は地球より暑いはずだから、このプールは格別効くだろう。ぜひ俺らだけでなく、こいつにもこの冷たさを味わってほしい。
「あ、そういえばカヅキの水着って……。」
余計なことを言うんじゃない。まさか俺もスク水姿を晒すことになるとは思わなかった。すっかり忘れていたが、「もう1人の佐藤カヅキ」に会う前に女子の体になっていたのを思い出したのだ。
「ところでさ。」
俺はカオリにヒソヒソと話しかける。
「この薬の効果って、いつ切れるのかな。」
「ウチに聞くなよ。知らないぞ。」
ですよねぇ。これ、何日ぐらい続くんだろう。
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