男子校に入学したはずなのに、〇〇と遊園地を楽しむ件⑥
夜の遊園地って言うのは怖ぇな。
走っていて、真っ先に思った感想はこれだ。本来なら人で溢れかえるはずの場所は静まり返っているし、イルミネーションはまるでRPGのボスでも出てきそうだ。それに何より、ハダカデバネズミが飛び出してくる。
まぁ、今回の1件で、しばらくハダカデバネズミを見たくないことは確かだな。観覧車の中心にもでっかいオブジェがあるし、それがプルプル揺れているところから再現度の高さは推して知るべし。
各ゴンドラを見ていくと、その中のいくつかに、人影がある。落ち着いて座っている様子がみてとれた。
「今行くぞちくしょー!」
ここのアトラクションの事だ。どうせ、乗ったら出られないとか、そういうオチが待っているんだろう。俺は乗らずに、アオイだけを助けよう。
観覧車の基盤まで行くと、スタッフは一人もいなかった。客乗っけて観覧車回してるのに、正気かよ。
「アオイー!どこだー!助けに来たぞー!」
回ってくる観覧車のゴンドラをひとつずつ開けていく。
中に人影だ!
「助けに来たぞ、アオ……。」
乗っていたのはセバスチャンだ。白目を向いて舌を出し、ビクンビクンと痙攣している。怖すぎる。
セバスチャンがその顔のままこちらを向いて、のっそりと起き上がり始めた。
「すみません間違えました。」
ドアを閉め、鍵をかけ、ついでに入念に小枝などを挟んでおく。
「くそっ!アオイ!」
中に人影だ!
「助けに来たぞ、アオ……。」
乗っていたのはユリアさんだ。何故かゴスロリの服を着て、観覧車が止まるようにお祈りをしている。止まるわけなかろうが。
ユリアさんを引っ張り出して操縦室に捨て、こちらも入念にドアの隙間に小枝を挟む。
「次こそは当たれよ……。」
3度目の正直である。
一つ一つ開けていると、いくつか目のゴンドラを開けた時に、中から手が出て俺の事を引きずり込んだ。
一瞬セバスチャンを疑ったが、間違いない。この腕はアオイである。
「なんだ?どうした?アオイ!」
アオイの目は先程2人同様、焦点が定まらず、思考も覚束無さそうだ。
「毎度ご乗車ありがとうございます。こちらは、直径100メートルの当遊園地最大のアトラクション、観覧車・オブ・ザ・ドラッグでございます。」
館内放送があるのは良いが、言っている内容がやばそうだ。
「こちらにご乗車のお客様は、まず、ゴンドラの中を散布される美味しい薬を吸っていただき、その後、降りるのを諦めていただきます。どうか、死ぬほどお楽しみくださいませ。」
なるほど、ゴンドラという密閉空間を利用したヤクか。恐らくアオイは、それのせいで出られなくなったんだろう。
足元からはシューッという音が聞こえ始め、同時にゴンドラは段々高くなっていく。
「おいアオイ!しっかりしろ!俺だ、カヅキだ!」
くそ、どうして遊園地でヤクと戦わなけりゃいけんのだ。
「カ……ヅキ?」
良し、アオイが目を覚ました。あとは、こいつを何とかして降りるだけだ!まだ、六分の一ぐらいしか進んでないけど。
「ウチ……は。」
「ここのヤバい薬にやられてたんだよ。頑張って目を覚ませ!寝たら死ぬぞ!」
下手したら雪山より危険度は高い。俺の方も意識が朦朧としてきた。
「起きるんだアオイ!頑張れ!」
ゴンドラはまだ四分の一程度しか進んでいない。遅すぎる。まるで、操縦音痴が操縦しているかのようだ。
「カヅ……キ。ウチ、今日はカヅキに言おうと思っていたことがあるんだ。」
急にゴンドラの速度が上がる。足をもつれさせた俺は、何とかアオイが転ばないようにして背中をゴンドラの壁につける。
ダンッ!
頭のすぐ横にアオイの手がつかれた。
「ウチは、カヅキが男だって知ってから、カヅキの事が……す……き……だ……。」
頭にイナズマでも落ちたかのような衝撃を受ける。1発で目が覚めた。一方アオイは、言うことは言い切ったとでも言わんばかりに寝てしまう。後ろのイルミネーションがアオイの金髪に反射していた。
「お、おいアオイ。俺たちは親友だろ?俺のことは女友達みたいなもんだって思っておいて欲しいんだって。」
そう言いながらも、男友達とは言えない。今のこいつは、やけに色っぽい。自分たちのことを男女として意識してしまえば、そのまま止まらないだろう。
ただ、その前に止めるべきものがある。
加速していたゴンドラはいつの間にかかなり下りを進んでいて、もうすぐ降りるタイミングだ。
「クソ、薬で朦朧としていただけだろ?早く起きろ、やっと降りれるぞ!」
このスピード的に降りれる時間は10秒もない。誰が操縦しているんだ、こんな頭おかしいスピードで。
観覧車はどんどん加速していく。
「起きろ、アオイ!」
肩を叩いても、揺さぶっても返事をしない。このままじゃ本当にマズイ。
「カヅキ?」
反応からして、さっきのことは覚えていないようだ。
「何とかしてここを降りるぞ!まずはドアをぶち破るんだ!」
「まて、外にとび出たらどうするつもりだ。」
急に冷静なマインドになられても困る。
「じゃあ、どうしろと?」
「ウチは、カヅキとなら何周してもいいぞ。」
……はっ!?
