男子校に入学したはずなのに、女子の家でお泊り会の件②

 習字の用意には、少し時間がかかるらしい。ユミコとユウキがやってくれている間、習字素人3人組は雑談タイムになった。


「結局、あの謝罪はどういうことだったんだ?」


 昨晩の自らの行動の記憶が全て飛んでいるアオイが質問した。


「なんでもなかったのですわ……じゃなくってぇ、ワタクシがお酒を間違えて入れてしまったのですわぁ。」


 ごまかしは許さんと、目で牽制しておく。


「あー、何となく覚えてるかも。確か、スピリットとかいう名前の……。」


 一発目からスピリタス飲ませたのかい。あれ、確か度数90%とかだそ。ほぼ純粋なアルコールじゃねぇか。


「お、お姉様ぁ?さすがに、薄めましたわよぉ?」


「たしか、氷を使ってたよな。」


 ロックかよ……。


「それより、ユウキたちのお手伝いをしますわぁ!」


 ユウキが、硯を、ヨタヨタと運んできていたので、持ってやる。アオイは文鎮と半紙を、ユミコは筆と墨だ。


 ちなみにレイナは持っているものが水筒で、中身を飲んでいる。若干アルコール臭がするので、後で体に優しい熱々のコーンポタージュと入れ替えておいてやろう。


 酒を突っ込んで、一気に煽った時に味も温度もいい感じになること受け合いだ。日頃のお礼に、おしるこも混ぜておいてやろう。


「そろそろ準備終わるわよ。」


 ユウキが呼んでくれる。いつの間にか和服に着替えてるし、メチャクチャ似合って可愛い。でも、それ墨飛びません?


「今日書く単語は、『コーンポタージュ酒』。」


 ユミコはニヤァとしている……けど、お前にもなんかしてやるからな。ユウキとアオイの敵討ちだ。死んじゃいないけど。


「カヅキは『やれるもんならやってみろ』にする?」


 失礼しました。


 ユミコの前だとろくなこと考えられない。


 ユミコが解説を始める。


「まず、習字の基本として、大きくわけて文字が3種類あるのは知ってるよね?」


 もちろんですぜボス。


「カヅキ、答えてみて。」


「階書、業書、荘書でしょ?」


「文字が違う。」


 さすが、心が読めるユミコ様!


「これが、楷書、行書、草書。」


「わかった、悪かったから、俺の顔に書くな!」


「今は普通の墨を使ったけど、今日使う墨は洗濯で落ちる。」


 こいつ、習字に関してはよく喋るのな……。


 ……っていう現実逃避にも無理があるよな。これ落ちないのか……。


「落ちる洗剤、ありますわよぉ!」


 ここぞと言うところでレイナが言ってくる。実は、習字やるって時点でこの流れ計画してたんじゃないだろうな?