「全く、さっき言ってたのが、聞こえなかったのか?今度こそちゃんと言うぞ。
ウチは、カヅキが男だって知った時から、好きになってたんだよ。」
……。
「何とかしてここを降りるぞ!まずはドアをぶち破るんだ!」
「タイムループすんじゃねぇよ!ウチの告白をなかったことにすんな!」
ヤベぇ。想像以上にヤベぇ。多分、薬の影響でお互いに完全に意識している。しかも、ゴンドラは段々と加速している。
「そ、それはとりあえず降りた後にするぞ!」
「人の決意をとりあえずとか言うんじゃねぇ!」
遠心力で地面が傾いて見え、体が重くなってくる。
ブォン!
ゴンドラが一気に振られ、アオイと一緒に反対側へ吹っ飛ばされる。やばい、どんどん早くなってきた。
外のイルミネーションは光の線になってきたし、金具もあちこちギシギシ言っている。
バンッ!
どんどん加速するゴンドラについに耐えきれず、全身が遠心力で地面に押し付けられた。
「うおっ!」
「きゃっ!」
先程の破裂音は、ネジが外れた音なのか、ゴンドラは不安定になり、揺れながら爆速で回転している。
ガゴンッ!
ついにゴンドラは外れ、俺たちは高く打ち上げられた。
観覧車って、呑気に景色を見るものじゃなかったのか。
「アオイ!俺に捕まれ!」
男気の見せ所って奴だ。いくら俺でもこのスピードで地面に叩きつけられたら死ぬし、高い確率でアオイも助からない。だが、自分に告った女子を守るぐらいはして見せなきゃ男が廃る。
アオイの上半身を体全体で包むように庇ってやった。
「ユウリ、もう時間ですわぁ。
分かってるよ、花だけ置かせてくれ。」
ワタクシは、お姉様にお辞儀し、墓石の前を離れる。すると、体が半分だけ抵抗した。
「待った、やっぱりもう少しだけ手を合わせさせてくれ。あまり来れてなかったんだ。
仕方ないですわねぇ。あと少しですわよぉ。」
あの事故以来、ワタクシ達はよくここに来る。本人が来て欲しいというのだ、仕方ないだろう。
「お供えは牛乳。」
喪服に身を包んだユミコも来ていた。ユウキも、後で来るらしい。
「安らかじゃないけど、たまには寝ろよ。」
アオイも、その隣で涙目のヒカルも、みんなが手を合わせている。お姉様の幼なじみ枠のカオリは、この時だけは大人しくなる。
「なぁ、本人の前であんまりしんみりしないでくれるか?」
喋っているのは、私の半身だ。
「仕方ないだろ、どうしたってここは墓なんだから。」
隣にはお姉様が立っている。あぁ、なんて幸せなんだろう。このまま天に召されようと、何の悔いもない。
あの事故の日、お姉様とアオイは、ワタクシとユウリの機転で助かったのだ。お化け屋敷のロケットとパラシュートを、ユミコとユウキの説得により全開で利用し、カオリがフックを投げる……のを、ヒカル先輩が応援する。落ちてきたゴンドラは、シオリさんが直接キャッチした。
けが人は、お姉様が青あざができてしまったのと、シオリさんの突き指だけ。
実質けが人無しで助かったのは、一重に、ワタクシとユウリのおかげなのだ。
「考えたのは全部ウチだっつーの。」
余計な声は聞こえなかったことにする。
お姉様が、助けてくれた人の家を掃除するのは当然ということで、体育倉庫の徹底掃除と、古ぼけた墓の掃除をした。
「誰の墓が古ぼけてるって?」
ワタクシの家はお姉さまコレクションを捨てられると一大事なので丁重にお断りした。
月曜日、全身がバキバキに痛むが、仕方なく女装して学校に行くと、職員室前に人だかりが出来ていた。
「なにかあったのか?」
同じく人だかりに加わっていた、クラスの女子に声をかける。最近じゃ、女子と話すのも慣れたもんだ。
「カ、カジュキしゃまっ!?い、いえ、わたしは浮気などしていませんっ!ただ、敵情視察を……。」
結局、その時は何を言っているのかよく分からなかったが、その日のホームルームですぐに理解することになる。転校生だ。
「自己紹介よね。
私の名前はルナ。アメリカからの転校生よ。好きな物は内緒、嫌いなものは男。
これからよろしく!」
はあ、また厄介そうなのが……。
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