「お風呂、一緒に入って下さるなら貸して差し上げますわぁ!」


 こいつ、自分の欲望に忠実だよなぁ。怖いまでに。


「そ、それならやっぱりいいかな。」


「入った方がいいぞ、こういう時ぐらい。

さすが、ユウリはいいこと言いますわぁ!」


 なんでこういう時に限ってユウリも口出しするかなぁ。


「ていうか、同性なんだしいいじゃん別に?もしかして、同性愛だったりするのか……?」


 なんとなくわかってはいたけど、やっぱりアオイはユミコとレイナを女装男子だと思っているらしい。


「いや違う!俺は同性愛じゃない!これにはいろいろ事情が……。」


 大声で弁明すればするほど、周りの目が、少数派にも理解を示すよ、という目になる。


 いや待て、女子二人組は何便乗して演技しているんだ。


「仕方ないなぁ、そこまで言うならうちが一緒に入ってやるよ。」


 とアオイが言い出す。


「私だって、親友よ!親友の趣味なんて気にしないわ!」


 ゆ、ユウキまで……。


 だが、冷静に考えるとこれはいい話かもしれない。いくら広い風呂だったとはいえど、5人で入るような広さではない。超小型銭湯ぐらいの広さだったはず。


「わ、わかった。俺はアオイとユウキと入るから、お前らは習字でもしていろ、いいな?絶対に入ってくるんじゃないぞ?」


 必死で抑えたら、恐らく妬いたユミコに硯を投げつけられる。だが、一度やられた技は通用せん!……で、手で受け止めようとしたら左手の指の骨が砕け散った。痛い。


「カヅキ、おまえ、その手、大丈夫?」


 アオイが青い顔で聞いてくる。いや、ダジャレ抜きで。


「いつも(カオリに)やられていることだから、心配すんな。」


 と返すと、ユウキまで青くなる。こっちはダジャレにもならん。


 法的に危険なJKよりも安全なJD(女装男子)のがいいに決まっている。中学のころ、男友達に見させられたちょっとエロいビデオのサラリーマンが言ってた。


 うん、意味が違う気がする。


「入浴剤。」


 ユミコが、ついにあきらめたのかそんな気まで効かせてきた。


 なぜかビンには「王水」って書いてあるから、絶対に入れないけどさ。


「ほら、いつまでもそんな顔でいると肌黒くなるぞ。」


 そういって、アオイが背中を押してくる。ユウキは、いつの間にかレイナから洗剤をスリ取っていたらしい。


「お、おう……。」


 やっぱり緊張するんだが……。


 アオイに背中を押されながら廊下を歩いていく。前にはユウキ。逃げらんねえじゃん。


 あと三つ先の部屋が風呂だ……。


 二つ……。


 一つ……。


 ふらっ……。ばたっ。


 前を上機嫌で歩いていたユウキが、急に酔いでもしたかのようにぶっ倒れた。あたりには、何かのにおいが立ち込めている。


 どさっ。


 背中を押す力が、急に弱まったので、振り向いてみると、アオイも倒れていた。同じように、なにかに酔った顔で。


 再び前を向くと……。


 セ、セバスチャン!


「あ、あんた、二人になにをした!」


「なに、少し眠っていただいたまでです。」


「ふざけるな!二人にもしものことがあったら!」


「大丈夫です。そのための昨日ですから。」


「は?」


「使ったのはこちら。アルコール度数驚異の96%。皆が酔い、消毒にもばっちりのスピリタスの原液でございます。昨日はお二人のアルコール耐性をテストさせていただきました。」


 酒かよ。


「てか、あんたは何者なんだ。こんなところで、何をしている。」


「ユミコお嬢様のご命令でございます。」


 いや、お嬢様って……。


「ご存じありませんでしたか?ユミコお嬢様は西園寺財閥のご令嬢で、わたくしの主にございます。」


 後半の情報は察してたけどさ。


 って、えっ!?


「てことは、あいつ、超お金持ち?」


「はい。そんな方がすべての縁談を蹴って、あなたを連れてきたときは、どう調理しようか悩みましたが、あのお方はああ見えて頑固でして……。」


 何やっちゃってるのあいつ……。てか俺、調理されるところだったの……?


「ゆえに、お嬢様の恋敵は全員お引き取り願っているのです。でないと、修道院送りにされてしまいますから。」


 こえーよ!財閥こえーよ!あと、同性の友達にまで手を出すんじゃねーよ!


……てあれ?


「じゃあ、レイナはどうなるんだ?」


「本人より、いわゆる愛人枠で構わないと。」


 ……。うん。レイナの執念のが怖かった。


「それでは、こちらを差し上げますゆえ、お風呂、ごゆるりとお楽しみください。」


 今度こそちゃんとした入浴剤だ。


「あ、ありがとうございます。

 そういえば、どこの国の方なんですか?」


「わたくしですか?日本人ですよ。」


 じゃあなんでセバスチャンなんだよ、という突っ込みがでかかったが、もう諦めた。


 まだ昼過ぎだけど、全部忘れて風呂入って寝ようっと。


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